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今までに聞いた人

毛利子来さんに聞いた

戦争は「自衛」をキーワードにはじまるもの。
小児科医として、長年、医療の現場に従事している毛利さん。
「子どもの命を守るのが小児科医の仕事。だから戦争は絶対にやめてほしい」
と訴える毛利さんに、平和への思いをお聞きしました。
もうりたねき 1929年千葉県生まれ。東京で小児科医院を開業。
「ワクチントーク全国」元代表、
雑誌「ちいさい・おおきい・よわい・つよい」編集代表、
「ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議」副代表など務める。
予防接種をさせない親は“非国民”!?
編集部 日々、医療に携わっている中で、平和についてお感じになっていることはありますか?
毛利 医者として日々子どもたちを見ていますが、最近こんなことがありました。
僕は予防接種を受けるか受けないかはあくまで個人の意志であるべきだと思うんだけど、40代ぐらいの若い医者が「予防接種を子どもにさせない親は非国民だ」と言うのを聞いてびっくりしたんです。
“非国民”という感覚がまだ生きているんですね。
その言葉の裏にあるのは「予防接種を受けるのは国民の義務だ。国民としてまっさきにみんなのことを考えるべきだ。自分の意思や感情で行動してはいけない」というムードです。
いわゆる“全体主義”ですよね。
戦争に向かっていくときは、そういった日常のささいな場面で、じわじわとにおいがしてくるものなんです。
編集部 戦争体験をお持ちですね
毛利 太平洋戦争が始まったときは中学1年でしたが、翌年の2月、内科医をしていた親父に召集令状が届き、戦争にかり出されていきました。母は早くに病死したので、僕は岡山市に住んでいた母方の祖父母に預けられました。そこで大空襲に遭ったのです。祖母を守ろうと必死で山のほうに逃がしたのですが、逃がした山に焼夷弾が降ってきて、祖母は瀕死のやけどを負ってしまいました。背中が膿み、ウジが湧いて……。
なんとか生き延びたのですが、僕は祖母を守れなかった自分を激しく責めました。
さらにビルマで野戦病院の院長をしていた親父が、敗戦の3日前にパルチザン組織に包囲されてピストルで自害してしまったのです。それで僕は孤児になってしまいました。
ほかにも人が死んでいくところもたくさん見ました。目の前で機銃掃射を受けて吹き飛ぶ幼児の身体、焼けこげた赤ん坊の死体に半狂乱になってしがみついている母親、無数の五体バラバラの死体……。そんな地獄絵図がそこらじゅうにあったのです。
戦争は「自衛」をキーワードに始まるもの
編集部 「憲法9条を改定すべき」という声は、実は戦争体験のない政治家や評論家たちから主に聞こえてきます。どう受け止めていますか?
毛利 僕の世代は同じような思いを実感として持っているはずです。やはり実体験をした世代は、理屈なしに「戦争だけはもう、やめてくれ」と思いますよ。
今の時代の空気は、とても嫌な感じがしているんです。戦争が始まったころを思い出すんですね。
今の論議は、自衛のためには軍隊が必要という論法ですよね。あの当時もそうでした。太平洋戦争前の1941年、「ABCD包囲陣」という経済封鎖がありましたね。(※注:日本がフランス領インドシナに進駐したことへの制裁と拡大政策を牽制するために、アメリカ(America)、イギリス(Britain)、中国(China)、オランダ(Dutch)がおこなった)
日本はその包囲陣に囲まれて、「このままでは国が滅びる。これは自衛の戦だ」と言って戦争を起こしたんです。
実は、日本のほうが先に南方への侵略を始めていたのに。
多くの戦争は「自衛」をキーワードに始まるんですよ。
編集部 「憲法9条を改定すべき」派は何を狙っていると思いますか。
毛利 アメリカへの協力でしょう。国際貢献というけれど、「国際」とは何を指しているのか、集団的自衛権と言ったときの「集団」の質とは何かを、我々は考えなければいけないですよね。
「国際」というのはアメリカを中心とした世界のことだし、
「集団」とはアメリカと日本のことでしょう。
今は日米安全保障条約が集団的自衛権を実質的に規定しているわけですから、改憲の狙いはアメリカと日本の協力ですよ。
アメリカがする戦争行為に対して、日本が軍事力を使えるようにするというもくろみなのですから。
それも昔と似ているんです。日独伊防共協定というのがありまして、僕は当時小学生だったから漠然と「かっこいいな」なんて思ったんだけれど、日本は結局それに引きずられて戦争を始めたんですね。
編集部 改憲の動機はアメリカということですか。
毛利 明らかにアメリカの世界戦略に加担しようということだと思います。
アメリカと共同行動をとれるように、憲法の制約をはずそうということではないでしょうか。
たとえば、イラクに自衛隊を派遣するときに、憲法が邪魔になった。憲法違反にもかかわらず自衛隊を派遣してしまったわけですが、憲法とのズレをつつかれると困るから、憲法を変えてしまった方がいいと考えているわけです。
編集部 経済界の一部も改憲に向かって動き出していますね。
毛利 軍需産業を担うことになる重工業分野の企業にとって、武器輸出禁止や非核三原則は邪魔でしょうがないのです。
戦車も武器もミサイル防衛システムも、巨大な金が動くおいしい商売ですから、彼らはやりたくて仕方がないわけです。日本経済のしくみも含めて考えていかなくてはならない問題ですね。社会保障もガタガタになっているし、根本的に立て直さないといけませんね。
今だからこそ、軍隊よりギターで免疫力をアップさせよう
編集部 9条を変えたい派から「もし他国が攻めてきたらどうするのか」といわれたら何と答えますか?
毛利 僕の人生経験から言って、刃物をちらつかせたら喧嘩になりますよ。刃物を持ち歩くと、身を守るどころか逆に危険な目に遭ってしまうように、軍隊を持った方が危ないのです。それに事実、軍隊があっても、イラクのように侵略されることには変わらないわけです。
ですから、すべての日本人は軍隊を持たないことを誇りにしてほしいですね。よその国に対しても「軍隊を持つのをやめよう」と世界世論を喚起していった方がよっぽど平和が近づくと思います。
もし理不尽に攻めてこられたら、国民 は、なんでも武器にして抵抗しますよ。 現に、中国やベトナムの民衆は、そうして独立を勝ち取ったんです。
医療の立場からいうと、楽しいことをすると免疫力は確実にアップして、場合によっては病が治ったりすることもあるんですね。
こんなことを言うと医者の商売上がったりになるけれど(笑)、僕は治療をするとき、できるだけ薬を使わず、身体の要求に合わせて自然に治すことをモットーにしています。
疲れたら横になる、会社を休みたければ休む、風呂に入りたければ入る。
痛風のおじいちゃんが宝くじにあたって起き上がったなんてこともあるんです。
それと同じように、軍隊を持つよりギターを持って、みんなで歌ったり踊ったりする方が、絶対に平和になると思うんです。
国には、軍隊を持つよりも国民を楽しくさせることをしてほしいですね。
戦争というのは不安な気持ちが作り出しますから、これは大切なことです。
編集部 私たちは個人として何ができると思いますか?
毛利 「どうでもいい。関係ない」とそっぽを向いていると、
いまにとんでもない時代になってしまいかねません。
上から流される情報に頼らないこと。
対等な立場で情報や意見を交換しあうことが大切だと思いますね。
毛利さん、お医者さんならではの視点から、
わかりやすいお話をありがとうございました!
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