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この人に聞きたい
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上原公子さんに聞いたその2

ひとつ一つは小さくても集団になれば大きな力になる

「民主主義の内実というものは、自由闊達な議論の中で初めて保障されるもの」と上原さん。
数の多さだけで“民主主義”が語られてしまうことに危機感をつのらせます。
今後、9条をどうアピールしていくか、についてもお聞きしました。

上原さん
うえはら ひろこ  宮崎県生まれ。
前国立市市長。元東京・生活者ネットワーク代表。国立市景観裁判原告団幹事。1999年より現職。
著書に『〈環境と開発〉の教育学』(同時代社)
『どうなっているの? 東京の水』(北斗出版)など。
『マガジン9条』 の発起人の一人。
市民不在でルールが決まっていくいとへの不安
編集部

現在、上原さんは市長を務めて6年目となりますが、東京都の国立市という現場において、気になっていることはありますか?

上原

なかなか議会のことを言うと、後で批判に使われるので言いにくいのですが(笑)。たとえば、国立では前回「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を選ぶべきだというグループと選ぶべきでないというグループが激突しました。教育委員の中にも市民の運動の中にも賛否があったし、メールや手紙がたくさん寄せられ、大変な状況になりました。だから今年はそういう事態にならないように、「つくる会の教科書を反対する人たちの市役所周辺の運動を規制しろ」などと、事前の取り締まりのようなことを言う議員が出たのです。これはとんでもないことです。どんなに議論が紛糾しようが、行政は自由な議論の場を保障しなければならないし、中身について事前に検閲はできない。市民の自由な意思行動について、市は取り締まれないし、取り締まってはいけないのです。

2004年2月に立川の自衛隊官舎に「イラク派兵反対」のビラを入れただけで逮捕された事件があったのを覚えていますか? 自衛隊官舎といえども普通の団地のような建物で、みんな自由に出入りしていて、たとえばピザ配達のチラシなんか普通に投げ込みするような場所だったのに、反戦のビラを入れた人だけが捕まりました。また2003年に杉並区で公衆トイレに「戦争反対」と落書きした青年が、裁判で懲役1年2ヶ月、執行猶予3年という判決も出ました。

こんな市民の自由を弾圧する社会がもう現実にあるのです。でも多くの人はまだ、「反戦ビラを配ったりするのは、一部の特殊な人たちだ」と思うかもしれない。でもだんだんそれが拡大していくと、『茶色の朝』(*編集部注:「この人に聞きたい」上原公子さん(その1)で紹介)のようにみんな口をつぐんで自己規制するようになってしまうのです。

編集部

ところで選挙から10日が経ち、驚くべきニュースが入ってきました。自民、公明の両党が、憲法改定の手続きとなる国民投票法案について、今回の特別国会に提出することで合意したというものです。これについてどう思われますか?

上原

憲法の改定には国民投票の実施が絶対ですが、これまで日本では国民投票が行われたことがなく、国民投票をどのようなルールで行うかという国民投票法についても、定められていません。言うまでもなく、どんなルールにするか、ということは非常に重要な事柄であり、慎重な議論が求められます。しかし昨年の12月に出された自公案を見ると、改定の方式(逐条なのか、一括なのか)について明らかにされておらず、またメディア規制や投票運動に公職選挙法なみの制限がつくなど、国際常識から大きく逸脱した全く非常識なルールとなっています。もし、こんな国民投票法案がこのまま通ってしまったら、国民は、何がなんだかわからないままに、投票日を迎えてしまうという恐ろしいことになりかねません。

編集部

なぜ、国会においても充分な議論がされていない国民投票法案を、早急に通してしまおうとしているのでしょうか。

上原

今は情報が錯綜している状態ですが、それでも全て与党主導で決めてしまおうという、まさに全体主義が始まったといういやな感じがします。憲法をどうするのか。それを決めるのは国民なのだから、国民投票のルールも私たちの手で決めるというのが本当でしょう。これまで私もメンバーの一人になっている「真っ当な国民投票のルールを作る会」(お役立ちリンク参照)では、市民の側から見たまっとうなルール作りを目指し、勉強会を開き、市民案や要望書を出してきました。これからも活動を続けていき、この大問題にほとんど関心を寄せていないメディアにも働きかけていきたいと考えています。

9条を具体的に伝えていくことが大切
編集部

国会では改憲派が圧倒的になってしまった現在、私たちもそういった勢力に対抗できる強いメッセージを持つ必要があるでしょうか?

上原

実態を見せていく以外ないと思います。改憲派は、9条を変えて「自衛軍」にする、集団的自衛権を認めて、国際貢献を「自衛軍」として派遣するなどと言っていますが、これが武力攻撃事態法と組み合わさったときに、実際どうなるのか。9条が変わったら、現実の私たちの生活がこう変わる、という話を具体的に伝えていくことが大事です。

編集部

いまの護憲政党に対する注文はありますか?

上原

現在ある自衛隊を具体的にどうやって変えるのか。そのプロセスを示しながら「納得できる具体案」を、どんどん提案していく必要があると思います。9条を守る=急に自衛隊を全部なくすようなイメージがあるから、「現実的じゃないよ」とみんなから言われている気がするのです。「私たちは平和を守ります」「9条が大事です」とアピールしたところで、「私たちは平和が嫌いです」「戦争をやります」とは誰も言っていないわけですから。

編集部

そういう状況のなかで、メディアの役割というのは重大ですね。

上原

哲学者でありジャーナリストでもあった久野収さんは、40年前ぐらいに国立市の講演において、民主主義について次のように語っています。「民主主義で一番何を保障しなければいけないのか。“公”と“私”というのは対立する構図になっているけれど、民主主義というのは“私”の部分をできるだけ自由にさせておかなければならない。その“私”の自由とは、“自分の生き方を自分で選んで、自由に発言しながら生きていけること”です。それを公に担保させないと、民主主義というのは死んでいきます。逆に公の権力はできるだけ狭くしておく。これが民主主義の原則です」と。すでにこのころから、久野先生は「(民主主義が)危なくなっている」と言っているわけですが・・・。

数を取ればいいという形だけの民主主義なら、いくらでもあります。しかし、民主主義の内実というものは、自由闊達な議論の中で初めて保障されるものでしょう。

『茶色の朝』のなかでは、ペット特措法を批判し続けてきた新聞社が閉鎖されてしまいます。新聞社も出版社も、宣伝・広告を引き上げられるのが一番弱いわけです。それに武力攻撃事態法の中では有事のときメディアも役目を担わされてしまうので、どんどん情報がコントロールされてしまう。そうなると、私たち自身がメディアをちゃんと持って、発信し続けなくてはいけないということになります。今は、個人が発信者になれるウェブサイトやブログがあるので、それらのツールに可能性を感じています。

スイミーのようになろう
編集部

ところで上原さんは、『マガジン9条』最初の立ち上げメンバーのお一人ですね。立ち上げのきっかけはどんな事だったのですか?

上原

9.11直後に有事法制三法案が出たとき、私はこのままの流れで憲法改悪がされるのではないかという恐怖を感じました。そのときから何か「道具」をつくろうと、私と何人かが中心になって話していました。それを何にするか、具体的に決めきれないときにイラク派兵が本決まりになり、解釈改憲がどんどん進んでいきました。

そこで2004年1月に、イラク派兵反対のアクションを起こすイベントを企画するわけですが、2003年12月21日にインターネットで発信してから、準備期間としては20日間しかなかったのに、当日は全国14カ所で集会があり、東京は日比谷公会堂に2500人ぐらい集まりました。カンパも200万円ぐらい集まりました。

ほんとうにわずかな準備期間だったのに、これだけの広がりを持てたということで、インターネットは、すごい力を持っていると実感したのです。

今後、情報がコントロールされていく危険性を感じていたから、メディアを自ら持ち、若い人に理解してもらえるような感覚で発信したい、そういう道具をつくりたいと思っていました。そして難しい憲法解釈を続けるのではなく、実感をもって憲法9条について市民が語れるような場所。それを、ネットの中に作ってみようと思ったのが『マガジン9条』スタートのきっかけです。

編集部

選挙後、編集部には不安の声と共に、「何かしたい」という前向きな声も多く寄せられています。市民の側はどう動いていったらよいとお考えですか。

上原

みなさんには「スイミーになろう」と言っています。スイミーとは、小さな魚のことですが、小さくても集まれば相手は恐怖を感じるぐらいに大きな「塊」にもなれるし、ばらばらな方向に逃げれば一度につかまえることはできない。つまり自分のできるところで、それぞれの立場、やり方、個性を持ちながら行動を続けていくこと。何かあった時は、みんなが一斉に同じ方向を目指して、大きな流れを作ることができるのです。

そのためには、無関心でいるのではなく、きちんと意思表示をする人たちが増えることが、一番大事なことだと思います。そして分からないことがあれば学ぶ、聞いてみる、意見の交流をする。そういう意味で、『マガジン9条』という場所は、おおいに活用されていいと思います。

インタビューの直後、国民投票法案に関する
重要なニュースが飛び込んできました。
「改革を止めるな」を掲げる小泉内閣によって、
想像以上のスピードでさまざまな法律が
制定されていきそうな怖さがあります。
国民投票法に関する知識や情報の収集について、
私たちは、早急に準備をしておく必要があると強く感じました。
上原さん、ありがとうございました!
ご意見募集!

ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。

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