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この人に聞きたい
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木村祐一さんに聞いた

霊長類ヒト科の絶滅を回避するためにも、「憲法9条」はあった方がいい。

『あらしのよるに』の主人公、ガブとメイの産みの親であるきむら裕一さんは、
子どもとお母さんに大人気の絵本作家です。
9条の持つ意味と今後の役割を、グローバルでユニークな視点から、語ってくれました。

木村祐一さん

きむら ゆういち 絵本・童話作家。
多摩美術大学卒業。造形教育の指導、白鴎短大講師、テレビ幼児番組のブレーンなどを経て、
現在、絵本・童話の創作、戯曲・コミックの原作など広く活躍している。
著書は300冊以上にのぼり、数々のロングセラーは国内外の子どもたちに読み継がれている。
大ベストセラー『あらしのよるに』シリーズは、今冬映画化される。
『マガジン9条』発起人の一人。
http://www1.odn.ne.jp/kimura-yuuichi/

同じ種で殺し合うのは人間だけ
編集部  このところ「9条を変えた方がいい」という声がだんだん大きくなっていますが、きむらさんは、そのことについてどのように感じてらっしゃいますか?
きむら

 何だかんだ言っても日本は平和だし、僕たちはそういった中に育ってきた。だから平和を当たり前のように感じているかもしれない。けれども、“平和”がこれからもずっとあり続けていくものだと思ったら、それは大きな間違い。
 “平和な状態”というものは、人びとがものすごく努力して、工夫をして作り上げ、保っているもの。なぜなら人間というものは、そもそも闘いを好む動物だから。
 人類400万年の歴史の中で、我々が何をしてきたかというと、それはもうずっと戦いと殺戮の歴史です。日本の歴史を見ても、世界の歴史を見ても、どこを見たって殺し合いの歴史があります。権力闘争が繰り返し行われ、莫大な数の人が殺され、殺してきた。
 ところで私は犬の散歩に毎日行くのですが、うちの犬が途中で行き交う犬と、突然ドッグファイトを始めてしまうことがしばしばあります。すごい勢いで激しくやりあっているように見えるから、「このままではウチの犬が殺されてしまう!」と思い、あわてて飼い主同士は必死で引き離す。僕はそのとき、引っかかれたり噛まれたりして血だらけになることもあるのに、当の犬たちはどこも傷を負っていなくて、平気なんだ。ただ威嚇しているだけ。

編集部  オオカミも集団で行動していますが、お互い、殺し合うことはしないそうですね。
きむら  しないですね。犬やオオカミは、相手に腹を見せたら絶対に攻撃しないというルールが、動物界ではペットであろうと野生であろうと、完全に守られていますね。それで思ったのです、殺傷能力の高い動物には遺伝子の中に“同じ種同士は、殺し合ってはいけない”という符号が組み込まれているのではないかと。だって同じ種で殺し合ったら、その種は簡単に絶滅してしまうわけでしょう。 
編集部  しかし人間は同じ種で殺し合っています。
きむら  いつも世界のどこかで、ウサギ同士がこんなに殺し合っているとか、犬同士が殺し合っているとか、聞きませんからね。しかし、動物よりも知恵があると言われている人間同士が、大昔から今に至るまで、延々と殺し合ってきているのです。これは私の勝手な持論なのですが、本来、人間は、トラやライオンのように鋭い爪や牙を持っていないし、動物としては、非常に弱い存在です。殺傷能力に優れていない。だから同じ種で殺し合ってはいけない、というルールが遺伝子の中に組み込まれてはいない。しかし進化することで、石や槍といった武器を持ち、獲物だけでなく、殺し合える能力を持っていった。そしてついに人間は、核を手に入れてしまった。
 そこでようやく、世界で初めて、「武器を持たない、戦争をしない」というルールである9条が登場したのではないかと。種を滅亡させてしまうほどの威力を持つ核に対抗して、遺伝子の代わりに、自らが霊長類ヒト科の存続をかけて、作り出した、「憲法9条」を。 
編集部  今は、核を持つことが、戦争をしない、侵略をさせない、抑止力になっているという時代ですが、実際にこれが使われたらと想像すると、本当に恐ろしいことです。
きむら  当事国の人間だけでなく、まわりの国も、ひいては地球上の大部分が、絶滅してしまうかもしれない。それを知った時に思ったわけ。9条というのは、日本だけのものではなく、世界というか地球規模で必要なものとして、存在しているのではないだろうかと。 
国際間の対立は、子供のケンカと本質は変わらない
編集部  きむらさんがお書きになる絵本の中にも、平和に対する想いやメッセージが織り込まれているようですが。
きむら  それは創作する時には、あまり考えないですね。それをやると、話がつまらなくなりますから。ただ、出来上がった作品が、読み手によってそう見られることはありますね。例えば『あらしのよるに』は、オオカミとヤギという、いわば天敵が仲良くなる話だから、絶対に相容れないと思っていた国同士でも個人レベルで、特別な条件が生まれたら「仲良くなれる」ものだよ、という風にも受け止められる。それを意図して書いたわけではないけれど、そういう話って実際によくあることでしょう。
 私はあまり新聞とか読まないから、国際情勢について、細かい事情とか情報についてはわからないのだけれど、国と国の間の対立というものは、近所の商店街同士の勢力争いというか、人気競争みたいなものと本質は一緒じゃないかなと思う。あと、子どものケンカにも例えられるよね。子どもってあまり相手の気持ちや立場を思いやることができないから、自分のやりたいことばかり言う。そういう風に考えると、日米安保というものがあるけれども、アメリカは日本を絶対に守らないだろうね。面倒見のいいガキ大将もいるけれど、アメリカはそうじゃないでしょう。
編集部  アメリカと日本は、ドラえもんのジャイアンとスネ夫の関係にも例えられますね。
きむら  現実的に考えても、アメリカは日本を本当に守るかな? それは幻想だろうと思います。ミサイルがどこからか飛んでくるかもしれない。これは可能性があります。アメリカの基地が日本にはあるから、そこを攻撃されるという意味で。そうした時に、アメリカは何を考えるか。アメリカは本土を守ろうと考えるでしょう。日本なんて二の次ですよ。
 攻撃されたくないのなら、子どものケンカのように考えたら、「あいつをやっちゃまずいよ」という存在になればいいんです。あいつ、武器を持ってないのに、手をあげたらまずいよ、という存在になるのが一番かしこいやり方です。いわゆる、赤十字のマークですよね。赤十字のマークを付けていれば、戦場にいても撃たれることはほとんどない。これからは、9条をシンボライズして、9条マークを付けている国民は、絶対に攻撃するべからずという、国際的な共通ルールを作り、アピールする。それこそが、一番強力な自衛手段だと思います。
編集部  そういう論理は古くて、現状の国際社会にはそぐわないという意見もありますが。
きむら  というけれども、自衛隊にどれだけお金をかけても、こんな時代になってしまったのだから、たかが知れています。というか、キリがない話でしょう。中途半端に武器を持つくらいなら、徹底的に持たない“丸腰防衛”のほうが強力です。それとも、日本も核を持ちますか? それともいっそ、日本がアメリカの州の一つになってしまうか。世界最強の軍事力を持つ、アメリカの一部になれば、安心じゃないですか。チーマーも、こっちのチームとあっちのチームに分かれているから戦うのであって、一つのチームになってしまえば、戦う必要もなくなりますからね。
編集部  なるほど。今後の日本の防衛は、9条を活かした丸腰防衛か、核を持って人類滅亡に加担していくか、アメリカの一つになるか。憲法改定の国民投票は、この三者択一でいきましょうか。
日本国憲法は、莫大な数の戦死傷者の上に、ようやく日本国民が
手に入れた平和と自由の象徴です。今、これを捨ててしまったら、
次はどれほどの犠牲を払えば取り戻すことができるのでしょうか。
「人類滅亡の歯止めが9条」。選挙の後、きむらさんの言葉が、
さらにリアリティをもって聞こえてきました。
きむらさん、ありがとうございました。
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