戻る<<

伊藤真のけんぽう手習い塾:バックナンバーへ

伊藤真のけんぽう手習い塾

070912up

「国際化の急速な進展」が叫ばれる昨今。
日本国内にいても、さまざまな国からやってきた人と、あるいはモノと、
無関係に暮らしていくことはもはやできません。

いとう・まこと1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。近著に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)。法学館憲法研究所所長。法学館のホームページはこちら「伊藤真のけんぽう手習い塾」から生まれた本です。
集英社新書より絶賛発売中!

※アマゾンにリンクしてます。

※アマゾンに
リンクしてます。

第51回:外国人問題を憲法から考える

報道が“ある国”のイメージに与える影響

段ボール入り肉まん事件などの中国産食品に関する一連の報道が引き金となって、日本の中国地方の食品会社が倒産しました。中国食品工業という社名が原因です。週刊誌に「中国産食品」ではなく「中国食品」が危険という特集記事が載って以降、抗議や問い合わせが増え倒産に追い込まれてしまったそうです。

とんだとばっちりですが、ある事件をきっかけに一斉に集中的に叩く、つるし上げるリンチ体質は日本の特徴なのでしょうか。被疑者、被害者の報道被害もかねてから指摘されているところです。ただ、今回の中国産食品の問題は、潜在的にあった中国に対する感情が顕在化したものと見る意見もあるようです。

今回の報道に限らず、外国や外国人に関する報道は、事件との関係で論じられるものが多いため、どうしてもその国や国民に対してネガティブな印象を持ってしまう傾向にあるようです。こうした事件は、報道のあり方やその影響力を考える重要なきっかけにもなります。

モンゴルといえば、従来なら、ホーミーや馬頭琴、満天の星空、そしてチンギス・ハーンを思い浮かべましたが、先月は朝青龍問題で持ちきりでした。「やっぱり外国人力士は・・・」という見方もあるようですが、私はどうしても、こうした問題を憲法から見てしまいます。憲法の観点からこの問題をみると実はさまざまな問題が想起されます。

「繁華街に出てはいけない」、「モンゴルに帰ってはいけない」などは、居住移転の自由(22条1項)、出国の自由(22条2項)の制限が問題となります。そして、そもそも外国人の人権は保障されているのか(外国人の人権享有主体性)、相撲協会のような公益社団法人による人権侵害があったとしてもそこに国家への拘束規範である憲法が適用されるのか(私人間効力)、仮に処分に不服であるとして朝青龍が裁判所に提訴したとしたら裁判所は相撲業界内部で起こった問題を判断できるのか(部分社会の法理)などけっこう論点が出てきます。こうした人権問題としての報道はあまり見あたりませんでした。

理想とはかけはなれた世界の現実

この朝青龍問題の報道に接して、あるアメリカのジャーナリストが、世界では戦争をしているというのに日本でこれだけ同じ話題を繰り返し報道しているのは理解できないと言っていたのが印象的でした。

確かに日本の報道を見ていると、芸能、スポーツ関係、政治家の不祥事、刑事事件の報道がほとんどで、世界で今、何が起こっているかについての報道は特別番組でもない限り、あまり接することができません。

しかし、世界に目を転じると国によってあまりにも一人一人の人間に対する扱いが異なっている現実を知って愕然とします。人間の命や尊厳に対する扱いは、人間を対象とする以上は本来同じでなければならないはずなのに、そうした理想とはかけ離れた現実があります。

たとえば、世界では死刑制度が廃止されている国もあれば、ますます勢いを増している国もあります。世界の死刑執行の81%は中国、イラン、アメリカに集中しています。最近アメリカでは、死刑囚のうち124件もの冤罪が判明し司法制度への信頼が揺らいでいますが、日本では立て続けに執行されました。

拷問はいまだに150カ国以上で行われているそうですし、世界では7人に1人が日々飢えています。世界で3人に1人は戦時下に暮らしていて、世界中の紛争地域で戦う子どもは30万人いるそうです。そしてなんと未だに2700万人の奴隷がいるのです(「世界を見る目が変わる50の事実」ジェシカ・ウィリアムズ、草思社より)。

民族や人種、文化の独自性を認めつつも、それらに関係なく、一人一人が人間らしく自由に生きることができる社会は、まだまだ遠い先かもしれません。

日本における外国人の現状は?

こうした世界の現状の中で、日本で生活する外国人登録者数は2005年に200万人を突破してその後も増え続けています。他にも不法滞在の外国人も相当数いますから、日本で生活する人のうち100人中2人弱は外国人です。また、外国人との結婚も17件に1件の割合に及びます。

民族や文化、風習などの違いを認め、多様性を受け入れながらも、同じ人間としてお互いに尊重し合う、そうした成熟した人間同士の関係を、憲法は個人の尊重(13条)として保障しています。日本でも、今なお、外国人を排斥しようとする差別意識が一部に根強くあります。

次回からは、身近になった外国人との関係を、憲法の観点からさらに考えてみたいと思います。

日本に暮らす外国人が置かれている現状を、
憲法の観点から見てみると?
次回もご期待ください。


ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条