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2012-06-27up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第5回

官邸前45,000人!
非暴力行動のすごーい可能性

「普通の人」が一番強い

 先週の金曜日、首相官邸前に原発再稼働反対を訴えるために45,000人が集まったという状況を改めて考えると、社会がすごいスピードで変わり始めているなーと感じます。

 これまで社会問題に対して、なんらかの意思表示をしてこなかった、観客として民主主義を眺めていた「普通の人」たちが、次々に民主主義のプレイヤーとしてフィールドに立ちはじめたのですから。

「たくさんの普通の人」が政治や社会への不満の意思表示をはじめることこそ、パワフルなことはありません。デモの様子を報道した「報道ステーション」も「普通の人が参加するデモ」を強調していました。 

「非暴力行動」のニーズUp?

 前回「原発再稼働、ガンジーならどう止める」を書いた後も、ツイッターやFacebookなどでさまざまな方からも感想をいただきました。想像以上に、非暴力行動への賛同やもっと知りたいという意見が多かったのに驚きました。

 実は、「非暴力行動」は「日本ではまだまだ理解されないかも」と思い、あとでじっくり書こうとしていました。でも政治への不満・不信が高いのか、「非暴力行動」を知りたいという人も多くいるようです。

 そこで、少し細かくなってしまいますが、この機会に「非暴力行動について」整理しておこうと思います。賛否のある話題ですし、こういう手法の解釈の違いで仲間割れになったりすることもありますから(苦笑)。

「非暴力」の大前提は、多様な方法を認め合うこと

 まず、社会問題へのアプローチは、さまざまな人が、さまざまな方法を駆使して解決に挑むということがあります。同じ目的であっても、違うアプローチをする人とも積極的に協力して、学びあうという姿勢がとても重要だと思います。

 同じ目的で活動している者同士が争うことほど、無駄な時間はありません(汗)。

 もちろん、一線を越えてはいけない手法もあります。それは、「暴力」を使うこと。多くの人が「暴力はだめ」と言いますが、難しいのは「何が暴力で、何が暴力ではない(非暴力)か」の線引きでしょう。

「非暴力行動」の4つの種類

 「非暴力行動」というのは、「社会を変えようとするために、暴力的な手段を使わずに行動すること」を言いますが、国連が考える「非暴力行動」の定義や、グリーンピースが使っている定義をまとめてみると、その行動形態は4種類に分けられると思います。

 定義具体例対峙する相手との緊張度合 参加しやすさ
①間接コミュニケーション(Indirect Communication or Photo Opportunity)

活動をニュースなどの媒体に取り上げてもらうことで、問題の当事者や一般に問題意識を持ってもらうこと

パレード
人文字
イベントなど

② 直接コミュニケーション (Direct Communication)

問題の当事者に直接、メッセージを見てもらう、聞いてもらうこと

首相官邸前デモ

原発担当大臣の車が通過する横の道端で大臣に見えるように抗議活動

③ 非協力 (Non-Cooperation)

ボイコットなど

東電の料金不払い運動

④ 直接行動 (Direct Action)

体をはり、問題行為を止めることによって、相手が無視できない状況をつくること

沖縄県辺野古の米軍基地建設反対運動

山口県の上関原発建設予定海域の埋立工事阻止の活動

ローザ・パークス女史事件のバス座席を白人に譲らなかった行動

 

 

 この表では、①から④に向かうにつれて、対峙する相手(問題の当事者)に対してより直接的に訴える度合いが強くなっていきます。

 つまり①は、ニュースや口コミなどを通じて訴えたいことが広がり、それを聞いた当事者が自主的に変わってくれることを目指すものです。一方で④の直接行動は、「相手が無視することのできない状態」を作ることを意味しますのでより直接的になるわけです。よって、相手との対決度合(緊張度合)はあがりますので、参加できる人もより少なくなってきます。

直接行動の可能性

 今、日本では①と②の非暴力行動がほとんどです。③は少数、④になるときわめて少なくなります。

 しかし、歴史を見てみると④の「非暴力直接行動」が「政治が民意を反映してくれない時」に社会を大きく変えるのに重要な役割を果たしてきたこともわかります。「非暴力直接行動」にも「普通の人」がたくさん参加する状況ができたとき、ものすごいパワーとなるようです。

 すでに前回ご紹介したガンジーは、非暴力直接行動でインドをイギリスから独立させました。

 また、1955年、アメリカのアラバマ州で、ローザ・パークス女史が、バス運転手の命令に従わないで黒人でありながら白人優先のバス席を譲らず、逮捕されるという行動を通して、アメリカの公民権運動を盛り上げ、黒人差別法の撤廃を実現していきました。当時の法律は、黒人は白人に席を譲らなければいけないと定めていましたが、体をはって故意に違反し逮捕されることで、その法律の理不尽さを直接訴えたわけです。 

 彼女の行動が、アメリカ中の黒人の参加するバスボイコット運動につながり大きなうねりとなったわけです。

非暴力≠穏便に

 「非暴力行動」は必ずしも「穏便に済ます」というわけではないことを強調したいと思います。

 むしろ、非暴力行動の4つ目の「直接行動」に至っては、自ら「争いをつくる」ことを目的とします。なぜなら、体を投げだして相手の行動を止めることで、周囲の人に、倫理的な判断を仰ぐからです。

 「争い」という暴力的な行為に発展しそうな状況において、「非暴力」を貫くことで、多くの人に訴えたいメッセージを届ける技が「非暴力直接行動」です。

具体的に非暴力ってどういう振る舞い?

 じゃあ、直接行動の際の非暴力ってどういうことを言うのでしょうか?

 直接行動に訴える人々が、以下の5つのことを実行するのは必須条件です。

① 対峙する相手にも敬意を払う
② 声を荒げない
③ 手を肩より高くあげない (攻撃すると思われないため)
④ 走らない。逃げない。暴れない。
⑤ にらまない。相手の目をみて対話する

 緊張感の高い現場でもこの状態を保つことができるように、事前に、「罵倒されても言い返さない」などのトレーニングをしておくととても役立ちます。

 こちらのビデオは、山本太郎さんも参加したドイツの放射性廃棄物輸送への非暴力直接行動の様子です。ドイツ中の「普通の人」が核廃棄物の輸送に反対するために昼夜、鉄道のレールに寝ころんだり、自らを線路に縛り付けたりして廃棄物の輸送を遅らせている様子です。

 輸送が遅れれば、輸送コストもあがっていきますので、ビジネスとして継続するのが実質的に困難になるだけでなく、これだけの反対運動が広がれば、政治的に原発賛成を訴えるのが難しくなります。

 数万人の集まるこのような抗議行動のできるドイツの市民社会が、脱原発を実現したのだと思います。

英国で、非暴力直接行動が気候変動政策を変えた

 なんだか、今回はすごく小難しいコラムになってしまいました…。 書き終えてから少し反省。

 でも最後に、ぜひ以下のビデオも観てほしい...

 「非暴力直接行動」がどうやって人の気持ちを変え、政府の方針を変えたのかを知るにはとても良い例です。もちろん海外の事例ですから、事情は違います。日本で同じアクションを起こしましょう、起こすべきだとは、私も言いません。しかし、こういうことが世界では実際に起こっていることを知るだけでも、これからの市民社会を考える上で重要だと思います。

 2007年、グリーンピース・英国の6人が、英国政府の石炭火力発電所を増設するという計画に対して、大量のCO2を排出することを理由に中止を求めて直接行動を行いました。

 火力発電所の煙突にのぼって、首相の名前をペンキで煙突に書くと同時に火力発電所の営業をストップさせたのです。非難もたっぷり受けた6人は警察に逮捕されますが、その後裁判で無罪を勝ち取るだけではなく、政府の気候変動政策を大きく変えてしまうのです。

 このストーリーに共感した著名な監督や音楽家が作成したドキュメンタリーをぜひご覧ください。

はじめに彼等は無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろう。そうしてわれわれは勝つのだ。(マハトマ・ガンジー)
"First they ignore you, then they laugh at you, then they fight you, then you win."

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これまで観客席に座っていた「普通の人」が、次々に自らの意思で「プレイヤー」としてフィールドに立ちはじめた。今まさにそんな状況が、この日本でも起こっています。アクションに参加するだけでなく企画するのもまた普通の市民。グリーンピースさんのブックレット「動けば変わる。」には、今回の「官邸前アクション」を企画し呼びかけたお一人、平野太一さんほか、様々な「ただいま行動中!」のインタビューを収録しています。興味のある方は是非、こちらからお申し込みください。

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato