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2013-05-15up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第25回

あなたを変える1枚の写真、バングラデシュの衣料品工場崩壊"事件"から

 こんにちは。

 先月、バングラデシュの衣料品工場が崩壊した"事件"をご存じでしょうか?
 5月13日までに1127人の死者が確認されているという悲惨な状況です。

(私は、今回のビル崩壊が、さまざまな人為的な要因で引き起こされたと考えるので「事故」ではなく「事件」としています。)

 バングラデシュで起きた事件であること、日本人が被害者に含まれていないことから、なかなか日本のニュースでは事件の背景を伝えません。でも、そのニュースの本質を知る必要があるのは、安く大量に洋服を生産しているファストファッション業界、そしてその消費者である私たちです。

 今回はこのバングラデシュの事件から、さまざまな社会問題が私たちの日常と関係していることを伝えることの重要さについて書きたいと思います。

1枚の写真、「最後の抱擁」

 今回の事件現場をとらえた1枚の写真が、Facebookなどで広がりました。Time社が掲載したその写真には、犠牲となった男性が女性を守ろうとしながら亡くなっている姿が写っていました。

(注:リンクの先には、ショッキングな内容の写真があることをご了承ください) →最後の抱擁:A Final Embrace: The Most Haunting Photograph from Bangladesh

あなたの服の本当の値段は?

 今回の事件と私たちの生活、何が関係しているのでしょうか?

 崩壊したビルは衣料品工場ですが、実は、私たちも良く知っているブランドの衣料品を作っていたのです。もしかしたら、あなたが身に着けている衣服がこの崩壊した工場、もしくは同様の労働条件下で生産されていたものかもしれないのです。

 日本も含めて多くの国々では、衣料品は安く大量に販売され、使い捨てのように季節ごとに買い替えることが日常になっています。ファストファッションと呼ばれる大量生産・消費のビジネスモデルが成り立つ背景には、より安い労働力を求めて、工場を労働条件の緩やかな国へ移転してきたことがあります(ファストファッションだけではなく、他のビジネスモデルもそうですが)。

 バングラデシュの工場経営者も、できる限り安く生産することが求められるために、危険な労働環境のまま、営業を続けてきたと言います。

「ひとつ買ったら、ひとつタダ」をやめてくれ

 Wall Street Journalの記事に、バングラデシュのある工場経営者の「もし労働者の給与をあげろというなら『ひとつ買ったら、ひとつタダ』という販売方法をやめてほしいと言いたい」というコメントが掲載されていました。

 確かに、ショッピングモールでは「ひとつ買ったら、もうひとつタダ」というような売り文句がたくさんありますよね。それは、それを作っている人の労働条件もバーゲンしてしまっているとのサインでもあるわけです。

世論に押されて変わる企業

 この崩壊事件が起きた後、世界中でファストファッション業界に責任を追及し、状況を改善するように訴える声が広がりました。そしてその声は、ファッションブランドへのプレッシャーとしてつながっていきました。

 日本でも、ピープルツリー/グローバルビレッジが声を上げています。
→RAG RAGE - バングラデシュ衣料品工場の労働環境改善と賠償金を求めるキャンペーン

 そして5月13日の月曜日、バングラデシュでもっとも衣料品を生産しているH&MをはじめとしてZara、さらに今回崩壊したビルで製品を生産していたC&AやPrimarkなどのブランドが地元の労働団体が示した工場の安全・防災の条件に署名すると宣言したそうです。

 ビル崩壊事件を受けて、世界中の人が署名などの具体的な行動で企業を動かしているのです。

自分も変えて、社会も変える

 正直、そういう自分自身も衣服が引き起こす問題にはあまり気を使ってきませんでした。こういう事件を深く考えるきっかけがなければ、このままだったかもしれません。

 購入するものすべてに気をつかうのはとても難しいでしょう。ただ、前回ご紹介したGapの工場が有害化学物質をインドネシアの河川に垂れ流していた件、そして今回ご紹介したビル崩壊事件を例に、モノを買うことによって自分自身が加害者になっているかもしれないと認識することからはじめてはいかがでしょうか。

(インドネシアでGapが契約していた繊維工場から川に流れる有害化学物質を含む排水)

 その上で、これから何かを購入するときには、デザインや機能だけではなく、モノに込められた本当の価値を買うことを大切にする。モノに込められた本当の価値を知るために、自分の好きなブランドに対して、質問や要望を伝えたりすることも大切でしょう。

 自分の購買行動を変えるという「自分」からはじめて、声を企業などに届けると言う「社会を変える」行動につなげていく。これがさまざまなスケールで行われることが、良い連鎖を起こすと思います。

 同時に、「社会を変えたい」と願う人たちは、さまざまな社会問題が人々の日常に関係していることをわかりやすく伝え、それに対して一人ひとりが「できること」を具体的に提案することが求められているのでしょう。

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ひと昔前に比べて、衣類は格段に安く手に入るようになったものの一つ。
けれど、ちょっと立ち止まって考えてみれば、
「どうしてそんなに安くできるの?」という疑問にぶつかります。
目の前の製品が、どこでどのようにつくられているのか。
誰かを踏みつけに、犠牲にしてはいないか。
消費者である私たちが、そんな視点を選択基準のひとつにすること。
そしておかしいと思ったら、それをきちんと声にすること。
そこから、社会は少しでも変わっていくはずです。

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato