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2013-08-07up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第31回

放射性汚染水の海洋流出から考える「五感判断」のすすめ

 東電福島第一原子力発電所からの、海洋への放射性汚染水の流出が止まりません。

 以前からグリーンピースでもその危険性を指摘し続けてきたこととは言え、原発事故の恐ろしさを現在進行形で再確認している感じです。

 こんなとき「汚染水を止めてほしい」と感じるのは誰でも同じ。でも「汚染水を止めて! と声をあげるのはちょっと」というふうに感じている人も多いのではないでしょうか?

 TwitterやFacebookで声をあげてみると、「詳しく知らないのに感情的になって」とか「反対するなら代替を示せ」なんて言われてしょんぼりなどのケースも聞きます。

 でも、よく考えてみてください。何かが問題だと声をあげるのに代替を示したり、詳しく内容を知らなければいけないと言うのはおかしな話。

 今日は、市民はもっと「感覚」でモノを言うべきではないかっていう「五感判断」のすすめです。

問題解決への4つのステップ

 まず、ある社会問題が解決されるまでの道筋をおおざっぱに4つのステップにわけてみました(かなりおおざっぱではありますが、イメージをつかんでください…)。

  1. たくさんの人が「問題だ」と声をあげることで、社会が取り組むべき問題、つまり「社会問題」とみなされる。
  2. 政治家や企業の経営者など、問題の当事者がその緊急性と重大性に気づき、解決を指示する。
  3. 専門家がさまざまな人とともに解決案を広く募集・検討し、最善案を採用・実施する。
  4. 問題が解決したかを評価する。(解決していない場合は、1へ戻る場合もある)

 もちろん、すべての社会問題の解決において、必ずしもこの4つのステップを経るわけではありません。

 例えば、先見性のある経営者や政治家は、1が起こる前、つまり問題が問題として浮上する前にその重要性や緊急性を理解し、解決への指示を出すわけです。

 ところが、問題の当事者である政府や企業の経営者は、自らが当事者であるがゆえに問題の存在や責任を認めたがらない傾向にあります。

 そういえば、日本野球機構の統一球問題や、全日本柔道連盟のパワハラや暴力問題などでも、当事者の隠ぺい体質にうんざりしましたよね。

 このような隠ぺい体質では、ステップ3にも進んでいきません。

市民の役割は「問題」を「問題」として認識させること

 汚染水流出や原発再稼働問題、それ以外にもたくさんあるさまざまな社会問題ですが、その解決に向けての市民の役割を考えてみます。

 この4つのステップで市民の役割がもっとも必要とされているのはどの部分でしょうか?

 そう、ステップ1です。

 つまり、ある問題が大きな問題であることを示すことがとっても重要なのです。

 もちろん、問題解決のための代替案を示すことができたり、問題について詳しく知ることができていればより良いのでしょうが、一般の市民があらゆる問題についてそこまで調べたり研究したりするのは無理です。

 それよりも、専門家にしっかりと解決案を考えてもらうように社会問題化することが重要です。

「五感判断」のすすめ

 そこで、おすすめしたいのは「五感判断」。
 「五感」というのは、そう、あの人間の感覚をあらわす「五感」です。

 最近、「五感」を活かして物事を判断することが、少なくなってきたかもしれません。仕事ですと、感覚で物事を判断しないのが当たり前ですし、納得してもらえるプレゼンにはデータが必要ですよね。どの業界でも「プロ」にはデータや、根拠が必要になってくるわけですが、その傾向が市民としての役割を放棄させることになっていないでしょうか。

 私は「市民」は「五感」で物事をもっと「感じる」べきではないかと思うのです。

 例えば、放射性物質が海洋に投棄されていると聞いた瞬間に、自分はどう思ったのか。ヘイトスピーチいっぱいで行進する団体の写真を見て、自分はどう感じたのか。ゲリラ豪雨や猛暑などの異常気象の増加を体験していて、自分は将来に不安を感じたか。 

 このような問題で「五感」を活かして判断することを「五感判断」と名付けてみました。ちょっと、スピリチュアルな感じがでてきました(笑)。

 一般の人が、限られた時間で情報を集めれば、問題の複雑さに混乱して最初の「五感判断」が鈍ります。そして「難しいから」と声すら上げなくなってしまうのを見てきました。

 もちろん、あなたが問題の当事者であったり、問題解決を考える立場の科学者や企業、さらにはNGOスタッフであれば、科学的データや代替案を提示したりすることはプロとしての役割だと思います。

 しかし、市民はもっともっと「五感で判断して、その素直な感覚について声を上げるべきだ」と思います。そしてその感覚を、政治家や企業に伝えたり、SNSなどで発信したりしてください。その感覚が、他の人と共感できるものであれば、多くの人が問題意識を共有し社会問題化していくのです。

 また、そういう五感で発言している人と問題意識を共有できたら、ぜひ「いいね」と応援してあげてください。

 そんなときに「代替案は示せるの?」などと聞かれたら、「じゃあ、あなたは(この問題について)どう感じますか?」と聞き返してみましょう。あなたの「五感判断」と結果は同じで、どうやってメッセージを発信すれば良いのか迷っていたりする人だったりもします。

 グリーンピースでは、東電の放射性汚染水海洋放出について、多くの人が気軽に声を上げ、問題視していることを示すオンライン署名を行っています。あなたの「五感」が汚染水の海洋放出に不安を感じているのであれば、ぜひご参加ください。

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信頼できるデータや情報を集めることはもちろん重要ですが
それにこだわるあまり、
何に対しても声をあげなくなってしまう――のでは本末転倒。
「プロではない」からこそ、できることもあります。

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato