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世界から見た今のニッポン

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第45回

 長い間、日米の市民に向けて9条の重要性を訴え続けてきたアメリカ・ペンシル バニア州リンカーン大学のディフィリッポ教授。今回は、先の参議院選の結果を受 けて、9条を支持する人々に具体的な提言を寄せていただきました。

韓国9条委員会宣言(金承國)

アンソニー・ディフィリッポ(Anthony DiFilippo) ペンシルバニア・リンカーン大学社会学部教授
社会経済学、比較産業形態学、また日米関係に関する著書多数。最新刊は「日本の核軍縮政策とアメリカの核の傘」(Japan’s Nuclear Disarmament Policy and the U.S. Security Umbrella, Palgrave Macmillan, 2006)。

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 2006年9月に安倍晋三が首相に就任して早々、彼の「美しい国」構想の最優先事項が憲法改定であることが明らかになりました。首相就任から3日後の所信表明演説では、安倍内閣が現行憲法の解釈では禁じられている集団的自衛権について研究すると言っています。その目的は日米安全保障体制の効率性をより高めることです。安倍首相は、60年が経った現行憲法はアメリカの占領期に書かれたものであり、≪新しい時代に相応しい≫ものになる必要があるとし、憲法改定手続きに関する法律を早期に制定したいと述べました。

 2000年代に入って、日本の保守派とナショナリストは9条を攻撃しています。9条が日本の集団的自衛権の行使、すなわちアメリカとともに軍事行動に加わることを認めていないからであり、かつても改憲派のこうした関心が語られることはありました。しかし、ここ数年は、改憲への圧力が強くなっているだけでなく、それが日本を≪普通の国≫にしようという声と表裏一体になっています。普通の国とは、国際安全保障のなかでアメリカを支えられるような強力で有能な軍隊をもつ国のことです。安倍が首相に就任してから、9条を改定しようという改憲派の声はにわかに大きくなりました。日本が普通の国になるには、リージョナルにもグローバルにも軍事的な責任も負わなくてはならないとナショナリストは考えています。

 しかし、2007年7月の参議院選挙は安倍首相と自由民主党に大きな打撃を与えました。最近発表された朝日新聞と東京大学による共同世論調査では、選挙の結果は憲法改定を唱える者を不利な立場に追いやっています。参議院では憲法改定に必要な3分の2の議席を割ることとなり、選挙で勝利した最大野党の民主党は、当面、憲法改定に関する協議をするつもりはないことを示唆しています。選挙結果によって、日本のナショナリストや保守派が強く望む9条を対象とした憲法改定の協議は止ってしまったか、あるいは少なくとも先送りになりました。安倍首相は、ナショナリストが急いでいる憲法改定の法的な手続きよりも、国民が重視する国内の社会・経済問題に注意を傾けることになるでしょう。

 選挙の敗北はナショナリスト安倍の大きな挫折であり、9条を支える人々にとっては、日本国憲法の戦争放棄条項を守り、維持する好機です。とはいえ、その好機はただ漫然と開かれたままではありません。9条支持者は賢明に、そして焦らず行動を起こさなければなりません。 とりわけ平和勢力は国民に対して、9条改定が決して日本の国益にはならないことを明確にすべきです。現在、多くの日本国民が、9条によって日本が長年にわたり戦争をしないできたことを認識しており、平和勢力は優位な立場に立っています。いまの日本の政治状況は平和勢力にとって、思考を研ぎすまし、9条をもつことの利益を国民に伝えるチャンスといえます。国民は最終的には憲法改定の是非について国民投票を行なわなければなりません。平和勢力は、与えられた時間を最大限に活用すべきです。

 まず初めに、ブッシュ政権が2003年にイラクを侵攻し、同政権のいう「有志連合」の軍事分野に自衛隊が組み込まれている現状が9条に相応しくないことを強調する必要があります。日本はこれまで国連中心主義を標榜してきました。その国連がアメリカ主導のイラク侵攻を認めていないにもかかわらず、小泉前首相がイラク戦争を正当化してしまいました。そのことを指摘しなければなりません。アメリカのアフガニスタン攻撃を積極的に支援し、その後、イラクに――たとえそれが非戦闘地域であったとしても――自衛隊を派遣することによって、小泉政権は平和憲法を無視したのです。

 何も手を打たなければ危険は高まります。改憲派はすぐさま再結集され、戦後の歴史が示すように、9条を改定しようとする空気が生れるでしょう。実際に、日本を普通の国――安倍のいう美しい国――にという信念をもつ改憲派のモチベーションはかつてなく高まっています。9条を改定し、アメリカ主導の安全保障体制へ加わることによって日本がいわゆる大国となれば、改憲派は、日本が国連安全保障理事会の常任理事国になるために国際社会での支持をとりつけようとするでしょう。日本が安保理メンバーになることは悪いことではありません。しかし、安保理での日本は本来的な役割を担うのではなく、ワシントンのグローバルな安全保障政策の利益と目的に追従することになるでしょう。

 だからこそ9条支持者は、日本にとっての普通の国とは戦争放棄の憲法をもった国であると、国民にはっきり言うべきなのです。言葉を代えれば、9条は日本を「美しい国」にするための手段だったのだ、と。9条改定は、日本を再び軍事大国にしようとするナショナリストとそのシンパたちをチェックする機能を捨てるということです。9条による抑止から解放された軍事力は日本の安全保障にとって大きなリスクとなる。それは日本政府の核軍縮政策だけでなく、日本が核兵器に嫌悪の念を持ち続けることさえ難しくする、あるいは不可能にする。そうしたことも強調すべきなのです。

 平和勢力が現在の状況で優位に立てないとすれば、あまりにだらしないといわざるをえません。9条の存在によって日本が60年以上、国際的な軍事紛争に巻き込まれなかったこと、そして日本が核軍縮を進めようとしてきたことには象徴的な関係があります。日本政府は核軍縮を促進していける立場にあるのに、9条を改定してしまっては、それを発展させることはもはや不可能となるでしょう。

自民党が惨敗したこの好機を生かせないようではだらしない--
9条を守っていこうとする私たちにとっては、 これからが正念場です。
Good Luck with Magazine 9! 
最後にこう記してくれたディフィリッポ教授、ありがとうござい ました。

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