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2013-07-24up

金繁典子/女性と政治と社会のリアルな関係〜スウェーデンの現場から〜

【最終回】政治と国民の「幸福度」の関係は?

●スウェーデンの「豊かさ」を感じた旅

 ストックホルムからフェリーに乗ると、自然のままの岩の海岸と、かわいらしい赤い木づくりの家々、小さなボートが点々と存在する、なんとも美しい情景が延々と2時間ほど続く。日本から来てこの風景を見ると、まるでおとぎの国に来たような、時代を数百年遡ったかのような錯覚を覚える。コンクリートや工業的なものがほとんどまったくないからだ。

 自然と調和する人々の生活は、日本と比べて人口が少ない(国土は1.2倍あるにもかかわらず人口は日本の7.3%、約950万人)からこそ実現しやすい面もあるだろう。しかし一方で、スウェーデンは1972年に国連人間環境会議(ストックホルムで開催)を提唱し、「持続可能な開発(Sustainable Development) 」という概念の実行に努めている。 
 海岸線が美しい自然のまま残っているのは、法律で海岸から100m以内に建物を建築することに制限が設けられているから(許可が必要)だという。そのうえ、その100m以内のエリアには誰でも立ち入ることができると法律で定められているので(パブリック・アクセスの権利)、土地所有者といえどもその部分を独り占めすることはできない。みんなが、いつまでも波打ち際の豊かな自然を楽しむことができるのだ。

 6月に入ると人々は約1か月の夏休みを取って都会を脱出し始め、多くは海岸や島でのんびりと滞在して過ごす。スウェーデンでは都会での住居とは別に、サマーハウスと呼ばれる夏の休暇用の家と、小さなボートを持つのが一般的(税金が高いといわれるスウェーデンだが、相続税も贈与税もないので祖先からの家やボートをこれらの税金問題とは無縁に受け継ぐことができる)。夏になると待ってましたといわんばかりに自然の中にあるサマーハウスへ移り、自由な時間を過ごす。有給休暇は法律で年間25日と規定されているが、そのうち3週間を連続して取れるようにすることが義務付けられている。

 スウェーデンに限らず、ドイツやフランスなどでも連続して有給休暇を付与することが法律上義務づけられている。一方日本は、有給休暇は原則として連続して3週間以上付与しなければならないとするILO(国際労働機関)の有給休暇条約(改正)第132号に批准しておらず、連続付与は義務づけられていない。

 日本の夏、灼熱のコンクリートに囲まれて暑さに苦しみながら都会で働き続けるよりも、少なくとも2週間の連続する休みを取って日本各地の涼しい場所で過ごすことが一般的になれば、電気の集中的な需要も減らせるし、地方の経済活性化にもつながるだろう。なにより心身の健康と、創造力を養うことができる。ふだん出会うことのない自然や、人とのコミュニケーションなどが広がり、幸福感を満たす。それにより仕事へのエネルギーも蓄えられる。

 もちろん、スウェーデン社会に問題がないわけではない。今年5月、移民が多く暮らす地区で暴動が起きたことは記憶に新しい。DV(ドメスティック・バイオレンス)なども深刻な社会問題の一つだ。また、管理が進みすぎていると感じる面もある。たとえばすべての国民の所得と納税額は公開されるので、隣人や職場の人の給料がいくらで税金をいくら払っているか、役場に行けば知ることができる。人に知られたくないと思っていても知られてしまう。暑い夏に公園でちょっと缶ビールを一杯、もできない。公園でアルコールを飲むことは原則禁止されていて、どこの公園でどんな強さのアルコールを飲んでよいか事細かに規定されているからだ。

 それでも、OECD(経済協力開発機構)の「幸福度ランキング(Better Life Index)」(2013年5月発表)で、スウェーデンはオーストラリアと並んで世界1位。
 かたや日本は36カ国中21位。実は日本は、教育レベル(教育を受ける期間:6位、教育のスキル:3位、高校修了者の割合:2位)は、世界の中でも高いのだが、「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」(34位)、「健康」(29位)、「住居」(25位)のランクが低い。その結果、教育レベルや家計金融資産の額の高さにもかかわらず幸福度は低いという結果になっているのだ。
 自殺率も日本はスウェーデンよりずっと高い(10万人あたりの自殺者数は約2倍)。
 そうしたことを考えると、スウェーデンの例から私たちが学ぶことは、やはりたくさんあると言えそうだ。

●市民の幸福度と「ジェンダー平等」の関係

 これまで見てきたように、スウェーデンの市民社会は、生まれてきた一人ひとりが幸せに暮らせるように、平等の実現を求め続けてきた。その中でジェンダー平等が実現されてきたこともまた、幸福度の高い生活の実現に結びついているのだろう。家庭、学校、職場、地方自治、国会、行政機関、裁判所、メディア…あらゆる話し合いの機会や意思決定の場でジェンダーバランス(世代バランスや地域バランスも)がよくなれば、税金の使い方(コンクリートに消えるか、それとも教育や福祉により多く使うか、環境とのバランスを重視するか)、法律や裁判、報道などなど、日々の生活にかかわるすべてが変わる。

 実際、現在スウェーデンにはジェンダー平等大臣という職が教育省の中に置かれている。それはジェンダー平等が省庁の枠を超えて、すべての省庁の仕事に関係し影響するので、あらゆる政治的意思決定は、明確なジェンダー視点を持たなければならないというジェンダーの社会主流化(Gender mainstreaming)の考えにもとづくという。

 そして、スウェーデンの女性たちはここまで高いジェンダー平等を実現しても、さらなる改善を求め連帯を広げ続けている。スウェーデンではまだ女性の首相が登場していないので、次々回(2018年)の総選挙での誕生を目指して動き出した女性たちもいる。ジェンダー関連のNGO約20団体は共同で、ほぼ毎月、平等大臣と会合を持つという。選挙前にも共同で各政党を集めて討論会をする。
 さらに国境を超えた連帯も広がっている。EU各国の女性が連携して平等を実現しようとするWomen's Lobby というNGOが誕生し、スウェーデンではジェンダー関連35団体が参加しているそうだ。

 今回の取材を通じて、多くの女性たちからジェンダー平等を実現する「鍵」となるメッセージをいただいた。共通するのは、ネットワークをつくり広げることの重要性。まずは自分がいるコミュニティー(家族・地域や職場などの組織)でネットワークをつくる、次に組織を越えたネットワークをつくり広げていく。それを、時代を超え国境も越えてつないでいくことが大切なのだ。

 日本でも長い歴史の中で声をあげてきた多くの女性たちのおかげで、参政権、民法上の権利能力獲得、雇用の機会や賃金・昇進の機会平等などの改善が実現されてきた。しかし平等にはまだまだ程遠い。
 だから声をあげる(たとえばあらゆる意思決定や討論の場面で男性と女性の数が50:50になることを求める)、ネットワークをつくり連帯するためのコーディネートをする、といったことの重要性をもっと伝えていきたい。
 次の世代の女性も男性も、今よりずっと幸福度の高い生活ができるように。
 それになにより、「男女両方いる環境のほうが楽しい」のだから(スウェーデン大使館二等書記官スサン・ベールさん)。

●最後に

 このコラムを読んでいただいた皆様、どうもありがとうございました。
 そして、インタビューに応じてくださった女性たち、ご自分のネットワークからご紹介してくださった皆様に、この場を借りてお礼を申し上げます。ジェンダー平等を仕事とするわけでもない私に、どの方も本当に気さくにインタビューに応じてくれて、こちらがびっくりしたほどです。それは同時に、いかに女性たちがジェンダー平等のために連帯しているかを実感することでもありました。皆様からお聞かせいただいたことをこれからも伝え、ネットワークづくりを実践していきたいと思います。
 つながって変えていきましょう!

滞在したストックホルム市内のアパートは林の中のような場所にあり、緑豊か。海岸にも歩いて10分で行ける。時おり野生の鹿が部屋の窓のすぐ下に現れて草を食べたり寝転んだり。ストックホルム中央駅から地下鉄でわずか15分の場所に住んでいることを忘れてしまいそうだ。

ジェンダー平等や外国人女性への支援、核廃絶などのNGOが入っている建物。もとはある一人暮らしの女性が所有し、女性たちのグループに開放していたという。

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ジェンダーバランスの視点を持つことは、女性にとってだけでなく、男性はもちろん社会全体の「豊かさ」や「幸福度」につながる…ということ。広めていきたいと思います。さて気になる参院選当選者のジェンダー比率は、121人中22人が女性(18%)でした(選挙区73人中11人が女性、比例区48人中11人が女性)。50%どころか30%にもまだまだの数字。この現実をふまえて、次なるアクションを考え中です。お楽しみに!

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金繁典子さんプロフィール

金繁典子(かなしげ・のりこ)
1963年愛媛県生まれ。生態系豊かな自然のもとで、昔ながらの無農薬農業を営む地域に生まれ育っていたが、農薬や合成洗剤が使用されはじめて川や森の生態系が急速に失われていくのを目の当たりに。同時に農業と家事・子育てに大変な農家の「嫁」たちから、女性が自立する大切さを伝授される。男女平等にもっとも近く、高福祉社会のひとつであるスウェーデンで、それを達成した市民の意識を知るため2012年夏に滞在。NGOや市民にインタビュー。国際NGO職員。