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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイトhttp://www3.tokai.or.jp/amamiya/

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

※アマゾンにリンクしてます。

「派遣切り」の非道。の巻

フリーターユニオン福岡の小野さんと

 今までに経験したことのないような深刻なことが起こっている。「派遣切り」で、多くの人が住む場所も失い、大量に野宿者化しているという現実だ。

 私自身、非正規労働問題に2年半ほどかかわってきたが、一気にここまで事態が悪化したのは初めてだ。厚生労働省は来年3月までに3万人が失業と言っているが、下請けなどを含めれば10万人レベルが失業するのではないかと言われている。野宿者の炊き出しに派遣労働者が列をなし、「年を越せない」という悲鳴のような声が寄せられる。

 最近、前経済財政諮問会議メンバーの八代尚宏氏と会う機会があった。NHKの「日曜討論」だ。番組の中で氏は「規制緩和と非正規雇用が増えたことは関係がない」ということを話した。この期に及んでものすごい責任逃れ的発言だが、今は文句を言う時間も惜しい。私は番組で中国などにフリーターを時給300円で派遣している派遣会社についても話した。八代氏はやはりそのことを知らないようで、同じ番組に出演した奥谷禮子氏も知らなかった。規制緩和を推進し、現在も肯定しようとしている側に顕著なのは、「実態について何も知らない」ということなのだ。自分たちがやったことの結果がどれほどの無法地帯を作り出しているのか、周りにフリーターなどいるはずもない彼らには知る由もない。というか知ろうともしない。そして今、「派遣切りで大量ホームレス化」という現実が目の前にあるわけだが、それも直視しようとしない。

 と、文句を言っていても仕方ない。このメチャクチャな雇用破壊というか派遣ブッた切りに対して、フリーター全般労働組合は「越冬闘争」を開始する。派遣切りなどで不安定な生活に大打撃を受けた人々に対して12月24、25日とホットラインを開催し、また、集団生活保護申請行動も行う予定だという。「仕事を切られた」「家がない」などという人はぜひホットラインで相談してほしい。詳細はフリーター労組のサイトなどに随時アップされていくはずだ。

 国や企業が責任をまったく取らない中で、こうしてなんとかみんなで年を越そうという運動がある。見て見ぬふりをする人がいる一方で、現状に心を痛め、「使っていない自分のマンションをそういう人たちに提供したい」と私に話を持ちかけてくれる心優しい人がいる。プレカリアート運動はいつの間にか「労働/生存運動」と呼ばれるようになっていたが、今ほど「労働/生存運動」という言葉がぴったりな時はないのではないだろうか。だってこれからガンガン寒くなって、家をなくした人達は、本気で凍死に晒される。「反戦と抵抗の祭〈フェスタ〉08」が開催された11月29、30日は、全国ユニオンで「派遣切りホットライン」が開催されたのだが、「管理職ユニオン・東海」に相談してきた人のほとんどが、所持金2000円以下だったという。また、相談者の3割近くが沖縄出身者ということだった(琉球新聞08.12.3)。他に多いのは北海道、東北、九州。それらのことから、派遣切り問題は、実は地方に仕事がない、という問題でもあることが浮かび上がる。私自身、取材していても、やはり製造派遣には沖縄や北海道、東北の人が多い。地元に仕事がないから愛知などにやって来て派遣で働き、工場近くの寮に住み(寮費が3〜5万円とられる)、長く働けると思ってたのにいきなり契約解除を伝えられ、「3日以内に寮も出ていけ」と言われ、そのまま路上に放り出される。土地勘もなく、知り合いもいない場所でそうしてホームレスとなってしまう人々。多くの派遣会社は帰りの交通費さえ出してくれない。手取り10万円ほどの給料では、貯金もできないので地元に帰るお金もない。なんとかネットカフェで暮らしても、住所不定では雇ってくれる職場は絶望的にない。家を借りたくてもやはりお金がないし、無職であれば不動産屋はなかなか相手にもしてくれないだろう。とにかく、一度住む場所を失ってしまうと、自力でなんとかするにはこの国には厚い壁があまりにもたくさんたちはだかっているのだ。そんなことを、私は実際に自分が現場に行き、取材するまで知らなかった。当人からじっくり話を聞くまで、想像すらできなかった。そして今も多くの人が野宿生活となってしまった人に偏見を持っている。その無理解が、どれほど多くの人を路上死に追いやってきただろう。

麻生は家をなくした人に定額給付金を100倍よこせ!

 これからどんどん寒くなる。1人1人ができることは本当に限られている。だけど、国も企業も責任を放棄した今、長らくこの国で死語となっていた「助け合い」的なことを、できることから始めるしかないのだと思っている。

※なんだか浮ついた告知で申し訳ないのですが、12月21日、サイン会をします。よかったらぜひ。

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■『怒りのソウル』刊行記念サイン会
■開催日時: 2008年12月21日(日)14時〜
■場  所: ブックファースト新宿店 (1階ブルースクエアカフェ内イベントスペース)
■参加方法:  ブックファースト新宿店にて本書をお買い求めくださった先着100名様に、整理券を配布いたします。
>>詳細はこちら

暖かい場所で、大きな心配事もなしに年を越す。
そのささやかな幸せさえ「当たり前」ではなくなりつつあるという現実。
誰もが安心して新しい年を迎えられる、そんな社会にするためにはどうすればいいのか。
1人ひとりが考え、行動するべき時です。

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