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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイト

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

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「地獄のドバイ」と
外国人労働者化するプレカリアート。の巻

記念にアップ。

 1月末、日本武道館で開催された黒夢の解散コンサートに行った。思えば黒夢のライヴを初めて見たのは17歳の頃。目黒鹿鳴館だ。って、恐ろしいことに17年前! で、清春はやはり超カッコいいのであった。・・・って、この連載読んでる人にとってはまったく関係ないことだが、どうしても書きたかったので許してほしい。

 さて、近々発売される「クイックジャパン」にて、「生きさせろ! リターンズ」なる連載を始める。第1回目はこの連載の71回でも触れた「中国派遣」について書いた。実際、中国・大連に時給300円で「派遣」された方に話を聞きに広島まで行ったのだが、その実態はやはり、想像を絶するものだった。渡航費もビザも全部自腹。中国まで荷物を送る送料も自腹。大連に着いてから、「1年以内に辞めると罰金5万円」という誓約書に強制的にサインさせられる。ビザの関係で中国に行く前に契約書にもサインしたのだが、契約書は全部中国語なのでまったく意味がわからない。「成長著しい中国で語学を学んでスキルアップ!」などという触れ込みにひかれていったものの、仕事は朝から夜まで日本からかかってくる電話に日本語で応対するコールセンター。製造を中止したワープロのサポートや、アルバイト応募の電話対応をする日々。語学の勉強はと言えば、週に一度、90分程度、中国人が来て「ニーハオ」「シェイシェイ」とか言う程度。「語学を学んでスキルアップ」など到底望めない。しかもどんなにひどい待遇でも、「労働許可証」などの関係で、会社を辞めると不法滞在になってしまう可能性がある。最悪、拘束されかねない。

 今の日本にはなかなか希望が持てない。だからこそ、「チャイナドリーム」を夢見て渡航する人は多い。しかし、そこにはこんな「落とし穴」もあるのだ。

 海外で働くことを目指す日本人が行く先は中国だけではない。最近「バブル崩壊」と言われるドバイにもまた「ドバイ・ドリーム」という言葉がある。が、こちらの「落とし穴」もトンデモない。最近、『地獄のドバイ 高級リゾート地で見た悪夢』(彩図社 峯山政宏著)を読んで驚愕した。

 著者は79年生まれの男性。シンガポールなどで働いた経験のある著者は寿司職人になることを目指して07年5月、ドバイへ向かう。が、寿司職人の仕事は見つからず、肥料会社で働くことになる。しかし、その肥料会社が突然、閉鎖。その途端、彼は「滞在法違反」となってしまうのだ。アラブ首長国連邦では、海外からの出稼ぎ労働者は所属する会社のオーナーのスポンサー名で登録されているそうなのだが、なんと「スポンサーシップを外された人間は拘置所送りにされる」というのだから恐ろしい。

 そうして著者は突然、砂漠の中のアブダビ中央拘置所にブチ込まれてしまう。彼はその時の気分を「タチの悪いコントに強制参加させられた気分」と書いている。手足には他の出稼ぎ労働者と同じく錠、周囲にはライフル銃を構えた刑務官。「何かの間違いだ!」などと英語で抗議しても、アラビア語しか話せない刑務官にはまったく通じない。そうして彼はそのまま監獄に連行されてしまうのだ。

 200畳ほどの監獄には、300人ほどの囚人がひしめいている。そこに漂う「人知を超越した悪臭」。囚人たちの多くが1年以上風呂に入っていないからだ。囚人たちの国籍はというと、パキスタン、アフガニスタン、バングラディシュ、ソマリア、スーダンなどなど。たった1人の日本人である彼は数々の囚人派閥の中のひとつ「アフリカ連合」に所属し、なんとか寝床を確保する。そんな拘置所の中では、1日に一度しか支給されない飲み物「ミルクティー」の確保を巡って、母国の紛争をくぐりぬけてきた男たちが争奪戦を繰り広げる。死ぬほど喉が渇いた著者が洗面所の水を飲もうとすると、「その水を飲むと死ぬぞ!」とパレスチナ人の長老に止められるほど劣悪な環境。出される食事は腐っている上、囚人の中国人に「津軽海峡冬景色」を何回も何回もうんざりするほど聞かされる。拘置所から出たくても、自分が拘置所にいることを、外部に知らせる術がない。

 が、彼は公衆電話が使える日があることを知る。しかし、利用希望者は100人以上。公衆電話は、5台。「5台の公衆電話の利用を巡って、100人以上の囚人が血みどろの争いをするのである」。しかも使えるのは2時間だけ。彼は「バトルロワイヤル」を思い出し、「内戦地帯の囚人たちと公衆電話使用権を巡って、戦い、そして生き残る意思を持つことが大切なんだ!」と囚人たちを力づくで押し退け、電話中のパキスタン人の電話を切ってテレホンカードを奪取! 日本大使館と旅行代理店に電話をかけ、無事彼が拘置所にいることが外部の人間に知らされる。

 読み物として純粋に面白いのだが、著者の経験は、「海外で夢を叶えよう」という人々が、ある日突然落ちてしまう「落とし穴」の恐ろしさを教えてくれる。特にこの著者は相当機転がきく上に他の囚人たちを押し退ける行動力があるからこそ無事生還できたものの、拘置所内の描写には、完全に諦め、精気を失った若い中国人の姿もある。そして収容されている囚人たちの多くはドバイに出稼ぎに来た外国人労働者。

 「彼らは日給5ドルで建設作業員やスーパーマーケットの店員として働いていたのだが、あまりの低賃金と過酷な労働条件の改善を上司に訴えた途端に警察に連絡され、アブダビ中央拘置所にぶち込まれたのだ」(『地獄のドバイ』より)。

 著者は会社の閉鎖によって拘置所にブチ込まれたわけだが、文句を言っただけで拘置所送りという事実に愕然とする。そんなドバイの人口の8割は外国人だという。外国人労働者によって生活が成り立っているのに、あまりにもあっさりと使い捨てられる実態。

 現在、「若者の外国人労働者化」ということが言われる。国内にいながらにして、低賃金、不安定、何の保障もない外国人労働者と変わらない立場の若者を指す言葉だ(もちろん外国人労働者の権利向上も重要な問題だ)。しかし、中国派遣の実態や『地獄のドバイ』から見えてくるのは、本当に海外で「外国人労働者」として働くこの国の人々が、あまりにも無権利な状態に放り出されているということだ。

 3月末までに、40万人が失業すると言われている。また、今年の年末までに270万人が失業するという数字もある。この国に見切りをつけて海外で働こうという人は、今後増えてくるだろう。

 多くの人にとって一見遠く思える「外国人労働者」問題は、気がつけば自分たちのことになっていた、ということだろうか。

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