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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

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「朝生」で感慨深くなる。の巻

 この間の金曜日、深夜に朝生に生出演し、更に日曜日の朝に「サンデープロジェクト」に生出演、更にその日の昼は5時間以上かけてNHKBSの「日めくりタイムトラベル」の収録に出演したら(7月11日放送予定、見てね)、翌朝何か信じられないほどの頭痛に襲われた。で、やっぱりテレビというメディアは独特の「緊張感」というか負担を神経に与えるらしい、ということを痛感したのだった。小心者で、言ったことを「あんなふうに言うんじゃなかった」とか「あの時こう言えばよかった」とか「あの人のことを話題にしたことで傷つけてしまったのではないか」とか、もういちいちずーっと後までうじうじと考えてしまう私は、やはり喋ることより「書く」ことに向いているようである。

 で、バラエティ番組っぽい「日めくりタイムトラベル」に出演して、驚いたことがある。それは、朝生の現場とまったく違い「対人関係の緊張感がまったくない」ということだ。いろんな芸能人が出てたのだが、彼らのなんとフレンドリーで礼儀正しく優しげであることか! とそりゃもうびっくりしたのだ。みんなすごい腰低いし、なんか私が誰だかよくわかってない人が「芸能人ばかりが集まるパーティー」みたいのに誘ってくれたりするし、前々日に朝生の楽屋でずーっと片山さつき氏にガンつけられてたことを思うと(私の被害妄想である確率高し。けど、なんか睨んでくるから怖い・・・)、何かそこは「天国」のような場所だったのだ。

 だけど朝生に限らず、楽屋でも目を合わせず、番組が終わったら終わったで挨拶もなしにお互いムカつきながら帰る、みたいな「対決」型のテレビとかって、基本的に「絶対に人と喧嘩したくない」(私が絶対に人と喧嘩しないことを平和主義者と人は呼ぶが、ただ単に小心者なだけ)自分にとってはやっぱり負担なんだなーと改めて思ったのだった。ほら、基本的にいじめられっ子メンタリティー引き摺ってるし、とにかく「怒ってる人」とか「怒鳴り声」とかが耐えられないほど怖くて辛いし。朝生はまあそれがウリなわけだけど、「絶対に誰も声を荒げたりしない対論」とかがあればいいのに・・・とつくづく思う。だってそういうのって、「小心者」とか「DVや家庭内暴力やいじめで罵声を聞くとフラッシュバックが起きてしまう人」とかを完全に排除してるよね・・・。

 で、考えた。もういっそのこと、「朝生」系番組のルールを「全員赤ちゃん言葉で喋ること」とかに決めたらどうだろうか。これだったらどんな激論もラブリーだ。「それはどういうことなんだ!」とか迫ってくる堀紘一氏とかが「それはどういうことなんでちゅか」だったら大分怖さは軽減される。いや、朝生だけではない。すべての国の外交を「赤ちゃん言葉」にすれば、きっと戦争も起こらないはずだ。というか、これはすごい発明ではないだろうか。この一言で私はノーベル平和賞にノミネートされたっていいくらいだと思うのだが。

 常々私は「小心者こそが世界平和を実現させられる」と考えている。喧嘩しない、というかできないからだ。だけど今の世の中ではそんな人は片隅に追いやられ、「声がデカくて押しが強くて自分が正しいと信じ込んでる傲慢な奴(多くはオッサン)」ばかりが幅をきかせてるんだから生きづらい。

 で、その朝生だが、見てくれた人はわかると思うけどテーマは「新たな貧困」。いやー、湯浅さんが素晴らしかった。コマーシャルに入るたびに、私は隣の湯浅さんに「すごい!」「えらい!」と拍手を送っていたのだった。去年の4月にも「貧困」がテーマで、その時初めて湯浅さんと一緒に朝生に出たわけだが(この連載の52回を参照)、あの時、「敵」側に言いたい放題言われ、番組終了後にテレ朝の喫煙所で湯浅さんと溜息をつきながら煙草を吸ったのがなんだかもう遥か遠い昔のことのようだ。そうして今回の朝生では、湯浅さんの「作戦」が成功した。それは「貧困率調査」を各政党のマニフェストに! という作戦だ。湯浅さんは自民党からも民主党からも言質をとった。半年前の年末の朝生では「派遣村に来てほしい」と大村副大臣に迫り、それが厚生労働省の講堂開放に結びついたわけだが、今回も朝生で事態を「動かした」と言えるだろう。

 そんな朝生出演で、あまりにも感慨深い出来事があった。それは視聴者アンケートの回答だ。番組の最後に発表された「日本の貧困問題の一番の原因は?」という質問への視聴者の回答が1位から7位まで発表されたのだが、回答は以下の通り。

  1.官僚と政治家の腐敗
  2.税金のムダ使い
  3.政治・政策の問題
  4.雇用環境の悪化
  5.派遣労働の拡大
  6.小泉改革
  7.政府の問題

 これを見て、ああ、時代は本当に変わったんだなーと思った。だって、「自己責任」系の回答が7位までひとつもないのだ。1年前だったら確実に「本人の努力不足」なんてのはランクインしていただろう。それなのに今はひとつもない。ランキングを見て、私は密かに感動していた。何か、初めてほんの少しだけ「報われた」気がしたのだ。今まであまり役に立たないなりに運動にかかわってきて、だけど全然事態が変わらなかったり理解してもらえなかったり時にはひどいことを言われたりして、苛立ったりムカついたり勝手に傷ついたりしてきて、そうして今回、初めて「もしかしたらちょっとだけ、運動によって変わってきたのかもしれない」と思ったのだ。それは、初めての感覚だった。なんだかここ数年の走馬灯が回るようだった。

 「すごい! 湯浅パワーだよ! 」

 嬉しくて、隣の湯浅さんにそう言った。だけど仙人系の湯浅さんは、別に喜んでる素振りも見せないのだった。というか、きっともう次の展開のことを考えているんだろう。

 そしてまた、湯浅さんはジーパンに穴が開いていたのだった。

朝生終了後の楽屋打ち上げで大村さんと湯浅さんと。

今度こそ解散・総選挙が近い?との声も、にわかに強まってきました。
果たして朝生での約束はきちんと果たされるか、
自民・民主両党のマニフェストに注目! です。

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