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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

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弱者いじめの連鎖。の巻

 この原稿を書こうとした瞬間、家に一冊の本が届いた。
 それは待ちに待った「フリーター労組の生存ハンドブック」(大月書店 清水直子・園良太著)!! 常にプレカリアート運動の第一線をひた走り、そして「麻生に団体交渉」など突飛なことを思い付いてすぐ行動に移すというフリーター全般労働組合の本が出たのだ!
 帯にはいきなり「死ぬな、読め! 」。「労働がキツイ」「生活がヤバイ」「孤立がツライ」「世の中オカシイ」という4テーマにわたり、更には「クビ切り、生活保護からサウンドデモまで」というあり得ない幅の広さを見せているのがフリーター労組らしい。まだパラパラっと見ただけでこれからじっくり読むけど、なんかページをめくるたびにワクワクしてきて脳から汁が分泌されるのがはっきりとわかる。労働運動であり生存運動であり文化運動であるプレカリアート運動のすべてがここに凝縮されているはずだ。ちなみに著者の清水直子さんはフリーター労組の執行委員長で、園さんは組合員。他の執筆者もフリーター労組や他の労組の組合員ばかりなのもイカしてる。どれほど多彩な人たちがこの運動にかかわっているか、わかるはずだ。

「フリーター労組の生存ハンドブック」(大月書店/清水直子・園良太著)

 と、のっけからテンションが高くなったが、ここで奈落の底に落とそう。
 「朝生」に出ると、数日後、「視聴者からの意見」が届く。ファックスやメールで寄せられたものだ。ちょっと前に届いたそれを読んでいて、ドーンと落ち込んだ。30歳男性から寄せられた意見を、少し引用しよう。

 「格差っていうけど各自の努力が足りないだけです。努力しましたか? 必死に変える努力をしましたか? 失敗して、出来なかったら死ぬしかないでしょう? だって生まれたところがそういう環境なんだし、それを打ち破る度量がなければ死ぬしかないでしょう。弱き者は淘汰されるべき」

 これを読んで、どう思っただろうか。ひどい、と思いながらも、冷静に考えてみると、彼の言葉はある意味でこの国の「身も蓋もない真実」を突いているとも言える。だって彼が言ってるようなことを、別の言葉で、私たちは幼い頃から聞かされて来なかっただろうか? そして今も。

 最近、ある本を読んだ。「ホームレス襲撃事件と子どもたち」(太郎次郎社エディタス 北村年子著)だ。95年、大阪の道頓堀へホームレスの男性が川に投げ落とされて殺された。逮捕されたのは24歳の「ゼロ」と呼ばれる男性。無職。彼自身もまた、戎橋で夜を明かす「橋の子」と呼ばれる「ホームレス」だった。ゼロにはてんかん発作の持病があり、子どもの頃から壮絶ないじめを受けてきたという。また、その持病のために職を転々とせざるを得なかった。彼はこう供述している。

 「乞食をみると、いじめられていた頃の自分をみるような気がして、腹が立っていた」

 ここには「弱者いじめ」の悲しい連鎖がある。
 ゼロの事件を受けて開催されたシンポジウムで、野宿者の男性がある大学教授の発言を受けて言った台詞が印象的だ。

 「さきほど先生は、いまの子どもたちは“善・悪”の区別がわからない、その感覚が大人の意識とズレてきてる、といわれましたけど、ぼくは、そうは思いません。大人の意識が、子どもに反映してるんです。まず大人が、差別してるんです。(中略)大人がまず、排除してるんです。大人と子どもの違いがあるとしたら、大人は殺さないだけです!」

 東京で、野宿者の施設の建設予定地となった北新宿の住民は、建設に反対する交渉の場で「ホームレスは出ていけ」「働いてないやつは、死んだってかまわない!」と叫んだという。
 02年、埼玉県では中学生の少年3人が路上生活者に鉄パイプやブロック塀を打ち付け、暴行して死亡させている。主犯格の少年はスポーツ万能のいわゆる「いい子」。少年が路上生活者を暴行するようになったのは、自宅に物乞いに訪れたその人を、父親が「出て行け! 」などと怒鳴りつけて追い返した頃からだったという。
 大人が無意識に伝えている襲撃「GOサイン」。そして「弱者」に対する冷酷な視点。
 著者はこう書いている。

 「弱い、小さい、遅い、といった『個性』や『異質』のものを排除するシステムのなかで、どんな小さな他者との差異もそこでは"負"の要素にされていく。そして、その弱さや違いを認めない競争社会の能率主義のなかで、成績の悪い者は能力のないもの、働けない者は役に立たないもの、弱い者は攻撃していいものとして、切りすてられ、排除され、抹殺されていく。
 裁かれるのは、だれなのか」

 ここまで書いて、先程の「朝生」視聴者のメッセージを読むと、なんだか怒りよりも、静かな悲しみが湧いてくる。
 著者は最後に、野宿問題になぜかかわるのかを書いている。著者自身の父が事業に失敗し、一時「ホームレス」状態にあったこと。その後戻ってきた父が病気になり、自ら命を絶ってしまったこと。12歳だった著者は、「弱い」父に「強さ」を求め、「がんばること」を強いていたこと。
 「なぜ、あのときもっと、父の『弱さ』を受け入れ、父のつらさや痛みを理解してあげようとしなかったのか」。
 この著者の本をこれまでも読み、「どうしてこの人はこんなにも優しいんだろう」と、ずっとずっと思ってきた。その「優しさ」の生まれた辛い過程を読み、私は号泣した。
 いじめ、生き苦しさ、弱いものが更に弱いものを叩く悲しい連鎖と、大人の何気ない差別心。
 この本には、今の日本で考えなければならないことのすべてが詰まっている。

「ホームレス」襲撃事件と子どもたち(太郎次郎社エディタス/北村年子著)

北村さんの本に描かれた「ホームレス襲撃事件」からまもなく15年。
私たちはそのころよりもさらに、
「弱いものを排除する社会」をつくりあげてきてしまったのではないか−−
そんな思いにとらわれます。
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