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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

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韓国・徴兵制なんて嫌だ!
ある若者の闘い。(その4)

「国家戦略室」という、何やらエヴァンゲリオンな響きのとこの「政策参与」になった湯浅さんと記念の一枚。

 そうしてキム君は来日。最初の1年間は日本語学校へ通い、その間もペペ長谷川氏を探していたが会えないままでいた。
 来日して1年経った頃、彼は受験した大学をことごとく落ちる、という憂き目に遭う。結局はある大学に受かり、現在は3年生なのだが、何校か続けて落ちたある日、彼は非常に落ち込んでいた。
 その日は日本に来てから知り合ったアメリカ人とお酒を飲んでいた。その席には、韓国で徴兵を終えたばかりの大学生もいた。大学生に軍隊の話を聞かされたキム君は、だんだん憂鬱な気分になっていった。
「軍隊の話を聞いて悲しくなって、今日は飲んで静かに落ち込もうと思って」行ったのが、高円寺の「素人の乱」だった。言わずと知れた松本哉氏と愉快で貧乏な仲間たちの店である。キム君はそれまでも「素人の乱」のカフェや飲み屋を利用していた。が、交流などはあまりしていなかったという。

「その日、すごい酔っぱらってたら、精神的にヤバそうだと思ったのか、何人かが『大丈夫か』って話しかけてくれて。で、この先どうしていいかって話をしたら、そこにいた人たちがAさんのこと知ってて、『あかね』に行ってみなって」

「あかね」とは、高田馬場にある交流スペース兼激安飲み屋である。そしてここではあのペペ長谷川氏がたまに店番をしているのだ。

「それで、『あかね』に行ったら、ペペ長谷川が写真の通り便所サンダル履いてて。探してたんですよこの1年間ずっと! って」

 何やら感動的なんだかマヌケなんだかわからないシーンである。
 そうしてキム君はその界隈のイベントなどに積極的に参加していくようになる。私がキム君を初めて見たのは昨年の「反戦と抵抗の祭〈フェスタ〉」。今年のメーデーでは、飲み会で席が隣になり、そこで韓国の徴兵制についての話を詳しく聞いたことがこの取材のきっかけである。そして多くの友人を作っていったキム君は、現在一緒に「PANDA」(韓国の徴兵制について考える団体)で活動している茂木遊さんと出会い、徴兵制についてのイベントを企画するようになる。この日、取材に同席してくれた茂木さんは言う。

「07年6月にやったあるイベントに彼が来ていて、そこで話を聞いて韓国の徴兵制に関心を持って、じゃあ一緒に企画やってみようかって。その時点で、そもそも韓国の徴兵制に関してほぼみんな知らない。そもそも徴兵制ってどんな制度なのかとか、軍隊の中の実態がどうなのかとか、そういう内容で企画をしようと」

 そうして07年8月、実際に軍隊を経験した人を呼んで体験談を語ってもらった。2回目は徴兵を拒否して刑務所に送られた人を呼び、3回目がこれから拒否しようとしている人たちがどんなことを考えているかを語った。1回目のイベント後、このまま単発のイベントで終わらせるのは勿体ないと、読書会をしてみんなで勉強を始める。そんな流れが現在の「PANDA」結成に繋がった。ちなみに「PANDA」はPeace And No Draft Allianceの頭文字を取ったものだが、これは日本語のパンダが先にあって、後からこじつけたもの。理由はかわいくて徴兵制の真逆のイメージだから。もちろんキム君の発案だ。「PANDA」にはキム君のような当事者もいれば、日本人もいるし、また既に除隊した韓国人メンバーもいるという。
 更に今年の5月、茂木さんは「PANDA」のメンバーとして、韓国で開催された「世界戦争抵抗者の会」の世界大会にも参加。毎年、徴兵制のある国の人たちが集まり、徴兵拒否の国際会議を開いているのだという。大会には、イスラエル、リビア、フィンランド、アメリカ、モンテネグロなどから徴兵拒否者たちが集まった。この大会が韓国で開催された理由は、韓国が「今年の問題国だから」。キム君は言う。

「前のノ・ムヒョン政権の時は、代替服務制度、刑務所に行くんじゃなくて、軍隊に行く代わりに社会的なボランティアのような形での代替服務制度を09年からやるって発表があったんですけど、イ・ミョンバク政権になってから、それが『時期尚早』って一言で流れたんですよ」

 ちなみに取材の数日前、イ・ミョンバク大統領は、韓国軍を訪問し、余計な忠告をしたという。

「最近の若者はなってない、ちゃんとしてないから精神教育をもっと厳しくすべきって。大統領から特別注文が。それは、徴兵期間中に何を果たしたいかってイ・ミョンバクが質問したら、『ダイエット頑張りたい』とか『英語を勉強したい』とか『資格取る』とかそういう答えがほとんどだったから。自分たちが何をしてるかあいつらわかってないんだ、だから精神教育をもっと厳しくって」

 ああ、そんなこと言われたら、これから徴兵が待っている韓国の若者たちはどれほど追い詰められるだろう。そもそも、これほど自殺者が出ているのに、どうして「徴兵制」の存続自体が揺るがないのだろう?
(以下次号)

キム君がかかわっている「韓国の徴兵制について考える」グループ「PANDA」のサイトはこちら。
http://panda1panda2.web.fc2.com/

かくして、日本の労働運動と出会い、雨宮さんと出会ったキムくん。
さらに締め付けが厳しくなる? とも思える韓国の今後も、気になるところです。
次回もご期待ください。

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