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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

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「死ぬまで痛みに耐える」 ことを強いる制度。の巻

 4月だ。テレビなどでは新学期を迎えたり入社式をやってる様子が映し出されている。フリーの物書きである私には基本的に関係ないのだが、それでも少し影響があったりする。春は連載が終わったり始まったりする季節でもあるのだ。
 ということで、新連載の告知。まずは毎日新聞にて「異論・反論」という連載を開始。月に一度くらいだけど、ぜひ読んでほしい。また、ポプラビーチにて「小心者的幸福論」という連載も始まった。タイトル通りなテーマで個人的な恥を晒していく連載になる予定(ネットで読めます)。また、先月くらいからは「実話BUBKAタブー」にて「雨宮処凛の“どん底”脱出サミット」という対談企画も始まっているのでこちらもチェックしてほしい。

 さて、最近、ショッキングな資料を頂いた。それは3月に民医連(全日本民主医療機関連合会)が発表した「2009年国民健康保険など死亡事例調査報告」(の修正版、というか最新版?)。これは保険証がなかったり、保険証があってもお金がなくて病院に行くのを躊躇したりで受診が遅れ、死亡してしまった人についての調査報告だ。
 調査期間は09年1〜12月。調査によって、昨年1年間の死亡者数は47名にのぼることが判明したのだ。うち37名は国保料の滞納によって無保険、或いは短期証や資格証明書が交付されていた人。あとの10名は保険証がありながらも、経済的な理由によって受診が遅れたと考えられる人。
 男女比率では男性が80%以上で女性は16.2%。世代別で見ると、50代・60代で8割を占めている。
 細かく事例を見ていくと、「無職」「非正規雇用」の文字が目立つ。トヨタの期間工だった47歳の男性は「派遣切り」の嵐が吹き荒れた08年末に失業。その後自覚症状がありながらも所持金に余裕がなく国保には加入できないまま、癌で亡くなっている。40歳でやはり非正規雇用の男性は社会保険には未加入で、受診した時には既に呼吸不全状態。4日後に肺結核で死亡。また、51歳の非正規雇用の女性も社会保険加入を拒否され、救急搬送されるものの、2週間足らずで死亡。肺癌だった。
 一言で「癌」と言っても、事例を見ていくと脳や骨に転移していたり、とてつもなく深刻な状況であることがわかる。癌と聞くと「痛い」というイメージがあるが、どれほどの痛みに耐えたのだろうと思うと愕然とする。報告には「死ぬまで痛みをがまんし続けた」2例も紹介されている。一人は54歳の男性、非正規雇用で無保険。自覚症状があって受診するも、3日後に亡くなっている。もう一人は60代の元派遣社員。数年前から自覚症状があったもの、受診した時には胃癌末期で1ヶ月後に亡くなったという。
 また、もともと癌があったものの経済的な理由によって治療を中断したために再発し、死亡してしまった人や、医療費支払いのために借金をした結果、経済的に困窮し、治療が遅れて亡くなってしまった人もいる。
 また、「正規の保険証」を持っている人も治療を受けられていない。65歳のおそば屋さんを営む男性は国保に加入。自覚症状があったものの受診せず、やっと入院した時には手遅れで2週間後に亡くなった。また、救急搬送されて即日入院したタクシー運転手の50代男性二人の事例もあるのだが、二人はいずれも社会保険に加入していた。
 今回の調査で最年少だったのは39歳の男性。肺癌で亡くなった男性は初診時に既に歩ける状態ではなく、7ヶ月の入院を経て亡くなっている。驚いたのはこの男性は養護施設で育ち、15歳でそこを退所してからは住民票を定めることもできず、飲食店などの住み込みの仕事で全国を転々としていたということだ。15〜39歳までの間に国保に加入した期間はわずか2ヶ月ほど。男性は生前、「保険証がなかったら病院へは行けない。自分みたいな人は周りにいっぱいいた」と語っていたという。
 この連載でも「養護施設出身」の人とホームレス化の問題などに触れてきたが(家族福祉がないため、住み込みの仕事を転々とする人が少なくない。また失業しても戻る実家や頼れる親などがいないため)、この問題は当然ながら医療の分野にも繋がるのだ。
 それにしても、報告を読んでいると「どうして?」という疑問ばかりがわいてくる。どうしてお金がないだけで、こんなに辛い思いをしなくてはいけないのだろう。辛い思いをするだけならまだしも、報告書に掲載されている人のすべては命を失っているのだ。
 そしてそこには、「意識混濁で救急搬送」などの記述が多い。多くの人はずーっと前から痛みがあったり何か身体の中でトンデモないことが起こっているとわかっていても、限界まで我慢し続けたのだ。
 今回の報告の中には比較的高齢の人が多かったが、若い層にも「保険証を持っていないから病院には行けない」「お金がないから医者にはかかれない」という人は大勢いる。そしてそんな人の多くは、「保険証がなかったりお金がなかったりすると医療を受けられない」と思っているのではないだろうか。しかし、病気で働けず生活費もなく医療費もない場合、当然だが生活保護を受けることができる。そして生活保護を受ければ医療費は無料となる。こういった事実があるにもかかわらず、この報告には、市役所に医療費の相談に行っても何の手もうたれなかった、という事例もある。だからどうしてこの国は、「使える制度」を教えてくれず、隠すことばかりに必死になっているのだろうか。しかも、命にかかわることを。「保険料を払えるのに払えない悪質な滞納者」的なレッテルがいまだに幅をきかせる陰で、こうして多くの命が奪われている。 
 ちなみに私はぜんそく持ちでアレルギー体質なので、一生病院通いが続くことと思われる。更には一昨日くらいから目が痛くて今日、眼科に行った。そしたら目の涙腺に7ミリほどの髪の毛があまりにも器用に突き刺さっているということで、抜いてもらったらすぐに治った。目にちょっとなんかが刺さっていただけでも痛くて痛くて大騒ぎして丸一日寝込み、その上周りの人には「目が痛い」という理由で八つ当たりしまくっていた私にとって、「どこかが痛かったり悪かったりするのに病院に行けない」ことは地獄と同義である。そんな私が将来的にお金がなくなったら病院にも行けなくなるのだろうか? と不安だからこそ、自分のためにこんなひどい制度をどうにかしてほしい、と切に願っているのである。

※今年もメーデーが近づいてきました! 今回のタイトルは「自由と生存のメーデー10 ──PRECARIAT-Z ──『逆襲の棄民 パンドラの箱が開く』」
・メーデー集会   5月2日 15時〜(千駄ヶ谷区民会館 )
・サウンドデモ   5月3日 17時〜(新宿中央公園 水の広場)
・ムービーメーデー 5月4日 13時〜(阿佐ヶ谷ロフトA)
詳細はこちらで! 現在、いろいろ準備中!

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先月、アメリカの医療保険改革法のニュースが伝えられましたが、
ずっと以前から「国民皆保険」の日本でも、こんな現実が進行中。
制度があっても、「隠されている」んじゃ何の意味もない!
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