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ムリを承知で読み解くコラム!
「マガ」と「ジン」のコラムリコラム第5回

090610up

冤罪と死刑、
「足利事件」が投げかけたもの

マガ 久しぶりで、ニュースを見ていて胸にジンッときた。うーん、でもよく考えると、これがいいニュースかどうか分からないけど、とりあえず「足利事件」の菅家利和さんが釈放されたことは喜びたいよね。

ジン そうだね。足利の女児殺害事件で無期懲役刑が確定していた菅家さんが、6月4日、異例の釈放になった。菅家さんにとっては17年ぶりの「シャバ」(菅家さんの言葉)だもんね。検察側が完全に自らの失敗を認めたわけだ。しかし、これぐらい大きな問題を後に残した事件も少ないだろうね。なにしろ「裁判員制度」が始まった直後の出来事だもの、これからの裁判に大きな影響を与えると思うよ。

マガ 菅家さんの「警察、検察、そして裁判官にはぜひ謝って欲しい。謝って済むことではないけれど」という言葉には、ほんとうに悔しさが滲んでいたな。それにしても、こんなに冤罪が次々に生まれるというのは、どこかに大きな問題があるということだよね。

ジン それに関して、物凄く怖い記事が朝日新聞(6月5日)に載っていた。ゾッとする。読んでみるね。

<「東の足利」が覆った今、「西の飯塚」はどうなるのか―。弁護士らがささやく事件がある。
 92年に福岡県飯塚市の女児2人が殺された事件だ。市内に住む久間三千年(くまみちとし)元死刑囚(08年に刑執行)が94年に逮捕された決め手の一つは、やはり導入間もないDNA鑑定だった。
 県警は逮捕前、任意で採った元死刑囚の髪の毛と、女児の体に付いていた犯人のものとみられる血液を警察庁科学警察研究所(科警研)に持ち込んだ。科警研が使った複数の鑑定法のうち、足利事件と同じ「MCT118」で一致したとされる。元死刑囚は一貫して否認したが、最高裁は06年に鑑定の証拠能力を認め、他の状況証拠とあわせ死刑判決を導き出した。
 だがこの事件では、検察側が逮捕前、帝京大の石山昱夫(ひろお)教授(法医学)=当時=にも別のDNA鑑定を依頼。こちらは試料から久間元死刑囚と一致するDNA型は検出されなかった。
 この結果も一審の公判途中から証拠採用されはした。弁護側が「科警研の鑑定と矛盾している」と主張したが、判決は「科警研の鑑定で試料を使い切っていた可能性もある」と退けた。」(後略)>


 どう? 菅家さんの足利事件と、DNA鑑定に頼るという意味で、ほとんど同じ構図だろう? ただまったく違うのは、菅家さんが無期懲役で生きていたこと、そしてこの久間さんが死刑囚で、すでに処刑されていること。

マガ すでに処刑されていた…。もし足利事件と同じ冤罪だったとしたら、こんな恐ろしいことはない。回復不可能。

ジン この飯塚事件では、再結成された弁護団が「同じ方法の足利が誤っていたと証明できれば、飯塚でも十分な証拠になりうる」として、名誉回復を求めて死後再審の準備を始めたという。「二つの事件と同じ鑑定方法は03年まで主流だった。特に90年代初めの導入初期のころは技術的に不安定だったとみられ、この時期を中心に足利事件と同じようなケースが今後も出てくる可能性がある」と、同じ記事では書いている。

マガ 死刑制度そのものへの疑問も出てくるよね。もし冤罪で死刑執行されていたとしたら、それこそ取り返しがつかない。菅家さんの言葉じゃないけど、謝って済むことじゃない。

ジン さらに恐ろしい事実もある。これも同じ朝日新聞の記事からなんだけど、こういう記述だ。

<(前略)すべての死刑囚や懲役囚にDNA型鑑定を受ける権利を認めたアメリカ。精度の高い方法での再鑑定で、08年までに計237人が再審無罪判決を受けている。鑑定で無罪を勝ち取った元死刑囚や市民団体の求めで04年10月に成立した「イノセンス・プロテクション・アクト(無罪を守る法律)」に基づくものだ。(後略)>

 04年~08年のたった4年間で、なんと237人もの「冤罪」が明らかになったというんだ。アメリカで起こったことが日本で起こらないとはいえない。多分、似たようなケースは日本でもたくさんあるに違いない。もし被告側から再鑑定要求があったら、無条件で再鑑定を認めるべきだよね。でも、日本の司法はほとんどそれに応じない。何しろ日本の場合、有罪率が他国に比較して極端に高い国だから。

マガ 有罪率?

ジン 日本では、起訴されたら有罪になる確率が99%を遥かに超えているそうだ。もちろん、検察側が「コイツは絶対に有罪だ」と強い自信をもって起訴するから、証拠も揃っているし自白も得ている、という場合がほとんどだという。だから、ほとんど無罪判決を出したことがない裁判官も多いんだそうだ。つまり、起訴された段階で、裁判官自体が「被告人有罪」の心象を持っていない、とは言えないわけだ。それだけ日本の検察が有能だと言われればそれまでだけど、でもこの高い有罪率の陰で、今回のような「証拠の過信」が起きている可能性はあるよね。一度得た証拠を再調査することなどめったにないというから。

マガ でもさ、もしさっきの「飯塚事件」の久間死刑囚が冤罪だったとしたら、どうするんだろう。弁護団が再結成されたというよね。当然、DNA型再鑑定も申し立てるわけだ。そこで今回の菅家さんと同じような結果が出たら、どうなるんだろう。国家が間違えて人間を殺してしまったということが明らかになったとしたら…。

ジン 死を回復することは、神様にもできない。

マガ 日本には死刑制度支持の人が80%もいるというけど、この点はどう考えるんだろう。僕は今回のことで、少なくとも一人でも冤罪の可能性があるならば、死刑は廃止するべきというほうに傾いている。もちろん、被害者家族の感情を考えれば、揺れてしまうんだけど。

ジン 僕もほぼ同じように思うね。本来、刑事訴訟法、刑事罰というのは「応報刑」、つまり「仇討ちの思想」からできているものではない。そこのところは、厳密に分けて考えなければいけないと思う。とにかく、この足利事件は、「死刑制度と冤罪」をきちんと関連付けて考えなければならない契機になったと思う。

もう誰が出てきても驚かない

マガ なんだか、政治が末期症状を呈してきたね。

ジン まったくだ。麻生政権、何がなんだか分からない。厚労省の分割再編騒ぎ、鳩山邦夫総務相の西川善文日本郵政社長解任の主張、山本拓自民党衆院議員による「総裁選の前倒し実施要求」、次期総選挙における世襲制限問題、突然の議員定数削減案、ほんとにもうメチャクチャって感じだね。これじゃあ麻生さんも、衆院解散になんか打って出られない。

マガ でもいずれにしろ、9月には任期満了だから、どうあがいたって選挙をやらざるを得ない。

ジン そうだよ。解散なんてやらなくたって、選挙は来る。麻生さん、ついに伝家の宝刀を抜けないまま、追い込まれ選挙に突入せざるを得ないだろうなあ。ただひとつ、麻生さんの最後の頼みの綱は7月12日投開票の東京都議会議員選挙だ。これで何とか民主党に勝てれば、その勢いをかって解散に打って出る、と考えているらしい。ちょうど麻生さんが執着しているサミット参加が終わったあたりで選挙ということになれば、麻生さんの最後の花道も飾れるわけだし。だからいま、自民党は固唾を飲んで都議選の行方を見守っているという状況だ。

マガ そうか、それで麻生さんが都議選応援に回り始めたんだ。7日の日曜日には立川市あたりで街頭演説していたし、都議選立候補予定者の事務所回りもしていた。首相が都議選の応援に事務所回りをするなんて、異例のことらしいものね。でもそれだけ力を入れてもなお、都議選で自民党が負ければどうなるの?

ジン それこそ麻生下ろしの風が強まるよ。さっきの山本拓議員らの動きが加速されるだろうし。

マガ 麻生下ろしが本格化すれば自民党は大揺れだろうけど、じゃあ次の総裁は誰が有力なの?

ジン 若手がいいとか初の女性総裁とか、いろいろささやかれているけど、聞くところによると、どうも舛添要一厚労相を推す声が強いらしい。本人もかなり色気があるらしいし。

マガ えっ、舛添さん? まあ、このところ厚労省がらみの問題がとても多いから、何かとテレビには出てくるので顔も売れてるけど。でも、彼は参院議員で当選2回、それに無派閥でしょ。いままでの例からいえば、とても総理大臣になれるような位置にはいないよね。

ジン とにかく命がけで与党の座を死守したい自民党だから、なんだってありでしょ。なにしろ社会党と連立を組んで、与党にしがみつくという奇策に打って出たこともある党だからね。

マガ それにしても、舛添さんですかあ? あの人、確かにやたらテレビには出てくるけど、いったい何をしたのかなあ。年金崩壊だって後期高齢者医療制度、介護保険や国民健保の破綻、幼稚園保育園統合問題、医師不足問題、派遣切りに象徴される労働者派遣法の問題や障害者自立法だって、何ひとつ解決していないじゃない。新型インフルエンザの対応にしても、厚労省現役検疫官の木村盛世さんに「パフォーマンスに過ぎない」と厳しく批判されていたし。

ジン 何をやったかなんてことより、国民人気が優先される。あの麻生さんだって、アキバ系にもてるという、ほんとかどうか分からない人気に乗っかって総裁選に勝ったんだから。

マガ その結果が、これですけど…。

(放光院+α)

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