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ムリを承知で読み解くコラム!
「マガ」と「ジン」のコラムリコラム第6回

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党首討論から見えたもの

マガ 17日の2回目の党首討論、見た?

ジン うん、ライブではもちろん見られなかったけど、録画して。45分ほどだから、それほど退屈せずに見られたな。それに今回は、あまり野次も飛ばずに、聞きやすかったしね。

マガ ぼくは、ニュースでさわりを見ただけだけど、どうも麻生首相、劣勢だったような気がする。ジンはどう思った?

ジン 個人的な感想から言えば、鳩山由紀夫民主党代表の勝ちだと思う。7:3ぐらいの勝負だったんじゃないかな。

マガ そうか、やっぱり。いろんなメディアの報道でも、そういう見方が多かったみたいだけど。

ジン まあ、それが一般的な感想じゃないかな。でも、討論の中身はともかくとして、気になったことがあった。これじゃ自民党も麻生さんを支えきれないだろうな、と思ってしまったことが。

マガ 討論の内容に関係なく?

ジン そう。まずひとつ。麻生さんがほとんどペーパーに目を落としながら、つまり官僚か側近か分からないけど、誰かが書いた資料、もしくは想定問答集に頼って議論していたこと。これは、鳩山代表がそういうペーパーをあまり使わずに議論していたのとは対照的だったね。あれじゃ、どっちが中身をきちんと理解して話しているか、印象で負けてしまうよ、麻生さんは。

マガ そうか、テレビニュースでは、あまりそういうところは分からなかったけど。

ジン そして、もうひとつ。これは麻生さん自身のことじゃなく、議論を聞いていた自民党議員たちの反応なんだ。

マガ うん、今回はほとんどつまらない野次を飛ばさなかったらしいから。

ジン いや、そういうことじゃない。自民党議員たちの一部ではあるけど、腕組みをして下を向いていたことなんだ。

マガ つまんなくて眠ってたんじゃないの? それはいつものことでしょ。

ジン いや、それも違う。眠っていたんじゃない。麻生さんが話すたびに、下を向いたまま小さく首を横に振っていた議員が何人かいたということなんだ。

マガ 自民党議員が、麻生さんの言うことを否定していたってこと?

ジン つまり、「ああ、これじゃダメだ、麻生さん、負けてる」と、自民党議員の一部の人たちも、聞きながら思っていたんじゃないか。自分のところの党首の言い分に納得できない辛さ、それがうつむいて小さく首を振ることにつながったんじゃないか。見ながら、ぼくはそう感じていたんだ。

マガ 確かに、それは辛い。この人のもとで総選挙を戦わなければならない議員たちが、それではね。

ジン どういうつもりで腕組みして目を伏せていたのか、ほんとうのところは分からない。これは、あくまでぼくの個人的な感想だからね。でも、「もっと点数稼いでくれよ。これじゃ民主党に負けちゃうよ。オレの選挙区、もたないよ」。そんな嘆きが、彼らから聞こえてきたような気がしたんだ。

「ねじれ現象」の終焉

マガ どうも、麻生さんが動けば動くほど、すべて裏目に出ているような気配だね。

ジン 麻生さんは、7月12日の東京都議会議員選挙に、最後の望みを託している。都議選でなんとか比較第1党の座を確保して、その勢いで解散に打って出よう、というのが“麻生最終戦略”なわけだ(注・定数=127、現有勢力、自民=48、公明=22、民主=34、共産=13、ネット=4、など)。
そこで自民党の全候補者58人の選挙事務所回りをしている。もちろん応援のつもりだ。でもさ、その様子をテレビで見ていると、なんだかとても痛々しい。むりやりの作り笑い。まるで似合わない大げさなはしゃぎっぷり。かなり無理なジョーク。「生で麻生のツラ見ると、オレのツラ、それほど悪くねえだろ」などと、野卑な言葉遣いとくだけた言葉遣いの区別も分からないようなギャグを飛ばしての受け狙い。それこそ、太宰治の『人間失格』じゃないけど、“わざとわざと”な異様な振る舞いに見えて仕方ない。そこがどうにも寒々しく痛々しい。

マガ まあそれは、見る人の主観によるでしょ。

ジン それはそうだけど。実は先週、自民党は極秘に衆議院選挙動向調査をやったらしい。その結果が、麻生さんの痛々しさを示しているような気がするんだよ。
この自民党の極秘調査、先日このコラムで紹介した民主党の調査以上に衝撃的だったというんだ。なにせ、自民党で選挙区でなんとか当選確実なのは、せいぜい100名ほど。ほかに当落線上が20名前後。比例区での50名ほどと合わせても、200名を切ることは確実。最悪の場合は、150名を割り込むことも予想されるという。現在の自民党衆院議員数は(河野洋平衆院議長も含めて)304名だから、半分以下になるということだ。あの小泉“郵政改革”選挙で得た3分の2以上という圧倒的多数が、これで終わる。そういうふうに国民が見ているということなんだ。

マガ そうなると、やっぱり麻生下ろしの風が吹きまくる。

ジン とっくに吹き始めているよ。山本拓衆院議員が「総裁選前倒し実施要求」というのを始めたよね。これに、108人が賛同署名をしたと、山本議員は言っている。今後もっと増えるだろうとも。さらに今度は、清水鴻一郎衆院議員が「麻生首相の信任投票を呼びかける文書」というやつを、全自民党議員に送りつけたんだ。つまり、もう麻生首相の下では選挙できないから、不信任を突きつけようというわけだ、率直に言ってしまえばね。この清水さん、まだ当選1回の新人議員さんだから、麻生さん、新人さんにさえ見限られたわけだ。

マガ そうなると、当然、首のすげ替え。解散前にまたしても首相が代わるの? もう4回目だぜ。選挙での民意も聞かずにたらい回し。いい加減にして欲しいけど、いったい誰に?

ジン この前言ったように、舛添要一厚労相が意欲満々だそうだよ。支持者と食事会をした後は、「総理になるぞーっ!」って雄叫びを上げるそうだからね。

マガ それホント?

ジン いや、前回ここで話したときは、教えてくれたジャーナリストも半信半疑だったようだけど、実は、あまりの麻生政権の支持率の低さに、官邸では早めの内閣改造を画策していた。そこでは人気(そんなものがあるかどうか分からないけど)を当てにして、舛添さんを官房長官か党幹事長に、という案が強かったらしい。しかし、これは舛添さんが蹴った。「幹事長なんて馬鹿馬鹿しい。選挙で負けたら責任を取らされるだけじゃないか。それより、短期間でもいいから総理大臣の椅子に座りたい」ということらしい。

マガ いずれにしろ、麻生さんじゃ自民党に勝ち目はない。そうすると、「衆参ねじれ現象」も終わるわけだね。しかし、もうじき終わるはずの3分の2条項を使って、しかももうじき首相の座を去る麻生首相の下で、またも無理押しの法案が成立。

ジン そう、19日に成立した海賊対処法などの3法案がそれだ。これでとりあえず、与党が狙っていた法案はすべて成立した。だけどね、参院で否決された法案を、衆院の再議決で成立させるという異常事態が、こんなに続いたことは、どう考えてもおかしいよ。

マガ 衆議院と参議院の議決が違ったときは、もっと真剣に議論しなくちゃおかしいよね。それに、どちらが最近の民意かといえば、当然、参議院のほうが近いんだから(注・前回の衆院選は2005年9月、参院選は2007年7月)、参院の意向のほうが、現在の国民の声に近いともいえるのに。

17年前の危惧が現実に

ジン 2008年1月の補給支援特別措置法(注・インド洋での米軍への給油のための法律)で、この一連の流れのきっかけを作った福田前首相だって、世論の動向を最後まで気にしていたし、当時の与党内にも賛否両論が渦巻いていた。それほどこの3分の2再議決は、慎重に扱わなければならない伝家の宝刀だったんだ。

マガ しかしその後、まるでタガが外れたように、これを与党はどんどん使いまくった。宝刀、使いすぎて刃こぼれだらけのなまくら刀になってしまった。一度使ってしまうと、もうそんな緊張感なんか忘れてしまうんだろうね。

ジン そう。福田政権以来たった2年も経たないというのに、この3分の2での再議決は、なんと12回も行われて計17本もの法律が成立したんだよ。

マガ へえ、そんなに多いの?

ジン 国民が与えた「衆参ねじれ」は、「衆議院では自民党に勝たせすぎた。すべてを自民党に任せたわけじゃない。だから参議院選挙では野党に勝たせた。参院選での結果を尊重して、与野党は法律の中身などについて、もっときちんと議論した上で合意をし、政治を行うべきだ」という意味だったはずなんだ。それを、与党は無視し続けた。

マガ だから最近、ついに「そんなに与党が数にものを言わせるなら、今度は与野党逆転だぞ」という国民が増えてくることになったわけだ。どうも、与野党逆転というのが、今度の総選挙のキイワードになりそうだね。

ジン それにしても、自衛隊の海外派遣なんか、エスカレートする一方だものね。しかし、かつてはそうじゃなかった。例えば、宮沢喜一首相時代の1992年6月にPKO法(正式名・国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)が成立したときには、野党は国会で物凄い抵抗をした。戦後初の自衛隊海外派遣に対するアレルギーは、すごいものがあったんだ。
現在の民主党代表代行である菅直人氏(当時、社会民主連合副書記長)などは、議壇にしがみついて延々質問を続けて時間切れを狙ったり、社会党などの野党は、いわゆる“牛歩戦術”まで駆使して成立を阻止しようとしたほどだった。それほどに、自衛隊の海外派遣に対する懸念は強かったんだ。しかし、近年はどうだろう。そんな抵抗などまるで見られない。それこそ“粛々と”危険な法案は成立し、自衛隊は海外へ出て行く。

マガ 海賊だの北朝鮮だの、スローガンにはことかかない。

ジン このPKO法のころに、『誰も知らないPKO』(集英社、1992年10月刊)という本が出ている。そこで、井上ひさしさんと広瀬隆さんが「『平和のために』と叫ばれた時が危ない」という対談をしているんだけど、その中でおふたりは、こんなことを言っている。

<広瀬 たとえばPKO協力法の第三条のルという項に、『被災民の捜索若(も)しくは救出又は帰還の援助』というのが入っていますが、実は、被災民という規定そのものが曖昧です。よく読んでみると、第三条の二号のところにこう書いてあります。『被害を受け若しくは受けるおそれのある住民その他の者』というのが被災民だというわけです。この「その他の者」という中には、たとえば日本人商社マンだって含まれるわけですね。
 もしこの人たちが巻き込まれてゲリラの人質にでもなった場合には、自衛隊が捜索や救出に乗り出して、紛争を起こしていくかもしれない。(略)向こうが抵抗すれば応戦せざるを得ない。これは内戦への介入に進んでいきますね。
井上 邦人の救出のためにはしょうがなかったということになりますね。(略)1934年、昭和9年の生まれですからよく憶えていますが、あの頃は東洋平和が謳い文句でした。「東洋平和のためならば」という歌もありました。東洋平和のために皇軍がアジア各地に出かけて行く。(略)
 とにかく軍隊を外に出すには相当の覚悟が必要なんです。筋論になってしまいますけど、自衛隊に関しては、今までは国内にいるからというのでみんな黙認していました。解釈の上に解釈を重ねて、軍隊ではないということにしていた。しかし、国外に出るとなると、これは憲法を変えないといけないわけですね。>

 いまから17年前、このような意見はまだ一般的だったと思える。しかし、一度外してしまったタガはもう元には戻らない。ジャブジャブと水は漏れていく。

マガ 今のように、どんどん自衛隊が海外へ出かけるようになると、この広瀬さんの指摘のような事態にならないとも限らない。しかも、そうなった場合、「邦人保護のための自衛隊派遣」に反対すると「お前は日本国民を見殺しにするのか、非国民め」といった批判、非難が殺到するのは目に見えているね。

ジン しかしね、これまでだって、日本人が海外で誘拐されたりゲリラに拉致されたりしたことはあったんだ。それに対し、政府も民間もあらゆる手を使って交渉を続け、なんとか解放に至ったという経緯もある。それは、自衛隊の海外派遣はしないというのが、政府も国民にとっても暗黙の了解だったからだよ。

マガ そういえば、フィリピンでの若王子さん事件(注・1986年、三井物産マニラ支店長の若王子信行さんが、フィリピンのゲリラ組織・新人民軍に誘拐された事件。水面下の交渉の結果、翌87年3月に若王子さんは解放された。身代金等については、いまだに明らかにされていない)なんていうのもあったね。

ジン そう、裏でどういう交渉がなされたのかは分からないけど、とにかくその時でも、自衛隊を救出に向かわせろ、というような議論はあまり聞かれなかった。でも、今度ああいう事件が起きたら、すぐに強硬論が飛び出してくるだろうと思うよ。

マガ 井上さんや広瀬さんが17年も前に心配していたことが、現実になりかねない…。

ジン 民主党は今回、この海賊対処法には反対した。もし衆院選で勝利し、政権交代ができたとしたら、この海賊対処法は廃案にするかきちんと改正するかしないと、筋が通らない。

マガ でも、この前のコラムで触れたように、民主党内部には自民党以上に自衛隊派遣に熱意を示す議員たちがいる。それができるかなあ?

ジン どうしたってやってもらわなくちゃ。今回反対した事案をそのまま放置しておくのなら、それこそ民主党そのものに疑問符がつく。

(放光院+α)

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