戻る<<

コラムリコラム:バックナンバーへ

「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第9回:ああ、陽が沈んでいく…

090722up

ジン 先週は、個人的な用事でこのコラムはお休みさせてもらったけど。

マガ うん、僕ひとりじゃ成立しないコラムだもんね。でもその間も、永田町あたりは大騒動だった。

ジン って、また政治向きの話かい?

マガ 仕方ないよ。これだけメチャクチャな事態が続けば、触れないわけにはいかないでしょ。

ジン 自民党は終わった、の一言でいいんじゃないの?

マガ そう言ってしまえばそれまでだけど。

ジン ほかに言いようがない。両院議員総会開催要求の署名集めなんて、選挙直前に何やってんの?ってことでしょ。選挙を戦うなら、まず自党のマニフェストを高く掲げて、我々はこの政策を実現します、とか何とか宣言するのが当然。そんなことは今どき、中学校の生徒会長選挙でだってやっているよ。「私が会長に当選したら、校庭の花壇整備や昼休みの校内放送での音楽番組の充実、食堂の拡充を公約します」とかね。まあ、中学生以下の党だということがはっきりしただけでもよかったのかもしれないけど。その肝心の自民党マニフェストもまだ作れていないのに、各グループがバラバラに作り始めている。同じ党の中からいろんなマニフェストが出てくるって、もう党であることをやめたって言っているのと同じことだよ。この連中、マニフェストを宣伝ビラぐらいにしか思ってないみたい。つまり、党の公約とは何かを理解できていない。もはや政策集団としての政党ではなくなっているよね。

マガ しかも、その議員総会も結局は開けなかった。21日に適当な懇談会を開き、それでお茶を濁しておしまい。

ジン この懇談会がまたひどかった。午前11時半に始まって、たった30分間ほどだぜ。あれほどの大騒ぎの結果が、たった30分の懇談会って、そりゃあないでしょ。出た意見もほとんどが、「麻生総裁の下、一致団結して戦い抜こう!」とかいう金切り声の無内容。的を射た真摯な批判や反省もなければ、具体的な提案もない。台本どおりのシャンシャン懇談会。そもそも当初、この懇談会はマスコミ非公開の予定だった。麻生首相は例によって、「私が決めたことじゃない。公開非公開は、党執行部の決めること」なんて逃げていたが、「総裁なら公開にする権限があるはず。やっぱり逃げている」と批判されると、開催直前に突然、「私の決断で公開することにした」と方針変更。最後の最後までブレ続けて終わった麻生さんだったね。怒られるとすぐに意見を変えるスネ夫クン。その上、この懇談会も30分過ぎにムリヤリ打ち切り。麻生批判が飛び出さないうちに終わろうという意図がミエミエだった。

マガ 30分の一幕芝居で、はい、一件落着、ですか。

ジン 一件落着じゃない。自民分裂の幕が開いただけのことでしょ。自民党を飛び出してはみたものの影が薄かった渡辺喜美議員の新党構想が、ここに来て急浮上。鳩山邦夫さんや平沼赳夫さんなんかとの提携話が現実味を帯びてきた。考え方なんかバラバラな人たちだけど、とにかく生き残りを賭けた勝負に出ざるを得ないってことだろうね。

マガ 自民党最後の奇策、東国原宮崎県知事“シアター”も哀れな幕切れだったし。

ジン 近頃、あれほどひどいポリティカル・コメディも見たことがないよねえ。それにしても、あんなのに乗っからざるを得なかったところに、自民党の落日が見える。

マガ ヒガシ知事、「国政に行かない場合には、県知事の残された任期をフラーッとして過ごす」なんて、まるっきり宮崎県民をバカにしたようなことを口走っていた。つまり、県知事っていうのは単なる腰掛けで、望みはあくまで国会議員だという本音を、ポロッと洩らしちゃったわけだ。ダシにされた宮崎県民はたまらない。

ジン 85%の支持率とかに目がくらみ、自分は何でも出来ると勘違い、「私が応援すれば負けません!」なんてことまで言った。自分をナニ様だと思っていたのか。そんな程度の人間を引っ張り出そうとした古賀選対委員長も、ついに辞任表明せざるを得なくなった。それでもなお、この勘違い知事「自民党からの出馬要請はお受けできません」と、あくまで自分が主人公みたいな言い草だ。

マガ ホント、呆れるしかない。でも、たけし師匠の言う通りに謝罪して宮崎に帰ったところで、県民は納得するだろうか。自分たちはヒガシ知事に利用されていただけだってことに気づくよね、いくらなんでも。

ジン しかしね、自民党内には、まだこの男を担ぎ出したいという意見もあるんだって。

マガ そんなバカなっ。

ジン ある自民党若手議員の秘書の話だけど、例えば自民党幹部が選挙戦の応援に来てくれて一緒に街宣車に乗ったって、ほとんど足を止めてくれる人はいない。でも東国原知事が街宣車に同乗すれば、今でもそうとうの人々が集まってくるはず。その効果だけでも期待したい、というわけだ。

マガ いわゆる“人寄せパンダ”ね。貧すれば鈍する。

ジン あの小泉劇場の再来を狙ったんだろうけど、そしてそれはマスコミ的には一定の効果があったけど、今回は国民の側が踊らなかった。小泉劇場で大騒ぎした結果が、この格差拡大や雇用問題、弱者切捨てにつながっていることを、国民はもう理屈じゃなく肌で感じているんだからね。

マガ そして、ついに解散。すべては選挙戦へ…。

ジン 選挙については面白い情報がある。いや、面白いというよりヒドイと言ったほうがいいけど。これも、宮崎県に絡む話。

マガ あまり気持ちいい話じゃなさそうだな。

ジン 放言失言妄言を連発して、国土交通相を辞任(08年9月)せざるを得なくなった議員がいたよね。宮崎一区選出の中山成彬サン。この人、あまりの失言連発に与党内からも大きな批判を浴び、ついに「次期選挙には立候補しない」と言明(同10月4日)せざるを得なくなったんだけど、すぐに(同16日)再出馬を表明。今度は、古賀選対委員長にこってり絞られて再度不出馬表明。麻生首相に匹敵するブレまくり議員だった。ところがこの中山サン、今回の東国原知事のゴタゴタに乗じて、またしても衆院選出馬への意欲を見せ始めた。知事が国政へ行かないのなら国政はオレが、ってことらしい。拉致問題で有名な奥さんの中山恭子参議院議員も、陰で応援しているという。しかしこの宮崎一区では、すでに上杉光弘・元参院議員が自民党公認に決定している。だから自民党県連は激怒して、この件に絡んで宮崎一区自民党支部の幹部が除名されるなど、ゴタゴタが続いている。こんなことでは、ここでも自民党に勝ち目はないだろうなあ。

マガ 宮崎県、なんか祟られている? そんな人たちしか人材はいないのかねえ。そういえば、福島瑞穂社民党党首も宮崎出身だったけど。

ジン そりゃ、一緒にしちゃかわいそう(笑)。

マニフェストの中身は?

ジン そんなゴタゴタ話より、もっと触れておかなければならないことはたくさんある。

マガ 本来の政治の話ね。

ジン このまま行けば、民主党が政権の座に着くことはまず間違いない。それに向けて、民主党はかなり具体的な政策を出し始めた。その中には、どうかと思うようなこともあるけど、評価に値するものもある。

マガ いわゆるマニフェスト?

ジン うん、その中で民主党は、NPO法人の認定制度拡大や寄付控除拡大などを書き入れようとしている。NPO団体との協力関係を緊密にして、具体的な政策実現のために活用し、官僚主導の現在のあり方から脱却したい、という考え方らしい。

マガ それはいいね。

ジン NPO活動には、さまざまな分野がある。そのそれぞれの分野別にNPOと民主党議員の連絡チームを組織して、その中で出た意見を立法作業に取り入れていきたい意向なんだ。ある意味で、諸官庁がやっていることの相当部分を、NPOとの連携で政治の手に取り戻そうという試みだと思う。

マガ もしそれが実現したら、現場からの意見が具体的政策に反映されていくかもしれないね。

ジン しかし、そう簡単じゃないだろう。これは、官僚たちが自分たちの手にしている権限を、部分的にではあれNPOに奪われることを意味するからね。ものすごい抵抗をするに決まっている。民主党にそれを押し返すだけの根性があるかどうか。

マガ それこそ官僚は、権限死守に組織を賭ける。

ジン ただね、NPOを体のいい下請けにして欲しくない。官僚たちとの闘いの中で、民主党が「これはNPOの意見だから仕方ない」と逃げて、NPOを隠れ蓑に使う、なんてことになったら最悪だ。

マガ ほんとうにそうだね。

ジン 民主党の連立相手の社民党も、選挙向けのマニフェストを出してきている。でもさ、それを見ると、選挙後の連立政権なんてうまく行くのかどうか…。

マガ 民主党はやっぱり連立を組むの?

ジン 多分、今のままで行けば民主党は、衆院では単独過半数も夢ではない。でも参院は社民党、国民新党との連立でなければ過半数に達しない。スムーズに政権運営をするためには、どうしても連立政権を考えざるを得ない。

マガ その際、安全保障や憲法がネックになりかねない、と。

核問題をめぐって

ジン 鳩山由紀夫民主党代表が「非核三原則」の見直しにチラッと触れて、すぐさまそれを訂正している。つまり、(アメリカ艦船による日本への)核持ち込みについては、議論する必要があると。

マガ 非核三原則とは、「核兵器は、作らず持たず持ち込ませず」というやつだね。

ジン そう。アメリカ艦船がかつて、核を搭載したまま日本の港に寄航していたのは、ほぼ事実。だったら今後はそれをきちんと認めるか否かを議論しておいてもいい。しかも北朝鮮問題が燻っているだけに、安全保障上も考えておくべきだ、というのが鳩山代表の真意だろう。こんなことは社民党は絶対に呑めない。揉める。
でもね、この非核三原則については喜ばしいニュースもある。毎日新聞(7月19日)にこうある。

<ベルギーで欧州版「非核三原則」ともいえる核兵器禁止法制定を目指す動きが出たことで、独伊など米軍の戦術核兵器が配備されている欧州諸国でも撤去を求める軍縮世論に拍車がかかりそうだ。欧州戦術核の行方はオバマ米政権の国防・核戦略次第だが、北大西洋条約機構(NATO)が国際テロなどの新たな脅威に対応するため着手した戦略核の見直し作業にも影響を与えるものとみられる。(後略)>

日本の国是ともいえる「非核三原則」が、世界的に認知されようとしているんだ。今こそ日本外交の出番だというのに、鳩山代表の発言は、むしろ世界の潮流に背を向けることになる。ここで「非核三原則」を再確認して、「日本は絶対にこれを堅持する」と宣言するほうが民主党のとるべき道だと思うけどね。

マガ それからもう一つ。いろんなところで話題になっているけど、世界的ファッションデザイナーの三宅一生さんの、ニューヨークタイムス紙への寄稿が素晴らしかった。

ジン 自らの被爆体験を明らかにして、オバマ大統領へ、広島へ来て欲しいと呼びかけた投書だね。朝日新聞(7月16日)に訳文が掲載されていた。「閃光の記憶 核廃絶へオバマ氏との一歩」と題された文章だった。この「マガジン9条」でも何度か、オバマ米大統領とメドベージェフ露大統領の広島長崎への招請を呼びかけていたけれど、同じ考え方がジワジワと広がりつつあることの証しだ。

マガ 民主党もマニフェストで「核政策」については、はっきりさせてもらいたいよね。

ジン 民主党への疑問はまだある。民主党はどうも、インド洋におけるアメリカ艦船への給油を継続する方針に変えたらしい。

マガ それはおかしい。あれだけ揉めて、民主党も拒否して一度は給油は停止されたじゃないか。

ジン 実際に政権の座に着いたときには、アメリカとの関係を穏便に推移させたい。そのためには給油継続はやむをえない、との政策判断らしい。

マガ それじゃあ、自民党となんら変わらないじゃないか。小沢前代表自らが指揮を執ってのあの給油法反対は何だったのか。

ジン このあたりが、これから連立を組む上で、特に社民党とはギクシャクする原因になってくるだろうなあ。

マガ じゃ、共産党はどうなの?

ジン 政策ごとに政権に協力するかどうかを決めていく、いわば政策協定、というところに落ち着くんじゃないかな。

マガ へえ、ずいぶん態度が変わったようだけど。

ジン 東京都議選の結果に、かなりショックを受けていることの表れだと思う。あれだけ自民党に対する反発が強い中で、共産党は議席を減らす(13議席→8議席)結果に終わった。都議選では、「自民も民主も同じ。真の野党は共産党だけ」という方針で突っ走った。しかし、風は民主党へしか吹かなかった。他党すべてを否定して自党だけが正しいとする訴えは、残念ながら有権者には届かなかったわけだ。そこで、とにかく自公政治を倒した後は、一致できる点では協力し、実際の政策実現能力があるのだということを示していこう、という方向へ多少舵を切った…と。

マガ カニコーブームも、都議選では現れなかったか。

ジン 米軍基地の縮小とか、労働者派遣法、障害者自立支援法、農業政策、高齢者医療制度、年金制度など、個別にはかなり一致できる点はあるわけだからね。現実的な選択かもしれない。

少数政党の存在意義

ジン もう一点、心配なことがある。それは、民主党も国会議員定数削減をしきりに言っていることだ。

マガ えっ、いいことじゃないの、それは。

ジン 一見、よさそうに見える。しかし落とし穴がある。

マガ 落とし穴?

ジン 定数のうち削減するのは、比例部分だけと考えているらしい。例えば、現在の衆院議員定数は480名。うち小選挙区で300名、比例代表が180名。比例から80名ほどを減らし、小選挙区はそのままで定数400名にしようというような意見が強いらしいんだ。

マガ 比例部分を削減?

ジン そうなると、共産党、社民党、国民新党などの少数政党は、ほとんど生き残れない。なにしろ小選挙区制では定員1だから、民主・自民の巨大政党以外の当選はほぼ絶望。少数政党がかろうじて生き残っているのは、この比例部分のお陰なんだ。それが減らされれば2大政党以外は消えていくしかない。共産党の言うように「自民も民主も同じ穴の狢」状況が生まれてしまう恐れがある。

マガ そういえば、僕の選挙区では自民、民主、それに共産と例の幸福実現党が立候補予定。共産の目はないから“死に票”になるのを恐れて民主へ、という人も多いみたい。

ジン 私自身は、小選挙区制にはかなり疑問を持っているけど、そのことは別にしても、比例部分を減らすというのは、明らかに少数意見の圧殺につながるよ。そこは絶対に譲れない。

マガ 多数派が少数意見を尊重してこそ、ほんとうの民主政治といえるはず。少数派が生き残れない世の中は息苦しいよね。

(放光院+α)

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条