戻る<<

コラムリコラム:バックナンバーへ

「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第14回:選挙結果から見えること

090826up

敗因を理解できない自民党

ジン 終わったねえ。

マガ 終わりましたねえ…。

ジン なんだか、ほっとしたような、くたびれてしまったような。

マガ それに、少し心配になってしまうような。

ジン こういう結果は、直前の各メディアの調査で大体予想されていたことなんだけど、それにしても実際にこんな地殻変動が起きてしまうと、これで本当によかったのか、という疑問も確かに湧いてくるよね。

マガ 民主308、自民119、公明21、共産9、社民7、みんな5、国民3、その他・無所属8というのが最終結果だったけれど、これをどう解釈すればいいんだろう?

ジン ひとつずつ考えてみようか。まず、自民党だけど、この壊滅的打撃から立ち直るのは容易じゃないだろうね。まず、敗因を自民党議員すらほとんど分かっていない。

マガ 敗因を理解していない?

ジン 例えば、平沢勝栄議員なんかはテレビ番組で「これは自民党に据えられたお灸です」などと言っていたけど、この意見が典型だね。分かっていない。
この結果は“自民党へのお灸”なんかじゃないよ。“自民党的なるもの”への否定なんだ。自民党的な手法、つまり「個人の生活よりもまず経済回復を優先する。そうすれば個人への見返りは後からついてくる」というような、経済優先路線への反発なんだ。個人所得よりも企業競争力(国際競争力と言い換えるズルさ)の優先、“小泉・竹中改革”という名の個人経営圧迫の規制緩和、さらに財政改革を標榜する福祉予算の削減、弱者救済策の後退、介護や年金の不安、これらのことが積み重なって、個人消費を圧迫し、そのために企業収益も落ち込むという悪循環に陥っていたことへの反省が、自民公明の与党にはまったくなかった。この結果を“お灸”と捉える旧さが致命的だったのにね。
そして、「福祉の党」を掲げる公明党は、まるで逆の方向の自民の政策に乗っただけだった。公明党も惨敗したのは当然だよ。

マガ そこへ、あの麻生首相の失言妄言が重なった。じゃあ、もう自民党再生の余地はない?

ジン 絶対にないとは言えないけれど、かなり厳しいのは間違いない。多分、来年の参院選でも、民主党に決定的なミスが出てこない限り、逆転は難しいんじゃないかな。

自民党、右派とリベラルに分裂?

マガ じゃあ、自民党はどうなっちゃうの?

ジン 少なくとも、分裂含みになるんじゃないかな。例えば、自民党のある部分は極右政党化する…。

マガ 極右政党化? 確かにロシアの自民党は極右政党だそうだけど、日本の自民党もそうなるわけ?

ジン 今回の自民党の敗因の一つに、例の“怪文書”がある。

マガ ああ、あの真っ赤なやつね。僕の家の郵便受けにも入っていた。確かに裏に自民党と書いていなければ、できの悪い右派勢力のアジビラとしか思えない代物だったね。

ジン 本当にひどかった。例えばそのうちの1枚。

 <知ってドッキリ 民主党 これが本性だ!!
  民主党には秘密の計画がある!! 民主党にだまされるな!>
というオドロオドロしいタイトルだが、中身はもっと凄まじい。

民主党と労働組合の革命計画
日教組 教育偏向計画
日本人尊厳喪失進行中>

と続く。そして、靖国問題や従軍慰安婦問題、戦争責任など、自民党政府自らがこれまで踏襲(“ふしゅう”ではない)してきたこれらの問題に関する見解さえあっさり踏みにじるような文章が躍る。いわゆる“自虐史観批判”を繰り返す一部右派勢力の主張そのままなんだ。

マガ うん、ここまで露骨なビラって久しぶりだね。だいたい、いまどき“民主党と労働組合の革命計画”なんて、時代錯誤もはなはだしい。この日本のどこに、そんな労組があるんだろう。うちのおばあさんは、「ヘンなビラだわ。気味悪いわね」と言って、捨ててたけど。

ジン これには多くの人たちが眉をひそめた。麻生首相が追いつめられて「真性保守層を掘り起こす」ために、急角度に右ハンドルを切ってしまったわけだ。実は、このビラには党内からもそうとうな反発があったという。「これでは、いままで自民党を応援してくれていた穏健な保守層にそっぽを向かれてしまう。この内容は、街宣車でがなりたてる右翼団体と同じじゃないか。彼らが一般市民から怖がられているように、自民党も穏健保守層に怖がられてしまう。逆効果だ」という批判もあったんだ。しかし、ワラにもすがりたい麻生首相とそのお友だち周辺が強引に押し切った。裏にはバカな広告代理店の影もちらつく。結果、一部の人たちが危惧していたように、穏健保守層が雪崩を打って自民党離れを起した。

マガ そういえば、投票日の新聞各紙に載った自民党の広告も、同じような内容だったね。

ジン <日本を壊すな。>ってやつね。「偏った教育の日教組に、子供たちの将来を任せてはいけない。」「特定の労働組合の思想に従う、“偏った政策”を許してはいけない。」などね。自民党って、よっぽど“偏った”ことが嫌いらしい。でも「自分たちだって、“特定の財界の思想に従う政策”を続けてきたじゃないか」なんて反論がすぐにできてしまう程度の、最低のネガティブキャンペーンだよね。特に、この<日本を壊すな>には呆れる。「壊したのは誰か」という視点がまるでない。それにね、2005年の岡田民主党が大敗した選挙のキャッチフレーズが<日本をあきらめない>だった。こんな後ろ向きのフレーズは絶対に成功しないんだ。これを作ったのは某広告代理店なんだけど、まるで過去の事例から学んでいない。最低の仕事だ。

マガ 結局、右派層を引きつけようとして、それ以上の人たちに逃げられてしまったわけだ。じゃあ、党内で、そんなビラを推し進めた人たちと、反対した人たちが分裂する?

ジン その可能性は強いんじゃないかな。この壊滅的な選挙結果の中でも、かなり右派的な人たちが当選してきている。麻生首相、安倍晋三(右派ANAトリオと言われていた安倍、中川昭一、麻生のうち中川は比例でも復活できないほどの惨敗だったが)、森喜朗、若手では稲田朋美。それに小選挙区では落ちたけどなんとか比例で復活してきたのが、町村信孝、小池百合子、高市早苗、甘利明、長勢甚遠、など。この人たちは自民党内でもっとも右に位置する。彼らが自民党を建て直すという場合、もはや権力の蜜を持っているわけではないから、極端に右にぶれる可能性は強い。もはや遠慮すべき理由はないんだから。

マガ なるほど。自民党再生には思想を鮮明にするべきだ、というグループか。それはかえって分かりやすいな。

ジン それに対し、加藤紘一、古賀誠、谷垣禎一、与謝野馨、後藤田正純などの党内リベラル派はこれには反対するだろう。ここに深刻な亀裂が生じる。分裂含みと言ったのは、そういうことなんだ。もしそうなれば、自民党自体がかつての社会党のように縮小消滅の道を辿るかもしれない。かろうじて権力で結び付いていた異なる勢力が、その接着剤を失ってバラバラになる。利権という権力の旨味を失えば、再生力そのものも失われる。

マガ そういう党内抗争をやっているようじゃ、とても再生なんて覚束ないな。むしろ、きちんと分かれたほうが我々にも理解しやすいな。自民党は分裂気味の縮小に向かうとして、与党のもう一方の公明党はどうなる?

連立が壊した公明党の選挙マシーン

ジン 公明党は、いまや茫然自失、どうしていいか分からない状態だろうね。なにしろ、選挙戦術には絶対の自信をもっていたはずの公明党。大逆風下の都議会議員選挙(7月12日)でさえ、連立相手の自民党大惨敗を尻目に、23人の立候補者全員を当選させたほどの選挙上手だったんだ。それが今回の衆院選では8人を選挙区に擁立したが、太田昭宏代表、北側一雄幹事長、冬柴鉄三元国交相などの党幹部を含む8人全員が落選! このショックは大きい。

マガ 池田大作先生が大激怒?

ジン それはどうか分からないけど、そうとう怒っていることは間違いないだろうなあ。とにかく今回は、末端の選挙活動を担う創価学会員に、大きな不満が溜まっていたと言われている。いつもの選挙であれば、“F”活動というのが効力を発揮するんだが、今回は実に多くの拒否にあったらしい。

マガ F活動って何?

ジン FはフレンドのF。つまり、知り合いの知り合い、学校の同窓生、会社の同僚の友人、遠い親戚、なんでもありのあらゆるツテを辿って投票を呼びかけるという作戦。

マガ あ、そういえば、なんかの選挙のとき、まったく付き合いのない遠い親戚のおばさんから突然電話があってビックリした覚えがある。「ご無沙汰してるけど、みなさんお元気? ところでもう投票先は決まったかしら? ○○さんてお宅の選挙区でしょ。とってもいい方なのよ。考えてみて」なんて電話だったな。後で考えたら、あれは公明党の候補者だった。

ジン そうそう、そういう活動。ちょっとでも脈があれば△、ダメなら×、投票してくれそうなら○、とかね。△なら繰り返し電話をするとか、突然訪問することだって厭わない。この活動が絶対的なデータになって、これまでの選挙ではものすごい効果を発揮してきたわけだ。ところが今回は電話をしても「自民党と一緒の公明党には入れません」と、はっきり断られるケースが多かったというんだ。そのために、どこまでも自民と運命を共にするような公明党幹部には、一部の学会員から強い不満が出ていたらしい。しかし、いまさら後戻りできず、公明党は選挙戦に突っ込んだ。そして、この結果だ。

マガ この惨敗を受けても、公明党はこれ以後も自民党と一緒に行動するのかね。

ジン それはもう考えられない。先週も話したけれど、選挙後には自民党から距離を置いて、個別政策ごとに、なるべく民主党と協議したい、という動きになるだろうね。ただね、幹部連中が軒並み落選して、今後の方向性を決めようにも舵取り役がいなくなっちゃった。いままでは考えられなかったことだけど、次の公明党大会は初めて荒れ模様になるかもしれない、なんて噂も出ている。

マガ 要するに、実際の政治状況の中では、公明党はほとんど力を失ってしまったということか。

ジン とりあえず、国会の場ではね。でも、地方議会ではかなりの勢力を持っているから無視できない。しかし地方議会では、現在はほとんど自民党と組んでいるけど、それがジワジワと自民離れを起すに違いない。中央の政治状況が、地方へも波及するはずだから。そうなると、地方議会のあり方にも多少の影響は出てくるだろうな。

民主党政府は、徹底的な情報公開を

マガ 僕の選挙区では、残念ながら憲法9条を守る、という候補者はいなかったんだ。民主党の候補者(当選)は、調べてみると改憲論者だったし。そこでずいぶん迷ったけれど、選挙区は白票、比例は護憲の党へ入れたんだ。

ジン そうだね。我が選挙区の民主党候補者(これも当選)は、一応「9条は変えない」と公表していたんで、彼に入れたけど。マガのような悩みはそうとう多かったみたい。つまり、政権交代は実現したけれど、民主党で大丈夫か、という不安。

マガ 例の松下政経塾出身者に代表されるように、民主党には改憲論者がかなり多いもんね。

ジン やっと政権を握った民主党だから、すぐに改憲を言い出して党内に軋轢を生むようなバカな真似はしないだろうけど、そういう底流があることだけは確認しておかなければならない。特に、最近では「新しい歴史教科書」に対する評価では、そうとう危ない議員がいる。都議会で「新しい歴史教科書」の採択を迫っていた議員の中に民主党議員もいたし、静岡県知事選(7月5日)で勝ち、民主党躍進のシンボルになった川勝平太知事だって、実は「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーだったと報道されたこともある(本人は否定しているが、交友関係や著作から、かなり思想的には近いと思われている)。だから、民主党というだけでリベラルだとは、決して思っちゃいけない。

マガ 自民党は右から左までのごった煮政党だと言われていたけど、それが権力という接着剤でくっついていただけだった。同じことが民主党にも言えるわけだ。

ジン そう。まあ、自民党よりは多少中道左派的な匂いはしているけど、党内抗争が始まればどうなるか分からない。とりあえず“権力の分配”が終わるまでは抗争はしないだろうけど。

マガ 権力の分配ってどういうこと?

ジン 官僚支配を打破するために議員100人を政府部内に送り込んで、政治主導の形に改める、というのが民主党の主張だよね。確かに今回の結果は、官僚のやりたい放題に国民の怒りが集中したことも一因だし。しかし、今回が初当選の未経験の若手議員が中央官庁に乗り込んでいって、海千山千のキャリア官僚と互角に渡り合えると思うかい?

マガ うわあ、そりゃ難しい。かえって官僚たちに取り込まれるおそれが強いかも。

ジン だろ? 農水省、厚労省、国交省などは、ほんとうに利権の山盛りと言っていい官庁だ。そんな利権を官僚たちがすんなりと手放すはずがない。とすれば、乗り込んできた何も分からない若手議員を利権の蜘蛛の巣でがんじがらめ、なんてことは容易に予想がつく。そこで“権力の分配”が始まるわけだ。「これはこういうわけで絶対に必要な政策です。実現できれば、先生の選挙区にもこれだけの恩恵が生まれます」てな甘言に、果たして議員たちは耐えられるか。議員は「権力を得た」と錯覚する。そして“新種の族議員”が誕生することになる。

マガ それを防ぐ手だてはないのかな。

ジン 徹底的な情報公開しかない。官僚と議員たちのやりとりは、すべて公開する。刑事事件の取調べの可視化じゃないけど、官僚の説明や議員とのやりとりをすべて記録しておく。それを結果とつき合わせて検証するシステムを作ること。そうすれば、誰の発案か、何のための政策か、資料は正確か、その資料を作成したのは誰か、予算と決算の違いが生じたのはなぜか、その責任は誰にあるのか、などなど国会の場で明らかにすることができる。こうすれば、官僚といえどもそんなにデタラメな予算作成や金の使い方はできなくなるはずなんだ。

護憲政党はどうなるのか?

マガ 残念ながら今回もいわゆる護憲政党は議席を伸ばすことはできなかったね。共産党や社民党は、このあとどうすればいいのかなあ。

ジン 社民党については、難しいなあ。言っていることは正しいし、マニフェストもいいことが書いてあったけど、もはやそんな問題ではない。出来立てホヤホヤの「みんなの党」に、かなりの地方で負けているということを厳しく受け止めなくちゃならないよね。その上で、例えば、環境政党へ脱皮してドイツの緑の党のような方向を模索するのも一つの方法だと思う。社民党という党名だって変更するくらいの思い切った転換を考えたほうがいい。
もうひとつ、地域政党としての役割を果たすこと。今回の選挙で東京8区では社民党の保坂展人氏が、磐石だといわれていた自民の石原伸晃氏に大善戦、肉薄した。当然、比例区での復活当選も望める票数だったけど、比例区では社民党そのものに票が集まらなくて落選した。つまり、もう都会では社民党はほとんど力を持っていないってことなんだ。しかし、東北や九州などではまだ一定の支持があり、比例区でも当選者が出ている。であれば、地方政党へはっきりシフトして、その地方独自の政策を提示したり、地方固有の問題解決に尽力したりして勢力拡大を図る。そういう地道な再建策もあるんじゃないかな。

マガ ヨーロッパでは、社会民主主義が主流だというのに、なぜ日本では社民党が受けないのかな。

ジン 社会党の旧いイメージを引きずっているからじゃないかな。社会党という党名を社民党に変えたけれど、中身はヨーロッパ型の社民主義と同じようには受け取られなかった。いや、むしろ、社会党時代のある種の正論を捨て、時代の風潮に合わせようとして、それまでの政策をほとんど党内の真摯な議論もなく変えてしまった。支持者から見れば、とんでもない変節に映ったとしても不思議じゃなかった。

マガ 政策変更?

ジン そう、例えば自衛隊の扱いについても、なし崩し的に認めて憲法の枠内としてしまった。自衛隊を国境警備隊や国際警察部隊、国際緊急援助隊などに時間をかけて改組した上で、その存在を認める、というような議論も一部ではあったはずだけど、それらの議論の手続きを無視して、一気に現状のままでの自衛隊容認論へ踏み込んだ。党の綱領に抵触するような重要な政策変更をするなら、それに見合うだけの真剣な討論が必要だったんだ。それをやらなかったツケがいま来ていると思う。旧い社会党が真摯な議論抜きで政策変更したようなイメージが、いまの社民党にもついて回っている。いつ変わるか分からない、信頼できるのか、とね。

マガ それならいっそ、日本社会党のままで筋を通せばよかったのに。

ジン そういう意見もあるよ。実際、お年寄りの中には、いまだに選挙で政党名を「社会党」と書く人もいるくらいだから。ある世代の人たちには、社会党にたいするノスタルジーもあるようだし。

マガ 共産党についてはどう?

ジン 筋を通す、という意味では立派だと思う。何を言われても変わらない。例えば、「中国や旧ソ連などからの連想で、共産党という名前のイメージがあまりよくないから、党名変更をしたほうがいいのではないか」というような意見は、かねてからある。しかし頑としてそれには応じない。「委員長選挙を開かれた場で行うべきだ」という意見も、もう言い尽くされているけれど、いまだに実現していない。そのあたりのところに、取っ付き難さを感じている人たちも多いんじゃないかな。「いいことを言ってるんだけど、やっぱり比例区で共産党と書くのには躊躇してしまう」という人も多い。

マガ ま、社民党とは違って、一本芯が通っているというところは立派だと思うけど、そのあたりをもう少しオープンにしてくれたら嬉しいね。

ジン これから民主党という、どうも内部が一枚岩ではないらしい巨大政党が動き出すわけだ。それに対して、自民党はいまやほとんど対抗機能を失った状態だし、公明党も民主党への擦り寄り路線に埋没していくだろう。とすれば、共産党と社民党にはしっかりしてもらわなければ困る。

マガ しばらくは、民主党がどういう方向へ動いていくかをしっかり見つめながら、共産・社民への叱咤激励を続けていくしかないかな。

(放光院+α)

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条