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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第26回:メディアの再生か衰退か(付録・普天間基地問題の解決策!)

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ジン  今回は、ちょっと変わったニュースを取り上げたいんだけど。

マガ  そうね、このところ政治向きの話題が続いたけど、世の中にはほかにもいろんなことが起きているわけだしね。ところで、どんなニュースなの?

ジン  いや、厳密に言えばニュースというより、そのニュースを伝えるメディアの話なんだ。

マガ  なるほど。メディアの報道姿勢があまりにひどい、とか…。

ジン  いやいや、そうじゃない。「毎日新聞が共同通信社に加盟する」ということなんだ。

マガ  共同通信社というのは、ニュースの配信会社だよね。

ジン  そう。さまざまなニュースを取材して、主に国内の地方新聞やテレビ局に記事や映像を配信するという業務を行っているところだ。日本には、共同のほかに時事通信社がある。

マガ  外国にもあったよね。AP通信とかロイター通信とか。

ジン  そう。基本的には同じ役割を担っている。

マガ  それがどうしたの?

ジン  通信社とほかのメディアの違いは、通信社は自前の媒体を持っていないこと。つまり、ニュースを“売る”ことによって経営が成り立っているわけだ。

マガ  ニュースを売るって?

ジン  日本の場合、地方紙は基本的には1県1紙。北海道新聞とか河北新報(宮城)、中日新聞(愛知)などだね。まあ、沖縄などのように琉球新報と沖縄タイムスという有力地方紙が2紙ある県もあるけどね。地方紙の根底には、主として地域に密着した報道を行う、という姿勢がある。しかしだからといって、全国ニュースや世界情勢を報じないわけにはいかない。けれど、地方紙や地方のテレビ局やラジオ局には、全国や世界各地に支局を置いたり、記者を派遣したりするほどの余裕はない。

マガ  そこで、通信社からニュースを“買う”ということになるわけだね。

ジン  そういうこと。共同通信社の場合、各地方紙などが加盟社となって分担金を支払っている。ほかにNHKと日経新聞、産経新聞も加盟社となっているし、民放各局も部分契約してニュース配信を受けている。共同はそれらの分担金や契約料で、全国各地に取材網を張り巡らし、世界各地にも支局を置いて取材活動を続けているわけだ。

マガ  なるほど。地方紙や民放局は、独自取材を少なくして経費を節減しているということなんだね。

ジン  しかし、全国紙といわれる朝日、毎日、読売などの大手紙は、それぞれ独自の取材網を完備しているから、通信社には加盟していなかった。大手新聞は契約社として一部の記事を提供してもらう程度で、その分、契約料も安い。ところが今回、毎日新聞が共同通信社に“正式加盟”する、と発表した。

マガ  ということは、毎日新聞が共同通信から全面的に記事の配信を受けるということ?

ジン  もちろん、全面的というわけではない。自社の支局があるわけだからね。当の毎日新聞は、こう伝えている(11月27日)。

<(見出し)
毎日新聞 共同通信・加盟社と包括提携
 メディア再構築へ協力
(記事)
毎日新聞社と共同通信社、共同通信加盟社は26日、記者会見を行い、記事配信などをめぐって包括提携することを明らかにした。包括提携の大きな柱は毎日新聞社が①各県を拠点とする共同加盟社の一部から地方版記事配信の協力を受ける②共同通信社に加盟する――など。官公庁や企業の発表記事などを中心に、両者から記事配信を受けることにより、本社の記者は独自の視点で取材を進め、強みとしてきた調査報道や解説記事をより充実させる。(中略)
新聞社が通信社に加盟して配信記事を活用するだけでなく、共同通信社加盟の新聞社と記事配信などで協力関係を作るのは画期的。3者はメディア再構築へ向け、緊密に協力することになる。本社は全国紙として支局ネットワークと地域面の枠組みを堅持しながら、独自の取材を展開する環境を整える。(以下略)>

マガ  うーん、どうもよく分からない。

ジン  当然だけど、毎日新聞の記事だから自社に都合のいいようにしか書いていない。しかし、よく読めば分かると思うけど、これは毎日新聞社の経営合理化策だと思うよ。例えば、上記の記事の中の①を見れば実態が分かる。

マガ  各県の地方紙から、その地域のニュース記事を回してもらう、ということだよね。

ジン  そう。つまり、今まで各県に置いていた毎日新聞支局が独自に取材して書いていた記事を、各地方紙からの配信記事に置き換えようということだ。地方紙との連携とはいうけれど、実態は各地方支局の経費削減、つまりリストラ策だろうね。

マガ  なるほど。地方紙から記事をもらえれば、支局の記者は減らせるわけだものね。

ジン  実は毎日新聞も含めて、大手全国紙も地方紙も、新聞は軒並み減収に苦しんでいる現状がある。出版界も同じことなんだけど、ここ10年以上、右肩下がりで減収減益なんだ。日本全体を覆う不景気は、特にメディア産業を直撃している。メディア産業の中でも、特に「活字文化」といわれる分野での落ち込みは著しいものがある。

マガ  テレビ界もずいぶん景気が悪そうだけどね。

ジン  そう。その陰には、やはりインターネットの普及とその影響がある。朝日新聞(11月27日)にこんな記事があった。

<(見出し)
 米の新聞界 消える「紙」
 (記事)
 新聞社が第一報を通信社にまかせるという傾向は、米国では伝統的にみられてきた。だが、その米国でいま、新聞社は日本より深刻な経営難に直面している。
 大手のワシントン・ポスト紙ですら、コスト削減のため国内全支局の閉鎖を決めた。同紙は25日付紙面で、国内に残っていたニューヨークとロサンゼルス、シカゴの3支局を閉め、国内取材拠点を地元ワシントンだけに集約すると明らかにした。ピュリツァー賞をたびたび受賞した名門ロッキーマウンテン・ニューズ(デンバー)は今年2月末で廃刊。同月にはフィラデルフィア・ニューズペーパーズが連邦破産法の適用を申請し経営破綻した。
 コストのかかる紙をやめ、オンラインに移行する動きも顕著だ。米新聞協会によると、08年の段階で全米で有料紙は1408紙。07年からの1年で14紙が消えた計算だ。>

 アメリカでは、日本と違って“有力全国紙”という新聞はない。USAツデーというタブロイド紙があるけれど、これは娯楽紙の要素が強く、やや日本の全国紙などとは傾向が異なる。ニューヨーク・タイムスやワシントン・ポストなどのいわゆる“高級紙”も、基本的にはニューヨークやワシントンの地域紙にすぎない。だからアメリカでは、通信社が発達し、有力紙であっても通信社から国際ニュースや全国の情報を配信してもらう、という形態をとってきたわけだ。

マガ  そこで、地域に密着して取材を行い、ワシントン・ポストがあの有名な「ウォーターゲート事件」を報じたわけだ。

ジン  そういうことだね。日本の場合、全国紙が発達したのは、国土が小さいということもある。東京や大阪などの拠点で印刷した新聞を全国各地に輸送していたのは、狭い日本だからできたことだけど、広大な国土を持つアメリカでは、全国に同じ新聞を届けるのは不可能だった。したがって、各都市や地方に、無数の新聞が誕生したんだ。各地域の独立性を重んじるというアメリカの国民性もあったんだろうね。どんな小さな町へ行っても、「○○クロニクル」とか「××タイムズ」などというその町の新聞が存在する。その数が、上の記事によれば1400紙以上もあるというから驚くよね。さらに、ロサンゼルスには「羅府新報」という日系人コミュニティー向けの日本語新聞もある。同じような外国語新聞もたくさんある。そういう伝統もあって、アメリカには全国紙が誕生しなかったわけだ。

マガ  そういう地方有力紙が、どんどん廃刊していく…。

ジン  ネット通信の発達発展が衰退の一因になった。いまや、あらゆる情報がネット上で手に入る。別に新聞を読む必要はない、というわけだ。

マガ  日本にもその傾向が表れてきた。毎日新聞は、リストラ策のために共同通信社に加盟した、と。

ジン  もちろん、毎日新聞自身がそういうわけはない。しかし、地方支局を縮小削減して経費節減を図る、というのが本音であることは疑いようがないだろうね。

マガ  まあ、それはそれで仕方がないことじゃないの。

ジン  経営的にはギリギリの判断だろうな。このところ、部数減に伴って広告収入も激減しているというし。しかし、そこで心配なのは記事が“金太郎飴”にならないか、ということ。つまり、同じような記事ばかりになって、毎日新聞独自のスクープなどが少なくなりはしないか、という心配なんだ。地方支局の記者数が減れば、当然、そのおそれは出てくる。事件は東京や大阪などの大都市でばかり起きるわけじゃないからね。

マガ  そういえば、毎日新聞はかなりスクープの多い新聞だといわれてきたよね。

ジン  ところが、ネット上で“速報”が流れるような環境になってきた。せっかくのスクープが、紙媒体の新聞そのものよりも早く世間に流布してしまう。そのため、いまや新聞を読まない(定期購読していない)人たちがどんどん増えている。例えば、NHK国民生活時間調査によれば、2005年には平日に新聞を読んだ20代の比率は、男性21%、女性16%(同じ調査で、1975年には、男性61%、女性48%)。これを60代で見ると男性73%、女性62%(1975年同調査、男性62%、女性31%)だという。つまり、高年齢層では新聞購読率はむしろ上昇気味なのに、若年層の減少率は壊滅的と言っていいほどだ。このNHK調査は5年ごとに行っているものだから、次回の2010年調査では、もっと若者の新聞離れが加速しているだろうね。

マガ  つまり、ネットを駆使する若者と、あまり使わない高年齢層の差が出てきているわけだ。

ジン  この傾向はますます強くなる。そうなると、新聞独自の調査報道がこれまで以上に大切になる。第一報が速報としてネットに流れ、それをテレビがもう少し詳しく報じる。そして新聞はその後、さらにそれを週刊誌が追いかける、という構図になる。ネットでは第一報の詳しい内容は分からない。テレビは残念ながら、表層報道しかしていない現状がある。とすれば、独自の調査で真相に迫る、という新聞の役割はとても大きい。しかし、今回のようなメディア間の提携が進めば、独自の切り口というのが薄れていくおそれがある。どの新聞を見ても、同じような切り口の記事しか載っていないとなれば、逆にある種の報道操作が容易になるという可能性だって否定できない。

マガ  しかし、毎日新聞が伝えているように、配信提携で人員に余裕ができる分、調査報道に人数を投入できる。そうすれば、今まで以上に詳しい調査報道が期待できるかもしれない。

ジン  もちろん、そうなればいい。でもリストラ策の一端であることは確実だから、そう単純には期待できない。これは、ほかの新聞社やテレビ局にも波及していく第一歩なのかもしれない。そうなると、逆にますます新聞離れは激しくなりかねない。だって、どの新聞を読んでも同じような内容だとしたら、テレビ報道やネット速報で十分だ、ということになってしまうからね。

マガ  そうなると、そのうち紙の新聞がなくなって、ネット上にしか存在しなくなるかもしれない。

ジン  その傾向はもう出てきているんだ。例えば『イミダス』(集英社)という年間用語事典があったよね。これが本という紙での形をやめて、『デジタル版イミダス』となって、ネット上で展開している。『知恵蔵』(朝日新聞社)も同じこと。年間事典はこれまで3誌だったけれど、紙媒体として残っているのは『現代用語の基礎知識』(自由国民社)のみとなってしまった。ここは例の「流行語大賞」を主催している老舗でもあるけれど、競合の2誌が姿を消しても、残念ながら部数は上向いていないらしい。年間用語事典という形態自体が、ネット普及の津波の前で沈没寸前ということなんだろうな。

マガ  そういえば昨年あたりから、有力月刊誌がバタバタと廃刊・休刊に追い込まれたね。年間誌、月刊誌ときて、いまや週刊誌にも危機が叫ばれている。そして今度は、その活字離れの大波が新聞にも押し寄せてきたということなんだね。

ジン  政権交代で、これからもっと調査報道が大切になるはずなんだから、新聞の衰退はこの国の行方も左右しかねない。今回の提携が決してリストラだけに終わらないで、新聞本来の調査報道に力を発揮して欲しいものだけど。

マガ  そして、テレビも新聞に頼らない独自の切り口でニュースを発信してもらいたいね。どの局を観ても、おんなじ“のりピー”や“市橋容疑者の弁当の中身”じゃ、アホらしくなってくる。

普天間基地を関空へ

ジン  というところで今回は終わるつもりだったけど、ちょっと面白い記事を見つけた。これは、君が前に話していた“奇想天外な提案”にも通じるから、ぜひ触れておきたい。

マガ  うんうん、その記事は僕も見つけて、思わずニタリとしてしまったよ。この記事(毎日新聞11月30日夕刊)でしょ?

<(見出し)
 普天間移設先「関空も検討」
 (記事)
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、大阪府の橋下徹知事は30日朝、記者団に、関西国際空港への移設について「政府から正式に話があれば、基本的に(議論を)受け入れる方向で検討していきたい」と述べた。「あくまで個人的な意見」とし、政府からの要請は「正式にはない」としながらも、嘉手納基地の騒音対策としての訓練の一部受け入れも視野に、関空の軍民共用化や神戸空港の活用も検討事項に挙げた。
 普天間問題が大詰めを迎える中、関空移設を前向きに検討する姿勢を示した橋下発言は波紋を広げそうだ。>


 これは、僕がこのコラム(第22回 普天間基地“移設”をめぐって)で提案したことに似ているね。

ジン  うん、びっくりしたな。君は「造りすぎてほとんど使われていない全国の地方空港に、普天間のヘリコプターを数十機ずつ分散して移転させればいい」と言っていたけど、まさにそれだ。

マガ  この関西国際空港は、海の中の人工島にムリヤリ造った空港で、その島に住んでいる一般人はいない。そこへ米兵を住まわせれば、近隣住民とのトラブルもほとんどないだろうし、膨大な関空の赤字は日本政府が肩代わりすることになる。足りなきゃ神戸空港も使えばいい。これで、関西に3つも並存して問題になっている空港問題(関空、伊丹空港、神戸空港)にもケリがつく。それにね、関空の面積は5.15平方キロメートル、普天間基地は4.83平方キロメートル。つまり、関空のほうが普天間基地より広いのだから、何の問題もない。アメリカだって文句のつけようはないだろう。それに何より、辺野古に新しい基地を造るための膨大な費用も要らないわけだよね。

ジン  うん、まさに一石二鳥どころか一石三鳥四鳥の名案だな。これは政府も真面目に考えたほうがいい。私は前のコラムで、君の提案を「バカバカしいような、素晴らしいような…」と言ったけど、そのうちの「バカバカしいような」という部分は撤回します。うん、君は素晴らしい!

マガ  お褒めいただいて、恐縮です。

(放光院+α)

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