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鈴木邦男の愛国問答

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自他共に認める日本一の愛国者、鈴木邦男さんの連載コラム。
改憲、護憲、右翼、左翼の枠を飛び越えて展開する「愛国問答」。隔週連載です。

すずき くにお 1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ」

『失敗の愛国心』(理論社)

※アマゾンにリンクしてます。

第32回「僕はやってない」

 すみません。ごめんなさい。痴漢をしてしまいました。裁判になってます。これで僕も終わりです。この連載も終わりです。人間として絶対にやってはいけない事です。反省しています。今さら反省しても遅いのですが。

 でも、これは冤罪です。本当はやっていないのです。僕は無実です。でも、もしかしたらやったのかもしれません。つい出来心で、女子高生のお尻を見ていて、ムラムラとして、つい手が伸びたのかもしれません。触った時の手の感触が残っています。でも、本当は、やってません。無実です。信じて下さい。
 実のところは、強制されたのです。命令されたのです。それに抵抗できなくて、仕方なく、やったのです。だから僕は被害者です。助けてください!

 錯乱したわけではありません。クスリもやってません。なぜこんな状況に突き落とされたのか、キチンと説明します。「痴漢をやってくれ」と頼まれたのです。報酬として少々お金ももらいました。人助けです。それだけのことです。

 「それでもボクはやってない」という映画を見た人なら分かるでしょうが、一旦、「痴漢!」と容疑をかけられたら、助かりません。冤罪でも、それを証明するのは大変です。「若い女性が恥をしのんで被害届を出してるのだ。嘘のはずはない」と皆、思うのです。警察官も検察官も裁判官も。
 「たとえ、やってなくても認めて謝罪し、お金を払ったらいい。そうしたら裁判にならない」と勧める弁護士もいます。否認してると、「反省の気持ちがない」と思われ、裁判になり、有罪になるのがほとんどのケースです。新聞に名前が出て、会社もクビになり、家庭も崩壊だ。それでも裁判で戦い、冤罪を晴らすなんて、至難のわざです。でも、実際に闘っている人はいます。

 その人は全く普通の会社員です。Aさんと呼びましょう。ある日、女子高生に「痴漢!」と言われ、逮捕されました。全くの冤罪です。弁護士を雇って闘っています。僕は、和歌山カレー事件の林眞須美さんを救う会の代表をしてますし、いろんな冤罪被害の集会にも出ています。そうした集会で知り合ったのです。Aさんは初対面でしたが、何回か会って話を聞き、これは冤罪だ。この人はやってないと確信を得ました。でも、裁判でそれを証明するのは難しい。
 「再現ビデオを作ったらどうでしょうか」と僕は提案しました。映画「それでもボクはやってない」でもありましたね。セットを作り、電車の中を再現するのです。女子高生はここにいた。自分はその傍にいたが、片手はカバンを持ち、片手は吊革をつかんでいた。とても出来るはずはない… と。
 あるいは、混んでいて、ドアに体を押しつけられていた。手は両方とも前にあって、全く動かせなかった… と。ともかく、「現場」を映像にして、裁判官に訴えるのです。彼らを説得するのです。
 「じゃ、やりましょう」とAさんは言う。弁護士も賛成する。「では、鈴木さんは真犯人役で出て下さい」という。Aさんは冤罪だ。どうも、隣の人の手が伸びて女子高生を痴漢した。異常を感じた女子高生は右回りに後ろを向き、すぐ後ろのAさんの手をとって、「痴漢!」と叫んだ。その時は本当の痴漢は手をひっこめ、左に移動していた。その瞬間、「痴漢!」と言われたAさんを皆が一斉に見た。これで決まった。
 「その真犯人の痴漢役をやって下さいよ」と頼まれたのだ。難しい演技だ。それに痴漢なんかやったことはないし、嫌だよ、と言った。「和歌山カレー事件を初め、冤罪被害者の為に闘ってるんでしょう。かわいそうな被害者を見捨てるんですか!」と言われた。それで仕方なく引き受けた。

 スタジオにセットを作り、電車の一部を再現する。座席に座っている人、立っている人を何十人と雇う。お金だけでも大変だ。主役は女子高生。そして、冤罪のAさん。真犯人の僕だ。何回も何回もリハーサルをした。スカートには触らないが、触っているように演技するのだと思った。5センチ位に手を近づけた。監督に怒鳴られた(映画だから、監督もいる)。「ダメじゃないか、ちゃんと触って下さいよ。リアリティがない!」と。おずおずと触ったら、「真面目にやって下さいよ、お尻に手を押しつけて、なでるんですよ!」と言う。ゲッ、痴漢の冤罪を晴らすために本当の痴漢をやるのか。矛盾を感じたが、人助けだ。本気でやった。「痴漢!いやらしい!」と女子高生(役のバイトの女性)に叱られた。仕方ないだろう。痴漢なんだから。
 「スカートをたくし上げて下さい」と監督が言う。「調書にはそう書いてるんだから」。たくし上げるって、どうやるんだろう。難しい。やっと出来るようになった。生まれて初めての体験だ。たくし上げて、太腿に触る。気持ちがいい。
 「じゃ、パンツの中に手を入れましょう。リアリティが増すでしょう」と僕は提案した。「ダメです。そんなことは調書に書いてません!」。横から弁護士が口を挿む。
 「スカートの上から触るのが痴漢ですが、パンツの中に手を入れるのは強制猥褻罪になります」
 えっ、違うのか。刑も違うのだろう。知らなかった。勉強になった。撮影は、地方で3日間もかけてやった。劇映画を一本、撮ったかんじだ。その間、僕は痴漢をしまくりだった。いいのかな、こんなことをしていて、と罪悪感にさいなまれた。でも、人助けだ。痴漢の冤罪被害者を救うために、せっせと痴漢をした。しかし、これがクセになって、本当に電車の中でやったら困る。怖い。

 この「再現ビデオ」でAさんの容疑は晴れ、釈放された。いや、そうなればいいと思っている。裁判は続いている。
 ともかく女子高生は怖い。どんなに電車が混んでいても、近くに寄ったら危ない。たとえ本人の「勘違い」や「誤爆」でも、「この人、痴漢!」と言われたら、もう助からない。「男性専用車」を作ってほしいと思う。「痴漢!」と因縁をつけられて金を巻き上げられた人もいる。警察に突き出されるくらいならと、金を払う。僕だってそうするだろう。それを「仕事」にしている女子高生もいる。実際に聞いた話だから本当だ。
 友人と二人でやったら確実だという。気の弱そうなサラリーマンを見つけ、わざと近づき、「痴漢!」と叫ぶ。仲間は「私も見た!」と証言する。サラリーマンはもう助からない。10万でも20万でも出す。もっと出す。「なかったら、カードで下しなよ」と言われる。女子高生2人に囲まれて、気の弱そうなサラリーマンが金を下していたら、それは皆、痴漢冤罪被害者だ。
 そんな不幸な人を救おうと、僕は一大決心をして映画に出たのだ。僕だって無罪だ。悪いことは何もしていない!

鈴木邦男さんの交遊の広さには毎回驚かされますが、
過去にはこんな対談も・・・。
(第10回)「保坂展人さんに会いにいった」
昨年の10月に行われたものですが、選挙の前にこちらもぜひ、
ご一読ください。

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