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森永卓郎の戦争と平和講座(23回)

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この1年、憲法をめぐってもさまざまな出来事がありました。
それを私たちはどう受け止め、そして先へとどう活かしてゆくべきなのか。
森永さんが2007年を振り返りつつ、2008年の展望を示してくれました。

第23回:2007年回顧と2008年の展望

 2007年は、護憲派の人たちの表情が、7月の参議院選挙を境にして、大きく変わった。安倍政権の下で施行された改定教育基本法、可決成立した国民投票法案、そして防衛庁の防衛省への昇格。そのいずれもが、軍靴の響きの高まりを強く印象づけるものだった。そして、安倍前総理がタカ派の人たちばかりを集めて開催した有識者懇談会は、現行憲法下での集団的自衛権の行使を是認する答申を出す寸前だった。「そんな馬鹿げたことはありえない」という人も多かったが、私は、このまま行けば、ごく近い未来に日本が戦争に巻き込まれるだろうと確信していた。

 しかし、国民は戦争への道を選択しなかった。参議院選挙で自民党が結党以来初めて第一党からすべり落ちるという歴史的大敗を喫し、野党に過半数を握られる事態になったからだ。自民党が参議院選挙で負けた原因は、年金問題だと言われる。確かにそれが一番大きかったのは事実だが、国民が市場原理主義・タカ派路線に大きな疑問を呈するようになったことも、重要な原因の一つだろう。空気が変わったのだ。

 例えば参議院選挙で当選した民主党議員の7割が、共同通信のアンケートで憲法改正に反対だと答えている。ホリエモンや村上世彰など弱肉強食論者の評価は急落し、新興市場の株価も低迷を続けている。織田信長ブームも沈静化してしまった。憲法改定へと向かっていた大きなエネルギーは雲散霧消してしまったと言ってよい。そこに自民党のなかではハト派と言われる福田康夫首相が就任したから、ますます危機感が遠のき、護憲派の人たちの表情に笑顔が戻ったのだ。

 しかし、これで危機が去ったわけではない。福田首相は、小泉元首相や安倍前総理と同じ清和会、町村派の議員だ。清和会の基本政策は市場原理主義かつタカ派だ。福田総理も本質的には、その路線を踏襲している。安倍元首相のように分かりやすいタカ派路線を取らなくても、対米追従の形で日本が戦争に巻き込まれる可能性は十分残されているのだ。

 例えば、同盟国のなかで日本の負担が突出している駐留米軍の費用負担に関して、日本政府は米国に対して大幅な削減を求めてきたが、08年度予算では、それはかなわなかった。おもいやり予算のうち特別協定分では、政府は米軍の光熱水費の負担全廃を主張したが、08年度は現状維持となった。日米地位協定分でも、米軍基地に勤務する日本人従業員の給与に上乗せしている格差給100億円分の削減を政府は主張したが、08年度予算で削減されたのは、わずか3億円にとどまった。

 一方、12月17日に海上自衛隊のイージス艦「こんごう」に搭載された海上配備型迎撃ミサイル(SM3)が模擬ミサイルの迎撃に成功した。これによって地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)と合わせたミサイル防衛(MD)システムが、本格的に始動することになっている。しかし、軍事の専門家は、このシステムで北朝鮮からの弾道ミサイルを防ぐことは、距離の近い日本ではほとんど不可能だと口を揃えている。MDシステムの導入は、米国本土防衛への協力と米国軍事産業への貢献以外の何者でもないのだ。にもかかわらず、MDシステムは2012年度までに1兆円もの整備費用がかかるとされているのだ。
 2008年度はそうした静かな危機が着々と進展するうえに、もう一つの喫緊の危機が重なる。それがブッシュ大統領の最後の「自爆テロ」だ。

 “Iran was dangerous. Iran is dangerous. Iran will be dangerous.”12月4日にホワイトハウスで会見したブッシュ大統領は、そう叫んだ。この会見は、アメリカの情報機関が、国家情報評価(NIE)で、イランの核問題に関するこれまでの判断を修正して、「イランが03年秋に核兵器開発を中止していた」とする新しい判断を示した直後だった。イラク戦争の反省もまったくなく、このあとブッシュ大統領はイランへの武力行使を排除しない方針を改めて示したのだ。

 軍事や外交、国際経済の専門家は、「アメリカがイランを攻撃して、よくなることは何もない」と口を揃える。しかし、彼らがもう一つ口を揃えるのは、「ブッシュだったらやりかねない」ということだ。彼らの心配通りに、ブッシュ大統領が暴走し始めたら、日本が戦争に巻き込まれる可能性は、再び一気に高まることになる。
 ブッシュ大統領の任期は09年1月まで。それまでの間に彼が暴走しないことを祈りたい。

自民党大敗によって、「9条改悪」の危険はひとまず遠ざかったかに見えました。
しかしその陰では、さまざまな危機が静かに進行してもいるのです。
2008年も、安心してはいられません。

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