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森永卓郎の戦争と平和講座(28回)

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どこまでも続くかのように思える原油や食料品の高騰。
しかし森永さんは「そこに変化の兆しが現れてきた」といいます。
その理由とは? そして、私たちの生活にもたらされる影響とは?

パラダイム転換の兆しか

 世界中を苦しめてきた原油高、穀物高に変化の兆しが現われてきた。これまで一本調子で値上がりを続けてきた原油価格や穀物価格が、大きく値下がりをしているのだ。例えば、ニューヨーク市場の原油先物価格は、7月11日に147ドルの最高値をつけたが、7月25日は123ドルと16%値下がりしている。シカゴのトウモロコシ先物価格は、6月25日に765ドルの最高値をつけたが、7月25日は577ドルと25%も値下がりしている。もちろん、原油価格や穀物価格価格がこのまま一方的に下落していく可能性は、大きいとは言えないが、いまの高水準の資源価格は投機にもとづくバブルであり、私は近いうちにバブルが崩壊して、資源価格が大きく下がると見込んでいる。そのことだけで、世界中の資源高に苦しむ多くの市民生活を救うことにつながるが、私はもう一つ、より大きな効果をもたらすと考えている。それは、金融資本主義が終焉を迎えるということだ。

 イギリスでサッチャー政権が成立した1979年以降、金融ビッグバンと呼ばれた金融自由化のなかで、金融市場に新しい動きが生まれた。それは、資金が余剰となっている経済主体から資金が不足している経済主体へと資金を融通するという金融本来の仕事を忘れ、カネにカネを稼がせ、自己増殖していく収奪型の金融資本が広がっていく動きだった。

 そうして生まれた投機マネーは、アジアの金融危機のころには、強い悪意を持つようになった。彼らは、韓国のウォンやタイのバーツに猛烈な売りを浴びせて暴落させようとした。自国通貨の下落を避けたい韓国やタイの通貨当局は、必死で手持ちのドルを売って、自国通貨を買い支えた。しかし、それは無駄な抵抗だった。投機資金の大きさが、すでに通貨当局の持つ外貨を大きく上回っていたからだ。投機資金によって「資金繰り倒産」した韓国やタイに投機資金は乗り込み、二束三文で株式や不動産を買い漁った。そして、両国の経済が劇的な回復を遂げるなかで、高値で売り抜けたのだ。

 その後、投機資金は日本へやってきて、不良債権処理で莫大な利益を手にした。日本政府と彼らの間に共謀関係があったかどうかは、証明が困難だが、政府の不良債権処理の促進策に乗じて、彼らが再び膨大な利益を手にしたことは事実だ。そして、その後投機資金は、欧米の不動産投機に向かい、そしていま穀物や原油の投機に向かっているのだ。

 その穀物や原油の価格が下がり始めた。もう投機資金には行き場がない。かなりの投機資金が、資源価格の暴落のなかで、消失するだろう。それは、金融資本主義の終焉をも意味する。

 金融資本主義が生み出した投機資金は、大量破壊兵器だ。一見、何も悪いことをしていないようにみえるが、実は彼らの海賊行為に伴って勤め先企業をつぶされたり、リストラを受けた労働者の多くが貧困に陥ったり、自殺をしたりしている。

 その投機資金がいままさに行き場を失って、消滅しようとしているのだ。世界の平和にとって、こんなに素晴らしいことはないだろう。

弱者を追いつめるだけの「金融」や「資本主義」はもういらない!
投機資金という「大量破壊兵器」の終焉は、
日本の、そして世界の多くの人の命と生活を救うはずです。
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