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森永卓郎の戦争と平和講座:バックナンバーへ

森永卓郎の戦争と平和講座

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世界中に激震が走ったアメリカのリーマン・ブラザーズ証券の経営破たん。
次々と明らかになる金融バブルの崩壊、広がる不安。
そんな中行われた総裁選挙では、麻生氏が圧勝。
経済政策を一番にあげている麻生氏ですが、
これで私たちの生活の不安は解消するのでしょうか?

米国覇権の終わりのはじまり

 2008年9月22日、自民党総裁選挙で、麻生太郎氏が、有効投票数525票の3分の2を占める351票を獲得して新総裁に選ばれました。総裁選挙の中盤で、小泉純一郎元総理が小池百合子候補の支持を表明しましたが、小池氏の得票は46票で、特に地方票の獲得はゼロでした。国民がようやく小泉マジックから目を覚ましたということは、とてもよいことだと思いますが、自民党総裁選はいくつかの点で、手放しでは喜べない問題を残しました。

 第一は、マスメディアがまるで日本のリーダーがこのなかから選ばれるという前提で、5人の候補者の動向を伝え、また5人をスタジオに呼んで、討論をさせたことです。実は、自民党の5人の候補者のなかで、政策の差はさほど大きくありません。例えば、最も政策が違うと言われた麻生太郎氏と与謝野馨氏の間でみても、社会保障の財源として、将来的に消費税率を引き上げようとしているのは、二人とも同じです。ただ、いまの厳しい経済情勢に照らして、麻生氏は3年間程度の引き上げは無理だろうと言い、与謝野氏は来年度は無理だろうと言っただけです。また、積極財政論者と呼ばれる麻生氏も、主張した減税の内容は、研究開発投資減税や不動産取得減税、株式投資の減税などで、直接国民の手取り所得が増えるような所得減税を主張しているわけではありません。自民党は、基本的には強い者をますます強くする弱肉強食型、新自由主義的な経済思想から一歩も抜け出していないのです。

 皮肉にも、自民党総裁選挙のさなかに、アメリカのリーマン・ブラザーズ証券の経営破たんのニュースが飛び込んできました。158年の歴史を持ち、全米第4位の証券会社が姿を消すことになったのです。同時に、全米第3位のメリルリンチも、バンク・オブ・アメリカに身売りすることになりました。半年前に破たんした全米第5位のベアー・スターンズも加えると、アメリカの第3位から5位までの証券会社が、わずか半年の間に消えるという異常事態が起こっているのです。証券第2位のモルガン・スタンレーも、三菱UFJグループから出資を受けることになりました。

 これだけのことが起こっているのに、5人の総裁候補は、「日本にとって影響は小さい」とか、「1年程度は日本経済に悪影響がある」という程度の発言しかせず、リーマン・ブラザーズ破綻の背景にある本質にまったく触れませんでした。

 リーマン・ブラザーズ破綻の原因は、サブプライム・ローンのこげつきだけではありません。サブプライム・ローンはあくまでもきっかけに過ぎないのです。本当の原因は、アメリカの金融資本主義が作り上げてきた信用バブルの崩壊です。不動産から、クレジットカードから、自動車ローンにいたるまで、アメリカの銀行は自己資本比率規制を逃れ、そして融資リスクを避けるため、あらゆるローンを証券化してきました。そして、その証券化の流れは、証券会社の手によって、ビルの再開発から学校や病院の再生にまで広がっていったのです。さらに、そのなかでは投資家から集めた資金の何倍もの銀行融資を加えて、より大きな資金を生み出すレバレッジ(てこ)を使った資金の水増し策が採られました。格付け会社は、冷静に考えたら危険すぎる証券や、絶対に投資資金が帰ってこないような案件でも、信用(格付け)を与えました。証券会社には莫大な手数料が入ってくるからです。アメリカの金融業界で取引する人たちは、証券化ビジネスが、すでにバブルの状態になっているのを知りながら、ずっと走り続けてきました。途中では降りられません。降りたら自分がリストラされてしまうからです。

 ところがバブルはいつまでも続けられません。リーマン・ブラザーズの破たんで、その信用バブルが完全に崩壊に向かいました。アメリカの金融機関が抱えた損失は、100兆円を超えると言われています。そのうち、アメリカの金融機関自らが処理した金額は30兆円程度に過ぎませんから、残りの処理はまったなしです。アメリカ政府は70兆円もの不良債権の買い取りを実施する方針です。そのうちどの程度の資金が焦げ付くかは明らかではありませんが、焦げ付いた分は、すべてアメリカ国民の税負担としてのしかかってきます。ですから、アメリカ経済の長期低迷は避けられないでしょう。

 そもそもカネがカネを生むといった金融資本主義を続けてきたことが一番大きな間違いなのですが、少なくとも自民党総裁選挙で、そうした批判をする総裁候補はいませんでした。それはそうでしょう。自民党は、かつて金融資本主義の権化であるホリエモンを賛美し、総選挙の候補者として応援したくらいだからです。金融資本主義は小泉構造改革の重要な部品でした。しかし、それが決して持続性のあるシステムでないことが、今回図らずも明らかになりました。ところが、そのことを自民党はきちんと反省しなかったのです。

 もう一つ、麻生太郎氏が新総裁に選ばれる過程で十分な議論がなされなかったのは、麻生氏のタカ派の部分です。麻生氏はかつて「創氏改名は、朝鮮人が望んでやったことだ」という発言をして、韓国から厳重に抗議されました。麻生総理の誕生で、少なくとも中国や韓国との関係がよくなることは、期待できないでしょう。安倍元総理の時代のように防衛問題で暴走が起きる可能性もゼロではありません。

 一体日本はどこに向かって行ってしまうのか。不安は大きくなるばかりです。

アメリカの金融バブルの崩壊が明らかになったと同時に、
小泉元総理が引退を表明しました。
ひとつの時代が終わった象徴的な出来事に思われますが、
まだまだ不安は大きくなるばかり。
次なる時代を私たちはどう考え、どんな社会を作っていくべきか?
これからが正念場です。

【お知らせ】
このコラムが1冊の本になりました。

『こんなニッポンに誰がした 森永卓郎の政治経済学講座』

(大月書店より10月20日発売決定!)

 

アメリカ型弱肉強食社会をつくりあげた小泉構造改革や、

アメリカの戦争に参加しようとする安倍国家主義政策などを検証しつつ、

ついに崩壊したアメリカの金融バブルをのりこえて、

私たちはどんな日本社会を選ぶべきか? を考えます。

きたる総選挙の前に是非、一読しておきたい必読書。

まわりのみんなにも薦めよう。

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