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2010-06-08up

やまねこムラだより〜岩手の五反百姓から〜

第五十五回

林業の話——薪炭の復活を考える

 3月はじめにタネ菌を植え付けて3ヶ月ほど仮伏せしておいたシイタケのホダ木を、裏庭の杉林のなかに本伏せしました。毎年、30本から50本ほどシイタケのホダ木を作っています。ホダ木は3年ほどで役目を終えますので、つねに現役のホダ木が100本ほど杉林の中にあることになります。今年の秋にはおいしいシイタケが食べられるでしょう。このホダ木を提供してくれたのが、きこりのシンちゃんです。毎年、8000本くらいホダ木用の雑木材を切り出しているそうです。

 このシンちゃんから先日、3トンあまりのナラ材を入手しました。シンちゃんは、歳はわたしよりずっと若いのですが、樹木を扱うのにかけてはまさにプロです。彼からわたしは木の伐採の仕方や、チェーンソーの目立てを教えてもらっています。
 このナラ材を、三日かけてマキにしました。長さ2メートルの材をまず50センチほどにチェーンソーで玉切り(輪切り)します。それをマキ割り機で割っていきます。昔は斧で割っていたのですが、いまは油圧式のマキ割り木を使います。なぜ、マキを割るのかというと、ストーブの中に入るよう細くするためもありますが、それよりも割ることで材から水分を蒸発させるためです。それをマキ小屋に積み上げて半年ほど乾かせば、いいマキになるのです。3トンのナラ材が我が家のばあい、ざっと3~4ヶ月分のマキになります。1シーズンには5~6トンのマキを燃やしますから、これで必要の半分ぐらいかなという感じです。
 ナラは火力が強くて火持ちもよくて、マキとしては最高の材です。岩手は木炭の生産が日本一なのですが、木炭の原料としてもナラ材はすぐれた材なのです。

 この3トンのナラ材の値段が庭先まで運んでもらって、2万4千円でした。直径30センチから10センチぐらいの材が100本ほどあります。これが高いのか安いのか、マチの方には分からないとおもいます。しかし、一度でも伐木した経験のある方なら、100本の木を伐採しそれを運び出すことがどれだけたいへんで危険を伴うか、おわかりになるかとおもいます。はっきりいって安いです。安すぎるとおもいます。
 でも、日本の林業は農業とおなじで、現状は衰退の道をあゆんでいます。少しばかり林を伐採したからといって、作業代のほうが高くつきます。赤字が出るのがわかっているので、耕作放棄地とおなじように、放棄された森がひろがっています。手入れをされない森は荒れてしまいます。原発事故をきっかけに、自然エネルギーの復活をめざすなら、風力や太陽光だけでなく、薪炭の利用も考えてほしいとおもいます。
 ちなみに3トンのマキは、灯油に換算すると約1500リットル分の熱量を発生します。灯油1リットル80円とすれば12万円分の灯油に相当します。せめて、それに近い値段でマキ材が売れるようになれば、日本の林業は復活するかもしれません。しかしいまは、同じ熱量なら灯油の五分の一でしか、マキ材は売れないというのが実情です。
 もっとも、完成されたマキになった状態で業者から買うと、相場は1キロ100円、3トンだと30万円。灯油の倍以上はしますから、自分でマキを作らない人には、ぜいたくなエネルギーになってしまいます。このへんは、米農家には12~13円にしかならない半合(75グラム)のおコメが、都会のしゃれた高級レストランで「ライス」を注文すると200円とか300円とかになってしまう構造と似ていますね。

 昭和30年代ぐらいまでは、日本の都会でも薪炭をふつうに使っていました。この「ふつうに使う」ことが大切だとおもうのです。ぜいたくとしての薪炭ではなく、日常の中のふつうのエネルギーとして、マキや炭のある暮らしを考えてみてはいかがでしょうか。なにも原始時代に戻れ、ということではないのです。わずか50年ほど前の生活を見直してみようということなのです。
 冷房ではなく、扇風機やうちわや打ち水。IHコンロではなく、七輪やかまど。リニアカーではなく、ちんちん電車。それで、わたしたちは十分シアワセではなかったでしょうか。
 原子力発電という人智を超えた途方もないエネルギーを、人間が完全に管理できないと分かった以上、人間が自分の日常の中で管理できるささやかな自然エネルギーを大切にしていく暮らしをもう一度考えてみる・・。そういうパラダイムシフト(発想の転換)があってもいいとおもいます。
 マキのある暮らし、炭を使う暮らし。レトロで、おしゃれで、ぜいたくな暮らしがかってあったのだとわたしはおもいます。そして、みなさんが日常の中でふつうに薪炭を使う暮らしを始めれば、日本の林業は復活するとおもいます。

(2011.6.5)

シイタケのホダ木は、直射日光があたらない林の中におきます。

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以前、火鉢のあるカフェにお邪魔したことがありますが、
なんとも心落ち着く、心地いい空間でした。
もちろん、手間はかかるし火の始末も必要だけれど、
まさに自分の手で管理できる小さなエネルギー。
そんな小さな「転換」から、始めてみることも重要なのかも。

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つじむら・ひろおさん
プロフィール

つじむら・ひろお1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

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