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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第三回

日本の食料自給率が39%に下がった・・

 今から20年ぐらい昔でしょうか。いわゆる「バブル景気」に、日本中が沸いていたころです。経済評論家といわれる人たちのなかで「国際分業論」なるものを唱える人たちがいました。たぶん、オオマエ何とかさんとか、タケムラ某さん、とか言ったような人たちだったと思います。

 「国際分業論」の趣旨は、こういうものでした。土地の高い日本では農業なんかやめて、その土地に工場を建てるのがいい。その工場で、自動車やコンピュータを作ってどんどん外国へ輸出し、そのもうけたお金で安い外国産の食料を輸入すればいいじゃないか、その方が経済効率が高い、というものでした。

 技術の発達した国(日本など)は工業製品をつくり、発展途上国や土地が広くて安い国は農業をやって、それぞれ国際的に分業することで、世界の経済がうまくまわっていく、というような論旨だったと記憶しています。

 今回の新農政(第1回参照)も、いってみればこの「国際分業論」の焼き直しのような気がします。つまり、日本の農業も「担い手」とよばれる大農家や農業法人だけがやればよい、効率の悪い中小農家は、農家をやめるなり農地を担い手に任せるなりして、効率の高い農業をめざせ、ということだろうと思います。

 ところで、昨年2006年度の日本の食料自給率が40%を割り込んで39%になった、と先日農水省が発表しました。「ふ~ん」と私は思いました。「都会の人は、これからタイヘンだなあ」。「農家の人は、これからタイヘンだな」ではありません。

 なぜなら、日本の食料自給率は39%かもしれませんが、それはあくまで平均値。

 私の住む岩手県の食料自給率は100%をこえていますが、東京都のそれは1%です。

 東京の食料の99%は、外部に依存しているのです。

 ですから、東京などの大都会は、外国に依存する食料の割合が日本の平均値よりずっと大きいのは容易に推測できます。おそらく8割以上は外国に依存しているでしょうから、ちょっとダイジョーブかよ、と思ってしまう。


 なにも、中国産の食品や遺伝子組み換えの穀物だけを言っているのではありません。

 このままでは、東京をはじめとする都会のヒトに、新鮮で安全な食べ物が届かなくなるのではないかと思います。高級レストランはたくさんあるのでしょうが、一般庶民の食の質は確実に下がっていくしかないでしょう。食料自給率の低下は、同時に食の質や安全性の低下ももたらすのです。

 といいますのも、これまでの日本の農業を支えている人たちがどんどん高齢化し、耕作放棄地が増えつづけていて、従来型の農業が衰退していく実態があるからです。

 手工芸作品のような農作物を作れる農民たちが、日本の農業の現場からどんどんいなくなっているのです。やまねこムラをみても、60歳どころか、70歳、80歳を越えた老人たちが農業の現場の多くを支えているのです。

 そして、後継者がいないのです。20年後に日本の農業の現場がどうなるか、想像してみてください。

 なぜ後継者がいないかというと、農業だけでは若い人が生活していけないからです。投入する労力や時間や熱意やコストにくらべて、あまりにリターンが少ない。 だから、40代以下の若い世代は、ほとんどムラの外へ働きに出ています。懸命に働いても一家を構えていくだけの収入にならない。そういう農業に若い世代が魅力を感じないのもわかります。

 結果として、古いタイプの農民たちは絶滅に瀕し、日本の農業の現場で生き残るのは、政府の思惑どおり、生産効率の高い農業をやる大農家や企業的農業法人が中心になるでしょう。効率のため、農薬と化学肥料が多投されることでしょう。そういう農業でも、豪州や米国の農業にくらべたら、大人と子どもの差があるのです。期せずして日本は、20年前にオオマエさんたちが唱えた「国際分業」へと進んでいるのが実情です。

 「おそろしい存在、それは食べ物を持たない隣人」という意味のことわざがスイスにあると聞きました。日本政府は「おそろしい存在、それは武器を持った隣人」というつもりなのでしょうが、その前に、自分が「食べ物を持たない隣人」にならないよう、努力するのが先だったと思うのですが・・。

 五反百姓のわたしは、自分の田と畑で作った「一日ニ玄米四合ト、味噌ト少シノ野菜ヲタベ」ておれば、新鮮で安全な食料は確保できるのです。飢える心配はありません。

 ほんとうに、これからの都会の人は、タイヘンです。


私たちの命をつなぐ食べ物を生み出す農業を、
大量生産の工業用品のように考えていいのでしょうか?
効率や合理化だけで考る農業政策の歪みが、すでに出てきています。
引き続き、現場からの声を、お届けしていきます。

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