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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第四回

農薬のはなし

 わたしのような、小規模経営で、いろいろな作物を少しずつしか作っていない農家を「自給的農家」といいます。実際、自給することが第一の目的なのです。

 ビジネスとしては、特定少数の顧客に、おコメや野菜セット、それに手作りの味噌やジャムを直売しています。そのほかは、地元の直売所に、自分の野菜やキノコをならべるくらいです。

 自分の口に入る食べ物だから農薬は使わない、のを原則としています。

 いっぽう、皆さんがスーパーなどで買う野菜を作っている農家を、「販売農家」といいます。こちらは、トマトならトマト、キャベツならキャベツ、と、特定の作物をたくさん作るかたちで専門化しています。せいぜい数種類の作物に、収入を依存していますから、その作物が病気になったり、害虫によって被害を受けるリスクは、ゼッタイ避けたい。

 ですから、皆さんがふだんスーパーで買う野菜やコメには、ほぼすべてに農薬が使われていると思ってまちがいありません。

 (有機栽培や減農薬栽培をしている販売農家もあるのですが、それらの作物は、生協や消費者グループなどと契約していて、特定のルートでしか流通していないので、普通のスーパーでは、手に入らないでしょう。)

 農薬は、機能的に、三つの種類にわけられます。

 殺虫剤・・害虫を殺すクスリ

 殺菌剤・・病気の素になるウイルスや病原菌に対抗するクスリ

 除草剤・・作物以外の雑草を殺すクスリ

 この三種類の農薬を適時、作物の成長段階で使うことで、作物を無事収穫することができるのです。

 虫食い穴があるキャベツを、消費者が好まない以上、商品としてのキャベツには100%殺虫剤が使われている、ということです。

 たとえば、おコメを収穫するまでの過程で、通常5~6回は、農薬が使われます。

 5月。田植え時に、殺菌剤。

 5月。田植え後に、初期除草剤。

 6月~7月。中期除草剤。

 7月~8月。イモチ病対策に、殺菌剤

 8月。カメムシ等の害虫対策に、殺虫剤。

 わたしも、二枚ある田んぼのうち、一枚には、初期除草剤を使いました。ですから、第一回のプロフィール欄で「無農薬有機肥料栽培」と書いてあるのは、ウソということになります。 コメに関しては「減農薬栽培」と書くべきでした。すいません。

 野菜・果樹はすべて無農薬なのですが、田んぼの草取り作業のタイヘンさに負けて、除草剤を1回使ってしまったのが、実情なのです。


 レイチェル・カーソンが「沈黙の春」で、農薬が環境に与える悪影響に警鐘を鳴らしたのは、1962年のことでした。

 それから、45年。DTTなどの発がん性の高い農薬は使用禁止されていますし、代わって安全度の高い農薬が開発されています。

 日本では、ポジティブリスト制といって、農作物の残留農薬の総量が規制される法改正も、昨年の5月に施行されています。

 でも、農薬が両刃の剣である、という本質は、変わっていません。

 病原菌にしろ、害虫にしろ、雑草にしろ、それは本来自然界のいのちの一部です。そのいのちを、人間の都合に合わないから効率的に殺す。それが農薬の役割・機能です。

 たとえば、わたしが田植え後に、初期除草剤を田んぼにまきます。その間、4~5日は、田んぼの水は、せき止めてあります。

 すると、みごとに、田んぼの中にいたおたまじゃくしがいなくなります。「沈黙の田」が、一時的に現出します。雑草の芽を殺すために、除草剤をまく。その結果、目的外のおたまじゃくしまで殺すことになります。

 ところでこれ、どこかの国がやってることと似ていませんか?

 自分の国に都合のわるいやつらには、遠慮なくバクダンを落として、殺す。

巻き込まれて、関係のない子どもや老人も殺されるかもしれない。  でも、それは「しょうがないこと」だ、という発想です。

 あまりに、人間が地球上にのさばりすぎた、と思います。人間だけを中心に、考えすぎた。ジコチュウ、という害虫が、人間の心を穴だらけにしてしまった、と思います。

 農薬を使うのも、バクダンを落とすのも、効率よく、その目的を果たすためです。

 効率、というお題目にひれ伏しているのが、現代文明における人間たちの姿のような気がします。

 穴のあいたキャベツでも、

 「あら、このキャベツ、穴があいてる。きっと、虫がつくほど安全でおいしいのね」 と、喜んで買って食べるようにする・・。

 そういうふうに、わたしたちの意識から変えていかないと、農薬もバクダンも、人類が存続する間は、永遠になくならないのではないか、と思います。

 9条論議も、もう少し人間のありようから考えて(変えて)いかないと、対処療法で終わってしまうような気がしています。

 でも、穴のあいたキャベツでも、消費者が喜んで買う日が、ほんとうにくるのでしょうか・・。

 「そんなこと、あるわけねえべさ」

 多くの農民は、そう思って、穴のあいたキャベツは、棄ててしまっているのです。


穴の開いたキャベツ、曲がったきゅうり、形の悪いトマト。
あなたはそれを手に取りますか、除きますか?
「効率」の陰で犠牲になっているものに、
私たちはもっと目を向けていくべきなのかもしれません。

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