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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

071031up

つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第十二回

「飢饉」のはなし (その2)

 「食う」というのは、生物としての人間の根源的な欲求です。その根源的な欲求が満たされなくなったとき、人間はどうなるのか。「愛」とか「道徳」とか、そんなものが何の重みも持たない世界が現出するのです。

 橘南渓という人が書いた「東西遊記」という紀行文には、津軽のある村で見聞したという、こんなすさまじい話が記録されています。長い引用ですが、これも現代語に訳して、紹介します。

 「このあたりも、飢饉でほとんど餓死して、親ひとり息子ひとりが残った家があった。この親、となりの家にいってこういった。
 『さても、腹がへりますなあ。我が家も家中飢え死にして、男の子一人だけ残りました。この息子も二、三日のうちに飢え死にするでしょう。どうせ死ぬのですから、生きているうちに撃ち殺して喰おうとおもいます。でも、さすがに親としては自ら手を下せない。ですから、あなたが息子を殺してくれれば、そのお礼に息子の肉を半分あげましょう』
 まことしやかに頼むので、となりの男も喜び、『半分肉をくれるというならお安いごようです』 と、ナタを持っていって息子を一撃した。もとより息もたえだえだった息子は即死した。それを見ていた親は、すかさずとなりの男をマサカリで撃ち殺した。
 こうやって策を講じ、二人分の肉を手に入れた男は、二人を料理し塩付けにし、ひと月ほどをその肉で飢えをしのいだ。
 近所の人には『となりの男が飢えたあまりに、うちの子を殺して喰おうとしました。だから、私は、息子のカタキを討ったのです』と吹聴して、公然と二人の肉を食っていた。
 近所の人たちは、その悪だくみを憎みはしたけれど、親子兄弟といえどもお互いに撃ち殺し、食い合う時節なので、誰もとがめるものはいない。しかし、その男も、ついに飢え死にして終わった」 

 温暖化にともなう地球環境の変化で、世界の農業が行き詰まりをみせています。各地で、干ばつや水不足が起こっています。化学肥料の多投などの収奪型農業の限界が見えてきています。世界的な凶作が起こる可能性はある、とわたしはおもっています。
 「な~に、金持ちの日本だもの、いつでも食料を外国から輸入できる」と、考えていたら、それは判断があまいとおもいます。金があっても、食料がなければ輸入できない。どんな国家だって、自国民を飢えさせてまで、食料の輸出はしないのは当然でしょう。
 食料自給率39%の日本に、いつなんどき、こんな飢饉がふたたびやってこないとは、だれも断言できない。「天明の大飢饉」ならぬ「平成の大飢饉」が、やってこない保証はないのです。

 石油資源が枯渇する予想の中、世界の穀物がバイオエタノールのために流用され始めています。穀物を、食料にするのか、エネルギーにするのか、すでに綱引きが始まっています。みなさんすでに実感されているとおり、そのあおりで、食用油やパンや麺類の値上げが始まっています。
 近い将来、日本の肉は、牛も豚もニワトリも、確実に値上がりします。エサとしての輸入穀物がタイヘンな値上がりをしているからです。ガソリン・石油の高値が下げ止まらず、施設園芸(たとえば、クリスマス用のイチゴは、石油を大量に使わないと育てられない)や運搬のコストもあがって、ほかの野菜・くだものも値上がりするでしょう。

 コメに関しては、安い外国産のコメの影響で当分は安値が続くでしょう。しかし、コメは大量に水を使わないと育てられない作物です。温暖化の影響で、世界的な水不足傾向にありますから、コメを作れる農地が減少するとわたしは考えています。そうなると、遠くない将来、コメの総生産量が減り、値上がりに転ずるでしょう。
 食べ物が、買い手市場であるのは、もういくらも続かないとおもいます。
 こうなると、わたし等百姓は、強いですね。フフ・・。金よりも、食い物を持っている方が強い、というあたりまえの状態にもどるのです。

 オーストラリア237%。フランス130%。カナダ145%。アメリカ128%。みんな、食料自給率が100%を越えている国です。ドイツは91%。イギリスでも74%。
 さすが、世界の警察官を自認するアメリカ。食料だってしっかり自給率100%のラインを防衛したうえで、世界へ「平和と民主主義」を輸出し、「テロとの戦い」にまい進しているのです。

 飢饉がきてから、農地を守れ、農業を守れ、といっても、遅いのです。
 1960年には、600万ヘクタールあった日本の農地が、高齢化と農業切捨て政策の結果、いまは450万ヘクタールになってしまっている。
 150万ヘクタールといっても、ピンとこないでしょうが、東京都の7倍、岩手県とほぼ同じ広さの農地が、この40年あまりで日本から消えてしまったのです。

 以前言いましたが、オーストラリアでは、個人で1000ヘクタールの農地を持つ農民がざらにいます。1000ヘクタール、というのは、中央区や台東区と同じ面積なのですよ。その広い農地に、大型機械で、じゅうたん爆撃のように、一気に種をまき、一気に肥料や農薬をまき、一気に収穫してしまう。さすが、食料自給率237%の国のやることはちがいます。

 日本の政府は、こんな国の農業と比べて「日本の農業は、効率が悪い」といってきた。だから、効率の悪い小農・中農は農業をやめてしまえ、というのが、いまの日本の農業政策です。その結果、農地の減少と荒廃、そして後継者や若者の農業ばなれが、あった。
 これまで、日本の農業を支えてきた老人たちは、いずれこの世から消えて行くでしょう。いっぽう、若者は「農業じゃ食えない」ということで、田畑に戻ってこない。それでは、近い将来、誰が日本の食料(とくに、主食たるコメ)をつくるのでしょうか。利潤第一の株式会社でしょうか? それとも、自給率0%になって、外国に全面依存でしょうか? どちらに転んでも、「食の安全と質」は、どんどん悪くなるでしょうね。
 (参院選の惨敗の結果をうけて、いまの農政を見直そう、という動きが自民党内にあるようですが、しょせん次の選挙向けのポーズだと、わたしは見ています。日本政府の基本方針は、1960年代以降ず~っと「農業の大規模化と効率化」です。小手先の微調整はあっても、基本的な農政のベクトルは、変わらないでしょう)

 食い物がなくなってから、コメを作れ、野菜を作れ、といっても手遅れです。農地をつぶし、農家の希望を奪ってきたのは、食料輸入体質を是認してきた政府と、農作物の輸入と引き換えで工業製品を輸出してきた大企業、さらに「安けりゃいい」で日本の農業を支える気がなかった大都会の外食産業や多くの消費者です。
 先に紹介した鴨長明の「方丈記」にも、「大都市である京の都は、なにごとにせよ、その食べ物や薪炭を田舎に依存していた。でも、その食べ物が入ってこなくなったのだから、いつまでもみやこびとの体面にこだわっていられようか」とあります。
 食料自給率、東京1%、大阪2%、神奈川3%です。(100%を越えるのは、北海道、秋田、山形、青森、岩手だけです)
 食い物のなくなった大都会。人が多いから、人肉には不自由はしないでしょう(?)が、ほかの食料はなにもない・・。こんなSF小説のような未来が、来ないとは断定できないのです。

 いっそ、自衛隊あらため「自給隊」というのを創ったらどうでしょう? こんな日本にだれがした~、と嘆かなくてもいいように、銃の代わりにクワを持ち、戦車の代わりにトラクターに乗って、日本の農地と農業を再生させてほしい。
 機械化アグリ師団に、荒廃した農地を復活させるためにがんばってもらう。日ごろの訓練で体力もあるから、たのもしい限り。日本の農地をまもり、食料自給率をあげるのも、りっぱな国の守り。自衛隊の名にこそふさわしい、と本気でおもいます。
 カッコイイ自給隊の機械化アグリ師団の活躍に、国民も「これなら、合憲!」と、納得するのではないでしょうか?


一番若い(1歳)のに、一番デブ症?のノワ。昨年の秋、まぎれこんできました。

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世界人口の増加、温暖化による水不足や干ばつ…
「平成の大飢饉」を、もはや笑い話にはできない時代が始まっています。
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