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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第十八回

新「奥羽越列藩同盟」構想

 新年の初夢というか、大ホラです。そのつもりで、お読みください。

 いまから140年前に、日本で戦争がありました。日本人同士が争いました。明治維新の「戊辰戦争」です。薩摩・長門・土佐・肥前などを中心とした西国軍(いわゆる「官軍」)が明治天皇を旗頭に、徳川幕府を倒した戦争です。
 幕府側は、カンジンの徳川慶喜将軍が、無責任にも早々に政権も本拠地の江戸城も放棄してしまい(同じようなことが昨年ありましたね)、はしごをはずされた形の幕府方東国軍は、一種の軍事同盟を結んで、西軍に対抗しようとしました。これが「奥羽越列藩同盟」です。

 陸奥(いまの青森・岩手・宮城・福島)、出羽(秋田・山形)それに越後(新潟)にあるほとんどの藩が参加したので、「奥羽越列藩同盟」と名付けられました。
 ところが、皆さん知ってのとおり、歴史は西軍の味方でした。時代の流れは、幕藩時代という地方主義の味方ではなく、日本にも中央集権国家を作ろうというグローバリズムが、おおきなうねりとして押し寄せてきたのです。

 ひとつの歴史的事実を、いろいろな見かたができるのは当然ですが、わたしは戊辰戦争を「地方主義」と「一国グローバリズム」との戦いでもあった、といえるのではないかと考えています。19世紀半ばの世界の潮流を見ると、封建的な地方小国家連合から帝国主義的な中央集権国家へと、一国グローバリズムへとむかっている時代だったと思います。ドイツやイタリアがそうでした。
 そんな時代の趨勢を読んだのでしょうか、あるいは単に勝ち組に乗っかれということだったのでしょうか、奥羽越列藩のなかには、同盟を脱落したり裏切ったりする藩が出て、結局、「奥羽越列藩同盟」は瓦解します。

 会津藩、長岡藩、のようにしぶとく「官軍」に抵抗する藩もあったのですが、まとまりを失った列藩同盟側は、各個撃破されて敗退、「賊軍」とされてしまいます。
 生き残った東軍方のなかには、榎本武揚や新撰組の土方歳三などが蝦夷地(北海道)の箱館に新しい国家を樹立しようとしますが、これも翌年には降伏。このへんはテレビドラマになったりしたので、ご存知の方もおおいでしょうね。

 歴史は常に勝った側に都合の良いように描かれ、政治や経済や社会の仕組みも勝ったほうに都合よく変えられることが多いのは、世界どこでもおなじでしょう。
 戊辰戦争後は、東北地方は「白河以北一山百文」といわれたり、東北独特のことばは「ズーズー弁」とか言われて、さげすみや嘲笑の対象になったりします。
 いっておきますが「東北弁」ということばはありません。庄内弁とか、南部弁とか、会津弁とか、津軽弁とか、仙台弁とか、地方地方によってことばはちがいます。それを一括して「ズーズー弁」のひと言でくくられてしまうのも、負けた側の悲哀だったとおもいます。

 さて、それから140年。グローバリズムの波は、地球全体に押し寄せています。アメリカという20世紀最大の勝ち組の価値観が、「世界標準」というかたちで、地球の隅ずみまで押し寄せています。「テロとの戦い」とかWTOの自由貿易経済とか、政治も経済もアメリカ風グローバリズム色に染まっています。
 狭い日本では畑なんぞはどんどんつぶして工場にし、自動車やパソコンだけを作っておけばよい。工業製品をどんどん輸出して、もうけた金で、食べ物は安い外国から輸入すればいいじゃないか、というのもその動きのひとつです。

 それに対して、いや食料も自給するのが大切。多少値段は高くなっても、食料を自前でまかなえることができるよう日本の農業を護れ、というのがアンチ・グローバリズムの主張です。もちろん、百姓のわたしも、反グローバリズムの立場です。
 考えてみたら、戊辰戦争から140年たっても、この「グローバリズム」対「地方主義」という戦いは終わっていないわけです。
 いまの「官軍」は、日経連やら経済官僚やら巨大な自動車産業でしょう。対する「賊軍」は、食べ物のことをまっとうに考えようとする消費者や、わたしのような百姓でしょう。「官軍」のほうが、いまも昔も資金力や組織力や政治力も大きいようですが、「賊軍」としてもただ負けるわけにはいきません。

 そこで、わたしの初夢として考えたのが、蝦夷地を含めた<新「奥羽越列藩+蝦夷列藩同盟」構想>です。武器は、テッポウや軍艦ではなく、「食料」です。
 農水省のホームページに、県別の食料自給率がでています。カロリーベースの食料自給率ベスト10は、以下のとおりです。(2004年度、確定値)

1位・北海道 200%
2位・秋田県 141%
3位・山形県 122%
4位・青森県 117%
5位・岩手県 106%
6位・新潟県  89%
7位・福島県  85%
8位・宮城県  84%
8位・佐賀県  84%
10位・栃木県 81%

 つまり、佐賀と栃木をのぞけば、みごとに「奥羽越+蝦夷」連合が、食料自給率の上位1位から8位までを独占しています。とくに、1位から5位までの北東北から北海道は、自給率100%を超えています。
 地球温暖化による異常気象や、人口爆発、穀物のエネルギーへの転用等で、世界中の食料事情は逼迫しようとしています。その証拠に、穀物そのものだけではなく、穀物に依存する食べ物が、どんどん値上がりしているのは、ご承知のとおりです。
 日本の食料自給率39%というオサムイ現実のなかで、ちゃんと自前の食料で食っていけるのが、この「新・奥羽越+蝦夷列藩同盟」のエリアなのです。つまり、東北と北海道は、独立しても、ちゃんと安心して「食っていける」地域なのです。飢える心配はありません。

 グローバリズムというあたらしい「官軍」に対して、もう一度「奥羽越+蝦夷列藩同盟」を結成して、食料を武器に「官軍」と戦う。「官軍」の司令官、東京の食料自給率は1%。副将の大阪は2%、侍大将クラスの神奈川は3%です。
 戦略としては、徹底した持久戦をとります。持久戦=自給戦です。相手が腹をすかせて白旗を揚げるのを、じっくり待つ。こちらは、食い物には困らないので、いくらでも待てる。
 結果「腹が減ってはいくさができぬ」のとおり、今回のいくさでは、奥羽越+蝦夷の列藩同盟が勝利するのではないでしょうか。ちいさな、ひとつひとつの地方が、その地域の特色を活かしながら、グローバリズムという巨大な怪物に対して戦い、そして勝利を得るのです。

 これが、わたしの見た大ホラの「初夢」です。
 気にさわった方がいたら、まあカンベンしてください。  (2008.1.5.)

年末には、かまどで、モチ米をふかしたり、ソバを茹でて食べました。
自分で作ったモチやソバの味は、かくべつでした。

辻村さんのこんな「初夢」、
あながち全くのホラ話とも言えないのかも?
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