戻る<<

やまねこムラだより:バックナンバーへ

やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

080227up

つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第二十三回

ねこ物語

 すいません。貴重な「マガジン9条」の誌面なのに、今回は、憲法にも農業にもまったく関係のない、ねこの話です。ねこ好きで、お急ぎでない方だけ、お付き合いください。

 ただいま、わが「やまねこ農園」には、ねこが4匹います。4匹ともみんな、もとをただせば、捨てねこ、ノラネコ、です。
 じつは本来、わたしは「ねこ派」でなく「いぬ派」だったのです。岩手にやってきて、さあ念願の犬を飼うぞ、どんな犬を飼おうかな、だれか子犬をゆずってくれないかな、と迷っているうちに、ノラネコがやってきてカッテに居ついてしまいました。このあたりの、ノラネコのなかではボス的存在のねこのようでした。白と黒のブチねこで「やま」という名前でした。

 最初は「やま」を追い払っていたのですが、手と頭を使って、カッテに戸をあけて入ってきては、知らないうちに食べものを盗んでいきます。このあたりの家は、みんな「やま」の縄張りのようでした。この集落の家はみんな勝手知ったる他人の家、という図々しいねこです。  そのうち、盗まれるくらいなら、まあ、残飯ぐらいならやるかということで、残り物をやるようになりました。そうしたら、すっかりホンニンは飼い猫のつもりになって、わたしの家を自分の縄張りの中心にして、居ついてしまいました。食べ物が不足する冬などは、やっぱり、ノラネコより飼い猫になったほうが、暮らしやすかったのでしょう。

 そのうち、わたしの農園に名前をつける必要がありました。「やま」という「ねこ」がいるので「やまねこ」がいいや。宮澤賢治にも「どんぐりと山猫」という童話があるし、いいんじゃないか、ということで、「やまねこ農園」という名前になったのです。
 この「やま」は、1年近く我が家で暮らしましたが、あたらしく台頭してきたノラネコのボス候補の「シマ」と喧嘩して敗れ、骨が見えるような大怪我を負いました。その怪我がモトになったのでしょう、初冬のある日、死んでしまいました。リンゴの木で墓標を作り、その下に埋めました。やまねこムラに来て初めて、涙がでました。

 「やま」が死ぬ半年前に、娘が浅草橋のガード下で拾った子猫「メイ」がやってきました。カッテに子猫を拾っておいて、自分じゃ飼えないからと、親に押しつけていく娘も娘です。しかし、新幹線でわざわざやってきた子猫を返すわけにもいかず、仕方なしに飼うことになりました。
 「メイ」は、黄色のトラネコです。「メイ」というのは、カンボジア語で「明るい」とか「輝く」とかいう意味だそうです。拾った娘が名づけました。「メイ」は他人のことにはわれ関せず、干渉もしないが、干渉もされたくないという性格。唯我独尊タイプ。高いところに登るのが大好きです。人間にもいそうなタイプです。

 翌年の夏、農協(JA)の支所へいく用事がありました。そしたら、窓口のお姉さんが、「昨日、誰かが支所の裏口に、子猫を捨てていったのです。だれか飼ってくれる人はいないかしら・・」というのです。岩手美人のお姉さんに、いいところを見せたくなったわたしは、おもわず「じゃじゃじゃあ。ちんこくて、めんこいなあ。ねこッコならおらえにも1匹おるけんど・・。う~ん、1匹も2匹も同じだじゃい」と、その捨て猫を引き受けることになりました。でも、うちに帰ってきたら、家内に「カッテなことして!」とえらく怒られました。

 これが「ジェイエイ」です。ねずみ色のシマねこです。1年後、彼は狩りが得意な狩猟本能丸出しのねこになりました。ネズミも、小鳥も、ヘビも、モグラも、トンボも、カエルも取ります。ちなみに、ネズミを獲るのがネコ、鳥を獲るのがトコ、ヘビを獲るのがヘコ、というそうです。

 さらに、次の年の秋。ある日、見知らぬ黒いこねこが迷い込んできました。どこからやってきたのでしょうか、不思議です。「魔女の宅急便」に出てくるような、あいきょうのある黒ねこです。
 「うちの子になるかい?」と聞いたら「うにゃ」といったように聞こえました。否定だったのかもしれませんが、わたしは肯定の返事と受け取りました。
 これが「ノワ」です。フランス語の「ノワール(黒)」から取りました。やたら、あまえる甘ったれです。ねこなのに、いぬのように、ぺろぺろとやたら人をなめます。そういえば、昔「ナメネコ」というのが、ありましたね。

 その翌年の初夏、また娘がねこを2匹連れてやってきました。長い旅にでるので、飼っていたねこを置いていく、というのです。まったく、無責任な娘です。でも、今度はおとなになったねこなので、先住の3兄弟が、新入りのねこを受け入れません。ねこは、縄張り意識が強いのです。
 しかたなく母屋の中ではなく半屋外の水屋で飼うことにしましたが、連れてこられたねこにとっては、飼主に捨てられたようなものです。新しい飼主にもなじまないし、先住のねこたちにはいじめられる。2匹ともいなくなってしまいました。
 そして、いなくなって5ヶ月。昨年の晩秋、めっきり寒くなったころ見知らぬねこが迷い込んできました。そしたら家内が「あら、あんた、チャイじゃないの! いままで、どこへ行ってたの!」と叫ぶではありませんか。なんと、行方不明になってから5ヶ月、どこでどうやって生きていたのか、2匹のうちの1匹なのでした。
 結局、もう1匹は行方不明のままです。もとの飼主(娘)も、3年ほど世界放浪の旅をしてくるといったきり行方不明です。どちらもいまごろ、どこにいるのでしょうか。

 ねこ好きの方には判っていただけると思いますが、飼ってみれば、ねこもかわいいものですね。4匹それぞれ(みんなオス)性格が違うし、おもしろい。ねこもすっかり好きになりました。ねこのおかげで、ネズミが家に寄り付かなくなり、実用にもなっています。
 もっとも、ジェイエイが捕まえたヘビを家の中に持ち込むのには、迷惑していますが・・。

おしまいに、ワルノリついでに、ヘタな「ねこ川柳」を。

ねこと寝て かゆさかわいさ 同居する
どんぐりは だうも苦手と 山猫云ひ
木枯らしや 日暮れてねこの 三回忌
くしゃみして 凍えるねこの 朝帰り
いのち狩る ねこの瞳に 南無ほとけ
藁に寝て 今夜かぎりの ねこの夢
隠れ住む 里の夕暮れ ねこの秋
ぐわらりと 年へめぐりて ねこ老いる
雪原を ものともせずに ねこの恋
添い寝する ねこの重みや 老い暦

(2008.2.22)

相変わらず心のふさぐニュースも多いこのごろ。
ねこ好きな皆さん、少しは心癒されたでしょうか?
ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条