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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第三十三回

13億のマリー・アントワネット

 フランス革命の前夜、有名なエピソードがありますね。「パンをよこせ!」と叫ぶ群衆に対して、時のフランス国王王妃のマリー・アントワネットが、「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃないの」といった、という伝説です。
 その発言が群衆の怒りをあおって、フランス革命が勃発し、最終的にマリーはギロチン台で処刑されてしまいます。

 当時のフランスの食糧事情がどうだったのかは、知りません。でも、少なくとも、支配階級・エリート階級だったマリー・アントワネットが、その日の食べ物にもこと欠くような貧しい人々への思いやりや想像力を欠いていた、ということはわかるエピソードではありますね。

 いま、これと同じようなことが、世界規模で起こっているのは「マガジン9条」の読者ならご承知のことと思います。
 地球温暖化(=天候不順)による穀物の収量不足、穀物のバイオ燃料への転化、世界人口の増加、さらに行き場を失った投機マネーの流入によって、世界の食糧は、ただいまタイヘンな高騰をしています。
 小麦から作られるカップ麺やパスタやうどんやパンだけではありません。大豆から作られる味噌・しょうゆ・豆腐。トウモロコシから作られる食用油やマヨネーズ、マーガリン。さらに、バター、チーズなどの乳製品やビールなどが、値上がりしているのは、みなさまご承知のとおりです。

 お米ばかりは、日本ではあいかわらず安いのですが、世界的米価は2倍、3倍になっています。カンボジアでは、米の値段が2.4倍になってしまったので、WFPが子どもたちに提供していた給食が打ち切られる、という事態まで出てきました。
 貧しい農民の子どもたちは、給食があるから学校へ通えていた。給食のない学校なら行く必要はない、という親も大勢いるのです。つまり、こころにもからだにも栄養が必要なカンボジアの子どもたちが、食べ物だけでなく、学びの機会まで奪われているのです。

 日本はお金持ちだから、食糧が値上がりになっても、今は輸入できる経済力があります。今日は中華がいいとか、たまにはイタメシにしよう、とか言いながら、(自給率は39%のくせに)お腹いっぱい食べて、さらに、山のように食べ残しを出している。その食べ残しがあれば、餓死しないですむ子どもが500万人もいるのです。
 でも、いくらお金があっても、食糧を輸入できない日がくるのもありえないことではないのです。世界的な食糧不足を背景に、ついに食糧の輸出禁止や、輸出制限をする国がたくさん出てきたのです。具体的に、見て行きましょう。

 冷戦時代に、当時のソ連が不作のため、アメリカから大量の小麦を輸入した、ということがありました。食糧が戦略商品になる、ということが明確になったエピソードです。
 でも、それは一時的なことで、食糧は過剰な時代が続き、日本などはより多くの食糧輸入を求められました。自動車を輸出するなら、食糧を輸入しろ、という圧力です。
 その結果、日本の農業はまま子扱いされて、現在の食糧自給率となりました。

 でも、今回の世界的な兆候をみていますと、これは世界の食糧事情が、「構造的に過剰から不足へとシフトした」、と考えたほうがよいと思います。つまり、金はあっても食糧は買えない時代になりつつある、と私は考えています。

 マリー・アントワネットのように、「食べ物がないなら、お金を払って輸入すればいいじゃないの」とは、もはや言っていられないのです。
 また、たとえ高い金を払って食糧を輸入できたとしても、それは貧しい国の人々から食べ物を横から奪うことになるのです。成金の日本が、札束でほっぺたたたくようにして、食糧を買いあさる。その結果、貧しい国の人々に食糧が行き渡らず、飢餓を押しつけ、教育の機会を奪うことになる。不幸を輸出することになるのです。

 新学習指導要綱がうたうように、ほんとうに日本が「国際貢献」をしたいのなら、まず自分の食糧自給率を上げて、そのぶんの食糧を貧しい国へ回してあげる・・。そういう思いやりを見せた方が、ずっと世界に貢献することになるのです。世界から尊敬され、シアワセを輸出できる国になれるのです。

 世界人口65億人のうち、上位2割の13億人が、世界の富の8割を独占している、ということです。幸か不幸か、日本人の多くもこの上位2割の13億人に含まれるようです。
 ならば、マリー・アントワネットのように思いやりを忘れるのではなく、同じ地球に住む人間として、貧しい国や虐げられた人々への想像力は持っていたいと思います。
 自分たちの飽食を少しやめて「足るを知る」。そして、そのぶんのあまった食糧を貧しい国や人々へ回す。それができる国になれば、日本はほんとうの一流国になれると思うのですが・・。

(2008.5.16.)

田植えの前に、代かきという大切な作業があります。
田んぼの土を、水を混ぜながらよくかき回して、水平な面をつくる。
水平面に稲の苗を植えるから、
どの稲も同じように水と太陽の恩恵を得られるのです。

「食料品が高くて困る」だけでは済まない、
もっと根本的な問題が顕在化しようとしています。
かのフランス王妃が持てなかった想像力を、
私たちは持つことができるのかどうか。
それこそが今、問われているのかもしれません。
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