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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第三十九回

銃は危険思想だったのか?

 いささか、旧聞に属することで恐縮です。10日ほど前の朝でしたか、田んぼに水を注水するために、軽トラックに乗ってあぜ道を走っていました。そこで、NHKラジオの朝5時のニュースを聞いていたのですが、「アメリカの最高裁判所が、銃の所持を禁止した条例を、<憲法違反>と判断した」というニュースが流れました。
 へえ! とそのときはびっくりしたのですが、田んぼの水のほうが気になります。あとで、新聞で詳しいことを読もうか、と思っていて、すっかり忘れてしまいました。地元の「岩手日報」には、その記事が載らなかったからです。

 今ごろになって、その記事が気になりました。そこで、インターネットで朝日新聞の記事を検索したら、ありました。こういうところは、パソコンは便利ですね。
 そのインターネット版朝日新聞の記事の見出しには、こうありました。
<米最高裁、個人が銃持つ権利認める 禁止条例を「違憲」>
 そして、本文がこう続きます。
 「(ニューヨーク=立野純二)米連邦最高裁は(6月)26日、個人が家庭で銃を持つ権利を認める判断を示した。国民の武装の権利をめぐる憲法修正2条について初めて明確な解釈を示したもので、銃の容認派が論争に勝利した形だ。全米の銃規制制度に影響を及ぼす可能性がある」

 アメリカの首都ワシントン市の条例は、これまで家庭でピストルを持つことを禁じていたのですね。ところが、それが国民の武器所有の権利を認める米国憲法修正2条にそぐわない、ということで今回の「違憲判決」ということになったらしいのです。

 さらに記事はこう続きます。
 「最高裁判事の間でも賛否が割れ、判決は5対4の小差で決まった。家庭での短銃所持をほぼ一律に禁じるという同市の条例は全米でも最も厳しい規制の一つだが、最高裁は「絶対的な保持の禁止令」は違憲とした」

 ところ変われば品変わる、といいますが、同じ違憲判決でも、このへんがアメリカ合衆国のオモシロイところだなあ、と思います。

 マイケル・ムーア監督に「ボウリング・フォー・コロンバイン」という映画がありましたね。あの映画は、銃社会のアメリカの現状を告発、批判する内容でした。全米ライフル協会の会長だったチャールトン・へストンに突撃インタビューするところなど、たいへん面白かった記憶があります。日本でも、ドキュメンタリ映画としては、かなり話題になったのではないでしょうか。
 ですから、アメリカも銃の所持を禁止はしないまでも、かなり規制しはじめたのか、と思っていました。
 ところが、その自由の国アメリカで、最高裁判所で「銃の所持禁止は、憲法違反である」と判決が出た。わたしは、ラジオのニュースを聞いたとき、立場は違うけどアメリカの銃所持禁止条例は、日本のかつての「治安維持法」とどこか似ているのではないか、と漠然と感じたのでした。

 戦前の治安維持法は、たとえば「民主主義」や「共産主義」という思想を国民が持つことを禁止していました。「国家の主権者は国民であって、天皇ではない」と堂々と主張したら、危険思想の持ち主として逮捕されたのです。
 そしてこれまでのワシントン市では、ピストルを所持するだけで逮捕されたのです。
 思想と銃、別々のものだけど、所有するだけで逮捕される、という構造は一緒です。
 「そうか、銃は危険思想だったのか」とわたしは思いました。

 日本では、銃の所持には厳しい規制が付きまといます。射程50メートルほどの散弾銃でも所持するのに、厳しい規制がある。ましてや、ピストルは、オリンピック選手などの一部の例外を除けば全面所持禁止です。ピストルを持つだけで逮捕されます。
 日本政府は「銃=危険思想」ということがわかっているのですね。さすが、治安維持法や特高警察がハバを利かした国です。

 その点、なんとまあ、アメリカという国はおおらかといいますか、どんぶり勘定といいますか、銃に対しては甘い国ですね。最高裁判所が国民の武装権を認めている。いくら、乱射事件が続発しても、銃の所持を国が憲法で保障してくれるのです。アメリカでは、銃は危険思想ではなく、国民の基本的人権のひとつだ、という判断なのでしょうね。
 その点、日本は秀吉の刀狩以来、国民の武装権を基本的に認めていない。とくに、飛び道具には厳しい。

 銃は、危険思想なのか。それとも、基本的な人権なのか。わたしには、どう考えたらいいのかわかりません。
 「人を殺してはいけない」という法律はどの国にもありますが、銃を持つだけで逮捕という国もあれば、銃を持つ権利こそ自由の礎だ、という国もある。そういう価値観の違いは、グローバル化する世界の中でどう考えたらいのか、わたしにはさっぱりわかりません。
 もっとも、直接人を殺すのは犯罪だが、食糧を買い占めた結果どこかの貧しい国の子どもが飢え死にするのは犯罪ではなく正当な経済行為だ、という考え方がある以上、この世の中に「ゼッタイ」なんてものは、なにひとつないのだ、ということも考えられますね・・。

 今日は岩手でも、真夏日でした。朝の5時半から草刈をしましたが、8時を過ぎると太陽が暑くて仕事になりませんでした。ボーとして、あたまもクラクラ。そこで、今回のような、自分でもわからないことを書いてしまった、というわけです。たいへん失礼しました。皆様も、夏の暑さには十分気をつけてください。

(2008.7.6)

外は雨。
濡れるのは嫌いだけど・・。
でも、オンモがいいのです。

辻村さんの銃についての言及は、第20回にもあります。
併せてお読みください。

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