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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第四十一回
(臨時便)

三つの「おかしい」・・・「事故米」の背後にあるもの。

 わたしの購読している新聞・岩手日報の夕刊に、「季(とき)のうた」というコラムがあります。作家の村上護さんが、その季節にふさわしい俳句などを紹介してくれる欄なのですが、9月18日には、次の俳句が載っていました。
 「新米の届き取れし田知つてをり  中戸川朝人」
 作者は、イナカに知り合いがいるのでしょう。新米のシーズンにはお米を送ってもらっている。その自分が食べる新米を、誰がどんな田んぼで作っているか、知っている。ただ、それだけのことをうたった句です。

 でも、この句の背景には、秋の収穫を喜んでいる百姓とともに、豊年を喜んでいる作者の共感があります。なぜなら作者は、自分が食べる新米を作った百姓を知っていて、さらにその百姓の田の表情を、知っているからなのですね。
 「顔の見える関係」が、ここにはあります。自分の口に入る食べ物を、誰がどんな田畑で作っているか、作者には見えている。そこに、実りの秋を迎えた喜びとともに、食べ物への安心感・安堵感が漂っているようです。
 いまや、一般の消費者にとっては、こういう顔の見える関係は、とてつもなく贅沢になってしまっているようですね。

 いま、さかんに「汚染米」とか「事故米」のことが、ニュースで取り上げられています。ミニマムアクセスで、国家(農水省)が輸入した米のうち、農薬が基準以上に検出されたとか、カビが発生して健康を害するような毒素を発生させたとか、ようするに「食べるとアブナイ」お米を、複数の悪徳業者が、食用に転売してもうけていた、という話ですね。
 そこで、お米を作る百姓の立場から、感じたことを申し上げたいと思います。

 まず、お米はたんなるモノではない、ということです。ほんとうは、生鮮食品、なのです。ですから、他の野菜などとおなじく、新鮮なうちに食べるのがいちばんおいしいのです。
 ただ、保存の仕方によっては、数年保存が利きます。精米しないで、モミのまま保冷庫で保管すれば、2~3年はおいしく食べられる、ということでは、とても優秀な食品なのです。
 わたしも、自分の飯米はモミで保冷庫に保管しています。そして、半月に1度、10キロずつ(夫婦ふたりで年間240キロ)精米機で精米してお米を食べています。モミで保管したお米は、1年たっても、つやつや光って、新米のおいしさが保たれます。栄養価も高いし、お米はほんとうにすぐれた穀物だと思います。

 では、「汚染米」「事故米」がなぜ発生するのか。それは、輸入業者や農水省の役人が、お米を生鮮食品と考えていないからでしょう。たんなるモノと考えている。単なるカネもうけの手段だと考えている。これが、今回の事件の、「おかしい①」だと思います。
 生鮮食品ですから、ほおっておけば、食品として劣化します。腐ったり、害虫が発生したり、カビが生えたりするのは、当然です。それを防ぐために、農薬や防カビ剤が使用されるのです。
 船便で、湿気の多い海を渡って、長い時間をかけて輸入する米は、害虫やカビの発生のリスクを負っています。一時、残留農薬の問題が話題になりましたが、輸入米には防虫防カビのために使用される農薬類がかなりの量含まれるのは、容易に推測できます。

 さらに、ミニマムアクセスで輸入しなければならない米は、2007年度で77万トンもあります。(もっとも、そのうちの7万トンは、世界的な食糧の逼迫で米の国際価格があがり、確保できなかったそうですが)。
 米あまりで、農業の現場には、「米を作るな、減反しろ」と強制している日本政府が、いっぽうで、WTOの決まりか知りませんが、年間70万トン以上も米を輸入するようにノルマを課せられている。これが、「おかしい②」ですよね。

 しかも、輸入米は、日本人の口に合わないものが多いので、倉庫に眠ったままです。生鮮食料を眠らせておく、という発想が、そもそもお米をモノとしてしか考えてない証拠です。当然、カビが発生したりして「事故米」が急増する。
 そして、農水省としては、倉庫の保管料もかかるから、早く「始末」したい。そこで、なんとかフーズとかいう業者に、「事故米」を食用にしないように、という名目で、捨て値(1キロ10円前後)で販売する。会社名に「フーズ」と名の付いている業者に、「食用にしないように」と言う名目で米を売ること自体が、「おかしい③」です。

 農水省の役人と業者の癒着の構造が見えてくるようです。農水省の事務次官がはじめに「農水省に責任はない」と言ってましたが(その後発言撤回)、役人の責任回避体質は、薬害肝炎のときの厚生労働省や、年金問題の社会保険庁の役人と同じですね。
 結局、農水大臣や事務次官が辞めることになったようですが、なにやらトカゲの尻尾切り(あたま切りか)のようにも思えます。
 食の偽装問題が続発しているように、カネもうけのためには何でもやるという業者のモラルのなさと、役人の無責任体質とは、底は一緒のような気がします。
 ビジネスだから、おカネもうけが目的なのは、わかります。しかし、どんなに苦しくても「ここから先は、ゼッタイにやらない」という自己規範が、アキンドにはあったと思います。それが、見事に消えてしまった。どうも、五反百姓にはナットクがいかない世の中になってしまいました。

 ともあれ、わたしの田んぼは、今年はまあまあの出来で、今は稲刈を待っているところです。9月末に稲刈をして、ホンニョという棒に刈り取った稲をかけて、1ヶ月近く天日干しします。それから、脱穀して、モミを精米して、やっと今年の新米を味わえる、という段取りです。
 1年分の自分たちの飯米を確保したうえで、余ったお米は、知人友人たちに買ってもらいます。冒頭の俳句をもじれば、「新米を届けん我が田を知る人に」、ということになるでしょうか。

 食の安全のため、日本の農業を回復させるため、食料自給率をあげるため、とはいまさら言いません。
 マガジン9条の読者の皆さんには、これから出回る日本のおいしい新米を、せめてお腹いっぱい食べて、日本の秋の味を満喫してほしい、と思います。ご自分の健康のためにも、折り目正しい食事を、三度三度食べていただきたいと思います。
 今回は、編集部のご好意で、臨時に言いたいことを言わせていただきました。まことにありがとうございました。

(2008.9.19)

今年のわが田んぼの稲は、まずまずのできです。
あと10日ぐらい熟すのを待って、9月末に稲刈、の予定です。

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