戻る<<

癒しの島・沖縄の深層:バックナンバーへ

癒しの島・沖縄の深層

090121up

おかどめ やすのり 1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。HP「ポスト・噂の真相」

アマゾンにリンクしています

※アマゾンにリンクしてます。

オカドメノート No.039

なぜ止められない? 間違いだらけの巨大公的プロジェクト

 沖縄市の泡瀬には、南西諸島で最大の干潟が残されている。絶滅危惧種などの貴重な生物が生息するこの干潟を浚渫した土砂で埋め立てる工事が、とうとう開始された。この干潟を埋め立てて海洋リゾート施設をつくろうという計画が最初に持ち上がったのが、1987年。まさに、日本のバブル真っ盛り期に浮上した計画だった。沖縄市に隣接する中城湾で進行してきた東部海浜開発事業構想の一環である。

 この東部海岸の経済振興の目玉として計画されたのが特別自由貿易構想。その地域に面した新港地区は水深が浅いため大型船舶の入港は困難ということで、大がかりな浚渫工事をする必要があった。その浚渫工事で出た大量の土砂で泡瀬干潟を埋め立ててホテルやリゾートを建設しようという一石二鳥の計画のはずだった。しかし、不景気の影響や地理的条件の不便さなどもあって、企業誘致はまったくメドがたっていない。総工費は650億円ともいわれる大型プロジェクト。このまま計画が進んでも、経済的なコスト面でいえば回収の見込みがないばかりか、最終的には沖縄市が巨額の負債を抱え、赤字自治体へ転落することが目に見えている。結局、皺寄せがいくのは沖縄市民なのだ。

 それだけではない。前述したような貴重な干潟を潰すことに強く反対している市民グループもいる。現在の沖縄市長・東門美津子氏はこの泡瀬干潟の埋め立て工事を見直すことを公約に掲げて、こうした市民グループの支持を受けて当選したという経緯がある。むろん、土建業者を中心に地元利益誘導で泡瀬干潟埋め立てに賛成するグループもいるが、前回の市長選の段階では反対派の方が圧倒的に多かったのだ。

 今年になって東京でも初めて市民団体による干潟埋め立て反対のデモが行われた。画期的である。こうした問題は全国各地で行われている環境破壊工事に共通する普遍的テーマでもある。それを東京でアピールするのはいいことだ。無駄な公共投資をこのまま進めるのか、干潟の自然を保護しそれを観光などで活用する方向を模索するのか、その選択なのだ。この泡瀬干潟の工事は一区と二区に分かれているが、現在進行中の一区工事に東門沖縄市長が賛成するという「裏切り行為」があったことで、事態がより複雑化し迷走したという背景もある。

 そのことは、反対派の市民が沖縄県と沖縄市を相手取った訴訟において「埋め立て工事は経済的合理性を欠く。今後、いっさいの公費投入を禁止する」という那覇地裁の判決が昨年秋に下りたことでもわかる。にもかかわらず、東門市長は仲井真県知事とともに、判決を不服として控訴したのだ。ならば、裁判が確定するまで工事を見送るのが市民のための行政の責任というものではないのか。内閣府・沖縄総合事務局がそれを無視して浚渫工事を強行したのである。「NEWS23」が現地取材していたが、青い海にユンボでヘドロが投入されるシーンは目を覆いたくなる光景だった。

 一度決めたら、何が何でも後には戻れない国と官僚行政の悪弊はそろそろ願い下げにする時期に来ている。100年に一度の経済不況だというのに、「そんな変化など関係ない!」という役人根性が信じられない。それに、環境アセスは自然を守るためではなく、あくまでも開発を進めるための方便でしかないという役人のゴマカシ論理も、だ。

少しずつ全国的な注目を集めつつある泡瀬干潟の埋立問題。
「決まったことだから」と反対の声を黙殺して計画を進める、
典型的な「お役所仕事」の図式がこの先も続いていくのかどうか、
その分岐点の一つになるのかもしれません。
ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条