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2010-05-12up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.077

国外移設を理論武装するブレーン集団を
早急に立ち上げろ

 連休中の5月4日、鳩山総理が総理就任後初の沖縄訪問で展開した「自説」と弁解には県民のほとんどがガッカリし、激しい脱力感に襲われている。その二日後には沖縄地方は梅雨入り宣言し、ますます憂鬱な気分が加速されている。政権交代と鳩山政権の誕生で、沖縄県民は初めて普天間基地の県外・国外移設という希望の選択肢を手にすることが出来た。超党派の9万人県民大会の成功が、沖縄における米軍基地の新たな歴史的転換点になるはずだった。これまで米軍基地問題において県民は諦めと絶望の淵に追いやられてきたが、ようやく歴史を動かす主体となる方向性が打ち出されていたからだ。

 「最低でも県外」といい続けてきた鳩山総理の「変節」の予感は4月25日の県民大会前日に琉球新報がスクープした、辺野古沖の杭打ち桟橋方式による1800メートル滑走路建設と徳之島への訓練移転をセットにして政府案の基本にしているという報道だった。それでも、この案には鳩山総理は反対の意向を示しており、平野官房長官が仲井真県知事に県民大会への参加を見合わせるように「圧力」をかけているという報道内容が加えられていた。が、それもつかの間のことだった。

 三党協議による普天間移設案を決める5月末の期限が迫っていることもあり、遂に鳩山総理本人も焦りを感じて動き出したのだろう。鳩山総理は徳之島出身の徳田虎雄元衆議院議員に対し個人的な面会を求めた。しかし、その前に徳之島では一万五千人を集めた島民による反対集会があったばかり。鳩山総理は藁にもすがる思いがあったのだろうが、病床にある徳田氏は明確に「NO!」を発した。根回しとしては稚拙すぎるやり方だし、順序も逆だ。さらに、自ら沖縄にやってきて仲井真知事や稲嶺名護市長に対し、県外移設を断念した事を伝えて「沖縄の皆さんにも負担をお願いした」と謝罪の言葉を連ねた。小賢しく辺野古修正案は具体的に示さないままに、である。これまで、沖縄県民の思いや基地負担軽減をことあるごとに口にしてきた鳩山総理の本音が露になったのだ。むろん、県民は大ブーイングである。県庁前、宜野湾、名護市、鳩山総理の行く先々で反対派の怒号が飛んだ。生卵くらい投げつけられても仕方のない状況だった。鳩山総理の顔も緊張と強張りの連続で、遂に笑顔を見ることはなかった。

 なぜ、鳩山総理はここにきて変節したのか。その答えは鳩山総理自身の言葉の中にヒントがある。「抑止力の維持の必要性から国外、県外に普天間の機能を移設することは難しい」、「海兵隊の存在を学べば学ぶにつけ、米軍全体の中での役割と抑止力に思い至った」という言葉で言い訳し、「県外・国外」も「最低でも県外」は個人の意見であり、公約ではないと開き直った。かつては、「常時駐留なき安保」を唱え、日米安保体制への過度の偏重の見直しと「東アジア共同体」を提唱した鳩山総理にいったい何があったのか。

 嘉手納統合案をいち早く打ち出した岡田外相、キャンプ・シュワブ陸上案をブチあげた北沢防衛大臣、ホワイトビーチ埋め立て案や杭打ち桟橋案を画策する平野官房長官、いずれも米国のいいなりにしかならない防衛、外務官僚に洗脳された結果であることはいうまでもない。じゃ、鳩山総理はどうか。それは、筆者が以前にこのブログで書いたように、鳩山ブレーンの寺島実郎に代わり、外務省ロビイスト・岡本行夫がぐいぐい食い込んで鳩山を洗脳したというところだろう。鳩山総理のいう抑止力は、岡本行夫とまったく同じ論理だからだ。いや、もっといえば、日米両政府の間で蠢く「日米安保マフィア」たちも同じ論理である。鳩山総理は米国主導の日米安保体制そのものの壁に突き当たり、これまで持ってきた思考までが完全に停止したということだろう。

 だが、徳之島も沖縄も地元の賛同が得られる可能性は限りなくゼロだ。最後の手段は、かつての自民党政権時代のように、振興策という公金のバラマキをエサに地元を分断するつもりなのだろう。まさに旧態依然の「アメとムチ」のやり方への回帰である。しかし、杭打ち桟橋方式による滑走路建設は、従来の埋め立て方式に比べて建設費は倍以上の巨額に膨らみ、基地の維持費も三倍増といわれる金食い虫の計画だ。オマケに、地元への還元も少ない計画だ。財政逼迫の民主党政権はいったい何を考えているのか。このままいけば、実行は絶対に不可能と断言しておく。

 ならば、抑止機能も軍事的合理性もあり、米国じたいも納得して統合計画を進めているグアム・サイパン・テニアンという案をなぜ日米交渉の議題としてとりあげないのか、不可解千万である。おそらく、防衛、外務官僚たちの利権を守るための抵抗が最大の障壁になっているはずだ。今からでも遅くはない。鳩山総理は、普天間基地の国外移設を理論武装するブレーン集団を早急に立ち上げて、政権が交代した事をアピールし、沖縄県民にも支持される普天間問題の解決に全力を尽くすべきではないのか。5月末にこだわる理由など何処にもない。社民党・福島党首も物欲しそうな顔をしないで、まずは連立離脱の姿勢をはっきりとした上で、国外移設に転回するように最後まで死力を尽くすべきではないのか。でないと、次の参議院選挙では、少なくとも沖縄においては社民党も民主党も県民から「NO!」を突きつけられる事は必定である。

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鳩山首相はいまだ「5月中の決着」を繰り返していますが、
沖縄県内では、「それにこだわらず、
米政府と本質的な議論を」と求める声が圧倒的とも。
「理解を求める」べき相手は県民ではなく、
まずは米政府なのでは? と思います。
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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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