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2010-06-23up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.080

「辺野古移設」と「消費税アップ」が菅政権の致命傷に…

 6月23日は沖縄の慰霊の日。軍民あわせて約20万人がなくなったといわれる激烈な沖縄戦の実質的な終戦記念日にあたる。この日、糸満市の平和祈念公園で行なわれる慰霊イベントはNHKが全国的に生放送し、歴代の総理大臣も参加することになっている。今年は当然、菅直人総理である。しかし、菅総理はどの面下げて沖縄にやってくるつもりなのか。鳩山総理が最終判断した辺野古付近への新基地建設という日米合意を、菅総理は何ら躊躇することなく引き継ぐことを表明したばかりか、参議院選挙を戦う民主党のマニフェストにまで入れてしまった。地元の名護市長は「海にも陸地にも基地はつくらせない」という強い決意を表明している。仲井真知事も「きわめて厳しい」と菅総理やルース駐日大使に繰り返し述べている。それでも鳩山辞任のA級戦犯ともいえる北澤防衛大臣や岡田外相を留任させ、日米合意を守るというのはどういうことなのか。今や県内世論の8割が反対を示している辺野古新基地建設は、現時点では不可能な計画だというのに、である。

 悪い予感だが、今年11月の知事選では、もともと基地推進派だった仲井真現知事を取り込むために自民・公明と一緒になって再選を支援するという構図になる可能性すらある。昨年までの民主党ならば、仲井真知事ではなく、すでに出馬の意向を示している宜野湾市長の伊波洋一氏で決まりだったはずだ。だが、伊波市長は信念をもって普天間のグアム統合案を主張している。今や、民主党の方針とは対立関係になるのだ。まったくふざけた話である。そのうえで民主党はアメとムチを使って地元を懐柔し、地域住民の分断工作を仕掛けるつもりなのだろう。いや、既にその動きは地元で始まっているといわれる。最終段階では警察・機動隊、自衛隊まで出動させて反対運動を物理的に押さえ込むつもりなのかもしれない。

 鳩山前総理が最終決断した結果とはいえ、普天間の県外・国外移設に関してもまともに交渉すらしないまま辺野古に新基地をつくるという「日米合意」に回帰したことに対して、副総理としての責任は一切感じなかったのか。平野官房長官、岡田外相、北澤防衛相の三人組が独断専行したあげく、米国の恫喝や霞ヶ関官僚の抵抗で辺野古移設に逆戻りしたのではなかったのか。鳩山総理が、総理就任直後は「グアム移設」を考えていたことが最近明らかになったが、なぜ政治主導の外交政策を実践できなかったのか。菅政権はそのことを徹底検証したうえで次の対米戦略を立てるべきだったのに、最初から米国に「ギブアップ宣言」とは情けない。何処が闘う奇兵隊内閣なのか。

 政権交代以降の普天間移設問題での迷走のおかげで、沖縄では民主党政権に対する不満と怒りが渦巻いている。7月の参議院選挙では全国で唯一民主党候補の出馬はおろか推薦すらできない事態になったのが沖縄選挙区である。辺野古基地建設に反対する候補を推薦するわけにはいかないというのが民主党本部の意向なのだ。民主党の変節と迷走ぶりは沖縄の政界も社会もメチャメチャにぶち壊すことになるのではないか。唐突だった消費税10%へのアップなんて全国一所得の低い沖縄では辺野古基地建設ともども間違いなく総スカンの悪政だ。すでに、消費税アップ宣言で民主党は全国的にも大きく支持率を落としている。消費税アップの前にやることが一杯あることは、今や国民でも分かっているのだ。特別会計を含む200兆円の国家予算の徹底見直しと予算じたいの組み替え、事業仕分けのさらなる徹底、天下り団体の廃止、政治家や公務員の定数や給与の削減、不要不急の大型公共工事の見直し、無駄の多い米軍への思いやり予算の削減などをとことんやらなければ、国民の支持は得られないはずだ。赤字国債を半減させるために国=財務省が所有する巨額の国有資産の売却だって検討すべきである。菅総理、仙谷官房長官らが財務官僚や財界に洗脳されていることは明らかではないか。財務省のスパイといわれてもやむを得ないのではないか。

 「4年間は消費税を上げない」という公約も「法人税を下げて消費税10%にアップを検討する」に変り、子ども手当も26000円ではなく13000円のままで据え置き、「普天間移設の県外・国外」も「日米合意の辺野古基地建設」にすり変るのだから、マニフェストなんて信用するなということにならないか。政権交代に期待した有権者が、鳩山-小沢のダブル辞任で再び菅総理への期待を高めているというのに「国民の生活が第一」という政策はことごとく裏切られ、政権交代時点の発想からは明らかに後退しているのではないか。支持率の低下もその証明ではないのか。

 もう一度いっておく。菅総理の突然の消費税10%アップ宣言は、財務省官僚による洗脳、「悪の参謀」といわれる仙谷官房長官の入れ智恵、小沢一郎に対する最終的な当てつけもあるのだろうが、参議院選挙直前の政治判断としてはどう考えても勇み足としかいいようがない。さらに、幹事長を辞任した小沢氏も志し半ばの政治改革や霞ヶ関の改革も中途半端なままで政界を去るとは思えない。9月の代表戦で再び一波乱あることも覚悟すべし、である。少なくとも,沖縄県民は辺野古も消費税アップも反対である。鳩山-小沢の方がマシだったという声も沖縄では少なくない。これが、菅政権の致命傷にならなければいいが…。ともあれ、来るべき参議院選挙では、沖縄の有権者には先々を見据えた賢明な判断が期待されていることだけは確かだ。少なくとも、沖縄県民にとっては菅政権にはレッドカードを突きつけて、社民党にでも入れた方が無難ではないか、というのが個人的意見である。

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「消費税アップ」と「辺野古への基地移設」、
どちらも口にする前に、菅総理にはやることがあるはずです。
税金を上げる前にさらなる無駄の削減が必要ですし、
基地移設については地元沖縄やアメリカとの腹をわった話し合いが必要です。
それすらもせずに強引に事を進めれば、
短期間のうちにまたしても民主党政権は行き詰ることでしょう。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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