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2011-07-13up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.104

原発も基地も結局は利権まみれだ

 東日本大震災と福島第一原発のメルトダウンからちょうど4か月が経った。行方不明者も含めると2万人以上の犠牲者を出した大惨事だった。しかし、いまだに原発事故収拾への先行きは見えない。原発事故が人災ならば、原発収拾の大幅な立ち遅れも政府の無為無策による人災の部分が多い。南相馬市では、ついに肉牛からも放射性物質・セシウムの異常値が検出されたため、出荷停止とされた。今回の原発事故の被害はどこまで広がるのか、いまだに予想もつかない。避難住民たちが地元にもどれる可能性も、時期もまったく不透明である。

 にもかかわらず、玄海原発再稼働に踏み切る一歩手前までいった。玄海町の岸本町長がいち早く再稼働への意思を表明し、海江田経産大臣が現地に飛んで古川康佐賀県知事の合意を取り付ける寸前のところで菅総理が待ったをかけた。EU並みの基準外の事態に対応するストレステストを行うべきと言い出したのである。得意の思いつき発言で民主党内は閣内不統一を露呈し、海江田経産大臣が辞意を漏らす事態に発展した。菅総理もメディアのバッシングの影響を受けて、支持率をさらに低下させた。

 しかし、これは、菅総理の方が正しい判断を下したといえるのではないか。その判断のタイミングや党内での根回し不足は紛れもない事実だが、原発再稼働にあたり、安全性に関しては念には念を入れるという「国民が第一」の政策をとるのは当然ではないか。国策としての原発利権にしがみつく原子力安全・保安院を抱える経済産業省に洗脳されて押し切られた海江田大臣の方がむしろ情けない。ハシゴを外されても仕方あるまい。海江田大臣は「安全性が確認された」というが、玄海原発の地元だけではなく、近隣の自治体も九電や経産省の言い分を信用しているとは到底思えない。再稼働のために、辻褄合わせの応急処理を施した付焼刃で、再び、福島第一原発のような大惨事が起きたら、その被害は福岡県や長崎県まで及ぶ。もはや、原発事故は地元の合意だけですまされる問題ではない。ひとたび事故が起きれば、80キロ圏外の広域まで放射線量は飛んで行くのだ。豊かな漁場でもある玄界灘海域の魚介類まで放射線の影響を受ける。玄界灘は韓国のプサンやチェジュ島と海域がつながっており、国際問題に発展する可能性もある。電力会社や経産省の思惑だけではなく、高レベルの政治判断も求められる。

 玄海町の岸本町長がいち早く原発再稼働で手を挙げた背景には、実弟が経営する建設会社「岸本組」が岸本町長就任以降の4年8か月で、電源立地地域対策交付金などの原発マネーを財源とした玄海町発注の工事や九州電力発注工事を少なくとも17億円分受注している事実を西日本新聞がスクープしている。町長自身も「岸本組」から株式の売却益や配当金として約1000万円を得ていたという。九電や経産省が原発再稼働第一弾のターゲットに玄海原発を選んだ理由が透けて見える。佐賀県の古川康知事も父親は元九電社員であり、知事選では九電の全面支援を受けたことも明らかになっている。まさに、原発建設・運営そのものが地元自治体の振興策だけではなく利権としても利用されているのだ。原発安全神話が崩れても、なおかつその利権を追及する「原発利権共同体」の存在は悪質というより、犯罪的である。

 そのことは、沖縄における辺野古新基地建設や、最近になって浮上した本島北部の安波地区にも言える。安波地区の一部区民らが仕掛けた2500メートルの滑走路を持つ普天間基地の代替基地計画は露骨なまでの地元利益誘導を政府や米国に持ちかけている。沖縄自動車道路の延伸、振興策の提言、軍民共用空港、そして、地主には土地の価格が数十倍に跳ね上がるという甘い餌を投げかけている。その成果か、区民の半数以上が賛成するという事態も現出している。黒幕仕掛け人は、沖縄選出で国民新党幹事長を務める下地幹郎議員だ。しかし、地元の名護市長も国頭村長も反対を打ち出しており、実現は困難とされているが、こうした動きが過疎の村の原発や米軍誘致に利用されているのが、日本低国の紛れもない真実なのだ。

 つい先日、7月9日に名護市内で、前原誠司前外相や中谷元元防衛庁長官ら、超党派の国会議員でつくる「新世紀の安全保障を確立する議員の会」の6名がやってきて「どの政党が与党になろうとも、普天間の移設先についての日米合意は揺るぎない」と気勢を上げた。地元の参加者は辺野古新基地推進派だった島袋吉和前名護市長や荻堂盛秀商工会会長、東開発仲泊弘次会長ら防衛協会系の辺野古誘致派が集まった。民主党の渡辺周や自民党の今津寛も参加し、翌日は防衛省が色気を見せている下地島空港も視察し、グリーン在沖総領事とも会見した。原発でテンヤワンヤの中、前原も無任所で暇なのだろうが、沖縄にとっては迷惑なやつである。前々から指摘しているが、総理候補でもある前原は、沖縄を食い物にする悪質な食わせ物、だと断じておきたい。

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一部の人々の「利益」のために、
さまざまなことが住民の頭越しに決められ、
危険性を無視して進められていく。
ここにも、原発と基地問題の共通点があります。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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