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2012-11-21up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.124

県民の気持を逆なでし続ける米軍と、米国の言いなりにしかならない日本政府

 沖縄県糸満市で開かれた「全国豊かな海づくり大会」に天皇皇后夫妻が参加。その日、よりによって、普天間基地所属の米国・海兵隊の中尉が住居不法侵入の現行犯で逮捕される事件があった。米兵は酒に酔って、他人の部屋に侵入し、ベッドに寝込んでしまったのだ。一か月ほど前に発生した米国・海軍兵による集団レイプ事件によって、在日米軍が午後11時より午前5時までの「夜間外出禁止令」を出している最中の出来事だった。

 外出禁止令が出されてから、これで二度目の住居不法侵入事件だ。前回は、酒を飲んだ米兵が、中学生の住居に不法侵入し、暴力をふるったあげく3階から転落して大怪我をするという悪質な事件だった。この手の事件が起きるたびに米軍が綱紀粛正を打ち出すものの、口先だけで米兵に対する管理は野放し同然なのだ。

 前回は、米軍が犯人の身柄を拘束したため、沖縄県警は基地内での任意取り調べだけで書類送検とした。こういう米兵の事件が起きるたびに、不平等な日米地位協定の抜本的改定が叫ばれるものの、日米両政府は完全黙殺してきた。

 墜落事故の多い欠陥機といわれるMV22オスプレイ12機も沖縄県民の総意を完全無視して普天間基地に強行配備された。配備に関して日米で合意された飛行条件も完全無視である。市街地はヘリモードで飛行しない、夜間飛行は午後10時までとする、といった取り決めは全然守られていないし、オスプレイは沖縄本島全域を我が物顔で飛び回っている。巨大なコンクリートを吊り下げて訓練したり、水タンクを吊り下げて消火作業にあたったり、まさにやりたい放題である。米軍は沖縄をアフガンのような「戦場」と勘違いしているのではないか。

 約8年ぶりの天皇皇后夫妻の訪沖で、沖縄では戒厳令並みの警備体制。県外からも動員された約3000人の警官が警備に当たった。主要な道路での検問や一時通行止め、周辺の海上では第11管区海上保安本部が巡視船を出してテロ警戒にあたるという物々しさ。そうした動きの中で、びっくりしたのが、国際通りで目撃した「天皇陛下万歳」を叫ぶ提灯行列だった。

 戦前から戦中、天皇制の呪縛の下に置かれたことで沖縄は悲劇の島と化した。戦後は昭和天皇の米国GHQへの提言もあって、沖縄は本土から切り離されて米軍の統治下に置かれた。沖縄県民にすれば、歴史的に天皇制や靖国神社に対していい感情はないはずだ。沖縄には右翼団体も数えるほどしかいない。にもかかわらず、2000名規模の提灯行列を見て度胆を抜かれた。おそらく、本土から参加した人々だろう。あるいは、沖縄の宗教団体からの動員もあったかもしれない。この提灯行列は天皇夫妻が今回初めて訪問する久米島でも20日に行われる予定だという。

 尖閣諸島の所有権を日本政府に移して以降、中国の監視船が領海内や経済水域に連日のように押しかけている。中国の反日デモじたいのヤマ場は越えたが、日中双方にとって経済的な打撃はあまりにも大きかった。日本側にも中国に反発するナショナリズムが一部で高まっている。尖閣の買収を仕掛けた石原慎太郎が都知事を辞職し、国政への復帰を宣言して、太陽の党を旗揚げした。内実はタカ派保守系の「たちあがれ日本」である。その後、橋下徹率いる日本維新の会と野合して、石原が自ら代表となった。この第三極は憲法改正と集団的自衛権行使の容認を主張している。次の総選挙で比較第一党が予想される安倍晋三率いる自民党も同じ方針だ。野田佳彦率いる民主党の中にも憲法改正派がいる。消費税増税やTPP反対で離党した面々以外の野田民主党の幹部連中や松下政経塾出身者たちは、親米、財界、霞が関との一体路線であり、総選挙後の民・自・公連携もありうるだろう。

 いつの間にか、護憲勢力は圧倒的に少数派の時代になった。今回の解散総選挙でも、オスプレイや日米地位協定の改定を訴える勢力はごく少数派で、沖縄県民は国政においても蚊帳の外に置かれているのだ。

 本土の大手メディアがどう扱ったのかよくわからないが、米軍が基地前に、「米国内治安維持法に基づいて立ち入り禁止にする」との警告板を張り出した。普天間基地の野嵩ゲート前だ。このゲート前ではオスプレイ強行配備以来、反対の抗議運動が連日のように行われてきた。これまでの沖縄の反基地運動の抗議行動が直接的に基地に向けられることはなかったが、オスプレイ配備前日には抗議デモが普天間基地の各ゲート前で行われ、四つのゲートがすべて閉鎖される事態となった。この看板も、抗議運動に対抗して米軍が思いついた苦肉の策だろうが、「ここは日本だろう」「市民への脅しだ」「主権の侵害だ」などという声が県民からあがった。さすがに米軍側もやりすぎたと思ったのか、看板は数日で撤去された。米軍が沖縄を植民地感覚で見ている証明ともいえる象徴的な事件だった。

 さらに注目すべきは、在沖海兵隊はグアム移転により9千人の兵員が縮小される計画だったが、財政の悪化で予算削減が緊急の課題となっている米国議会は、グアム移転の予算を認めなかった。そのかわり、米国海兵隊はアフガン、イラク戦争で中断していた、ハワイに拠点を置く第二歩兵大隊の沖縄への6か月巡回配備を来年前半から再開する方針であることが明らかになった。現在の在沖海兵隊を1万5千人から2万人弱まで増やすというのである。沖縄の基地負担軽減ではなく、負担拡大である。しかも、兵舎の不足が想定され、その分、民間の住宅を確保する必要があるというのだ。

 夜間外出禁止令が出されても、すでに、北谷町あたりの民間住宅に住む米兵にその規制は当てはまらない。その上、さらに民間住宅に住む海兵隊員を増やすというのだ。県民の気持を逆なでし続ける米軍と、米国の言いなりにしかならない日本政府。県民の怒りは限界を超える最終段階にある事だけは確かだ。にもかかわらず、安倍総裁のブレーンでもある菅義偉は、「民主党政権のおかげで日米関係はズタズタになった」などいうお門違いの言説を流している。実態は全く逆であり、認識不足も甚だしい。この国の政治は閉塞状況の極みである。

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なおも相次ぐ、米兵による事件。
問題の本質が、個々の米兵だけではなく、
米軍が沖縄を見る視線そのものにあることは言うまでもありません。
その状況は置き去りになったまま、
選挙に向けた「政局」のバカ騒ぎだけが続く…。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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