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2011-08-10up

おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」

第15回

誰かが安全と言うのを求めて自己判断せず受け入れる「安全神話」を脱るために、この世のリスクを受け入れアドベンチャーとして闘う覚悟をする件。 〜ガレキ解析、ステアリング会議、グリーンピース会見〜

 8月3日は飯舘の仲良しと私たちとロシアの怪人とのチーム飯舘で、東京大学の先生の研究室に伺いました。
 興味深いお話をたくさんお聞きしました。あるお話を書いてもいいか、許可がおりましたら、すぐに書こうと思います! お待ちあれ!

 その先生のお話で1つ、とても興味深いものがありました。
 その先生は福島のあちこちの土壌、稲藁、水を解析されているのだけれど、「1つでもいいから、福島第一原発のガレキを解析したい!」とのこと。
 とくに、建屋建造物のガレキの核種の解析をすれば、どの炉から何がどれくらい放出されたかを推定するのが今よりずっと簡単にできるのだそう。…そういえばそうだよね? 今は3月11日以降の各炉の状態がどうなったか、何が起こったか、実ははっきりわかっていなくて、シビアアクシデント解析コードという解析ソフトで、推定しているだけなのです。しかもそれは東京電力が使っているソフトのMAAPと保安院が使っているMELCORでは大きく解析結果が違うんだよね。
 6月6日に公表された資料によると、保安院は、1号機は東京電力の解析よりも約10時間早い、地震発生5時間後にメルトダウンによる原子炉圧力容器の破損が生じていたという解析結果。2号機では、東電の解析よりも29時間早く、圧力容器の破損が起こっていたという解析結果。3号機は、東電よりも13時間遅い解析結果。
 ね、けっこう違うでしょ?
 それは、MAAPは汎用コードで簡単な計算しかできないけど、MELCORは様々な条件を入力でき複雑な計算ができる、という違いがあるからなんだけど、まぁ、解析ソフトより、実際ガレキを検査するのも大切だよね。
 建造物がどのように飛散して、どの炉のどの部分のものがどこに落ちて、そしてそれにどんな核種が検出されるかわかれば、推理ゲームするよりずっとお役立ちなデータということは、私のような門外漢にもなんとなくわかります。
 なので「1つでもいいからガレキを解析したい!」なわけ。

 はい、翌日の統合本部の共同記者会見で東京電力にお聞きしてみました。

——今までガレキの核種の解析はされたことある?

東電・松本さん「一度もしていません。ガレキは作業のジャマになるのでロボットが集めてコンテナに詰めています」

——ガレキの核種の解析は各炉に何が起こったかの推定に役立つそうなんだけど?

松本さん「そのような学説は初耳でございます」

 わー、おっしゃいましたわね。

——建屋構造物の核種の解析はどの炉から何がどれくらい放出されたか推定するのに役立つ、というのは私は東京大学の先生に伺ったのだけれど、東京電力さんはそのような学説は初耳、ということで、どのような専門家にご相談なさってるの?

松本さん「ガレキの解析は意味があるというのはおっしゃるとおりでございますが、現段階では、事故の収束が最優先課題ですので、解析はいずれ検討させて頂きます。」

——いつくらいに解析をされるのか、検討結果を回答頂けるのはいつなのかしら?

松本さん「事故収束後になろうかと思います」

——んーでも事故収束後だと、ご存知のとおり、崩壊してしまう核種はもう検出されませんよね? 急いだほうがよくない?

松本さん「現段階では事故収束が最優先ですので、1F内の作業のジャマになるガレキは全てコンテナに積めています」 

 ……あのさ、中国の鉄道省が、列車事故直後に車両をせっせと土中に埋めていたのを思い出しちゃいましたよ!

 あんまりなので細野原発担当大臣に、お願いしちゃいました。

——東電さんはああおっしゃるんだけれど、建屋のガレキの解析は大切ですわよ? きちんと保全してくれません?

細野大臣「確かにそれは重要なことだと思います。専門家と相談したうえで、今すぐガレキの解析に入るのは無理でも、全てコンテナに詰めるのではなく、サンプルの保管方法など検討します」 

 ほんとお願いしまーす! で、その解析される先生もいい加減な方だったらしょうがないので、私が素敵な先生をご紹介しますわよ!

***

 ところで、8月4日の共同会見のとき、珍しく早く東京電力に着いて、会見場に入れず、1階のロビーのところで待っていました。
 すると、会見の受付とは別に長机が出ていて、足早にいろんな方が受付をして中に入っていかれる。あら? 共同会見とは別に何かあるのかしら? そのとき、私は調べものに夢中でしたので、ケンパルにちょっと偵察行ってきて、と指令を出しました。けどすぐに帰ってきて、

ケンパル「マコちゃ〜ん、おっぱらわれちゃったよぅ〜」

 ん? どゆこと?

ケンパル「これは何があるんですか? って聞いたら、別件です! って言われてこっちも見てくれなかった! なんか悔しいよ〜。でもね、ステアリング会議って書いてあった!」

 ほほう、うちのケンパルにいやな思いをさせたわね? じゃ私がいくわ。

——これは何の受付でしょうか?

受付「別件です」

——教えて頂けません?

受付「関係ありません」

 わーこれはつれない! 話しながら机の上を見ても、名簿すらない! 何の手がかりもないのね! 長机に貼ってある、「ステアリング会議」という文字のみ。
 そして、調べものをするふりをしながら、受付する方々を観察。けどさっと来て、すぐに中に入られる。しかし、外国の方のグループがいらっしゃいました。その方々はすぐに入らず、いったんロビーで集合されている。そっと近づいてみると、英語と、…これはフランス語?
 あーでもなんか当たり障りの無い会話だわー。今日は暑いとか、なんとか。

 そして会見が始まり、ケンパルがインターネットで「見つけた!」。
 ステアリング会議のメンバーは、電力会社(東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力、日本原子力発電株式会社、電源開発株式会社)とプラントメーカー(東芝、日立)で構成されている、という資料がありました。……原子炉の会議?
 ステアリング会議の目的は「わが国のBWRプラントの安全性や信頼性をさらに向上させることを目的として、電力会社とプラントメーカーの間でBWRプラントに関する情報を共有し、必要な技術的検討を行なう実効的な枠組みを設けるもの」ですって。ちなみにBWRとは沸騰水型原子炉のこと。
 検討課題として

(1)トラブル情報等の共有と水平展開方針の検討
(2)安全性、信頼性を高める観点からの共通課題の検討
(3)点検用の資機材や予備品等に関する情報共有化
(4)保全、中長期工事計画の情報共有化

 おお! ぜひトラブル情報や保全計画の情報は共有化しましょうよ!
 というわけで、お聞きしてみました。

——今日、この東京電力内でステアリング会議というのが行なわれていますが、何を話し合ってるのですか? その内容を公表して頂けません?

松本さん「ステアリング会議というのは各電力会社で構成されており他社さまのこともありますので公表できません」

——あら? 東北、東京、中部、北陸、中国の電力会社のほかに、日本原子力発電株式会社と、電源開発株式会社と、東芝、日立のプラントメーカーで構成されてますよね? 

松本さん「おっしゃるとおりでございます。そのメンバーから推測するに、沸騰水型原子炉の会議だと思います」

 うん、知ってる。ていうか松本さんもご存知のはずでしょ?

——今回、海外の方々も参加されていたので、ぜひ内容を公表して頂きたいのですが。

松本さん「企業のことでございますので、公表できません」

——えーでも、各電力会社は地域独占してるから競合会社は無いはずでしょ? 企業秘密ってプラントメーカーである東芝、日立を考慮してのこと?

松本さん「他社さまのこともございますので検討させて頂きます」

 海外の方々も参加してのトラブル情報の共有は私たちともぜひして頂かなくっちゃね!

***

 8月9日はグリーンピースジャパンの農林水産省と消費者庁への緊急要請の会見がありました。水産物の調査結果の発表も。
 水産物のサンプル自体は少なかったんだけど、水産物についてはずっと気になることがあったのでお聞きしてみました。

 淡水魚はどうなの? と以前から心配で(第3回をご覧あれ!)。以前の水産庁の調査では、福島県は淡水魚から汚染魚が出ていたんだけど、宮城県の淡水魚を調査していなかったの! 県境まで汚染された淡水魚が出たのにもかかわらず。
 なので、調べてくださいませよ、とお願いしていたのですが、あまり事態は変わっていないのです。
 水産庁が出している「各都道府県における水産物放射性物質調査結果」というのをご覧ください。

 これを見ると、福島県の阿武隈川のアユは

 7月13日に1610Bq/kg
 7月20日に1170Bq/kg
 7月27日に1240Bq/kg

 最近でみてもこれだけセシウムが検出されているのです。過去はもっと多いのよ。
 しかーし! 6月1日の会見で水産庁に宮城県の淡水魚も調査してね? とお願いしてから、確かにちょこちょこしてくださってるのだけど、たったの5件なの! そして問題の宮城県側の阿武隈川のアユは1回しか調査していないのよ… そしてそれは6月15日の調査で227Bq/hのセシウムが検出されています。暫定基準値は500Bq/hだから、基準値以下ではあるけれど、別に小さい数字では無いのです。福島県側の阿武隈川のアユもそれくらいの量のはあるし、そして、上記のような高汚染されたアユも同時に存在してるわけだし。
 なのでお聞きしました。 

——グリーンピースは海洋汚染調査をされてるわけだけど、申し訳ありませんが、淡水魚も調査されるおつもりは無いですか。

グリーンピース・ヤン氏「淡水魚も重要な問題です。その検討は実は私たちもしていました。いずれ取り組みたいです」

 そして会見終わりにグリーンピースの花岡さんにぶら下がってきました。聞き忘れたことがありましたので。

——あの、今回の調査では内臓も調査されてましたが(身のおよそ半分のセシウムが内臓に蓄積されている、という結果でした)骨は、骨に蓄積されるストロンチウムの調査はされなかったのでしょうか?

花岡さん「骨のストロンチウムは重要なことです。本当は私たちはそれも調査したかったので、内部で話し合ったのですが、ストロンチウムまで調査できませんでした。」

——ですよね、ヨウ素、セシウムはγ線核種だからゲルマニウム半導体検出器で一緒にピークを検出できるけど、ストロンチウムはβ線核種だから、別調査だし、1ヶ月くらいかかっちゃいますもんねぇ…

花岡さん「そうなんです、お金も時間もかかってしまうので、今回見送ったのです…」

 そうですか… というより、自国政府でなく環境NGOに頼らざるをえないこの状況が問題なんだよう! なんか自国が不甲斐ないのに、グリーンピースを責めてるみたいになっちゃってゴメンナサイ、と謝っておきました。  
 そして、この会見でビックリしたのは、調査結果ではないのです! 
 グリーンピースの資料によると、通常は9月に福島や茨城で底引き網漁が解禁されるというのです! ほんとに大丈夫なの?
 それを受けての日本政府への要望書、
 ①魚介類のモニタリングおよび流通規制の強化
 ②魚介類の商品ラベルに放射能汚染の数値化と漁した具体的な海域の表示義務化
 これを緊急要請した、というのが会見の主旨だったのです。

 今回はけっこう大手メディアもいらしてて、グリーンピースの発表がそのまんま記事になっていましたが、疑い深いわたくしは、仲良しのグリーンピースでさえ疑っちゃうのでーす☆  本当に9月から底引き網漁が解禁されるのかしら?
 水産庁のホームページから資料を探しました。
 「水産復興マスタープラン」という資料が出ていて、その中に「H23年秋から冬にかけて再開可能な漁場」という一文があるのは見つけたけど、9月から底引き網漁解禁かどうかは分からなかったわね。
 でも、のけぞる文章を見つけました。下記。

『原子力発電所事故への対応』
・原発事故に伴い操業自粛や風評被害などが発生
・水産物の安全性に係る不安解消が喫緊の課題

 ええと、原発事故による水産物の問題点は、「自粛」「風評被害」「不安」全部気のせいっておっしゃりたいのかしら…?
 これじゃあ、きちんと水産物の汚染調査をやる態勢にならないわけですよね、トホホ!                                                           

***

 いろいろ、解決方法の無い怖い情報ばかり書かないで、と時々言われることがあります。 

 ナイーブな方の不安を煽りかねない、と言われるのです。しかし、不安を解消する一番の方法は、正確な知識と情報を自分から得ようとすることだと思っています。
 もともと、私たちはどなたかの不安を解消するために情報を発信してるのではありません。もちろん不安を煽るつもりもありません。
 私たちは普段、信じたい情報を信じようとするし、誰かが安全、安心と言うことを求めようとしがちでしょう? それが、現況を導いた悪因のひとつでもあると考えています。
 そして、ナイーブで不安に思う方がいらっしゃるなら、その方に心配はいらない、と説明されるのではなく、ご自分でいろいろ知って考える行動をおススメするのが一番だと思います。

 これからは0か100かの安心、安全など無いと私は思います。そして、安心・安全を政府や誰かの判断に委ねるべきではなく、一人一人がリスクアセスメントする癖をつけねばならない、とも思います。
 リスクアセスメントとは「リスクの大きさを評価し、そのリスクが許容できるか否かを決定する全体的なプロセスのことである」ということ、本質は「むやみにリスクを増やすべきではない」のを前提として「どのくらいのリスクならあえて受け入れられるか」の判断をすることだそうです。

 つまり、私たちがすべきことは、誰かの「安心、安全」にのっかるのではなく、情報や知識をできるだけ摂取して、ある程度の自己判断をする癖をつけることだと思うのです。
 もちろん、各方面の専門家になるのは無理なことです。しかし、この専門家ならある程度信用できる、と判断するレベルにはなれるのではないでしょうか。

 私たちを応援して頂くことはありがたいことですが、私たちも間違えることも多々ありますし、考え方が違うことも多々あるでしょう。
 私たちを盲目的に信用されることは正直、一番イヤなことです。私たちが伝えたいこと、「盲目的に何かを頼るのはやめようぜ!」と一番かけ離れることだからです。

 と、説明したうえで、とても怖い情報を得ましたので書きます。
 最近の私の闘いはこの情報にシフトしていっていたのです。そのことを書くために、先生に許可を求めていたのですが、この原稿を書いている間にお返事を頂いたので、解禁です。

 ・・・が、長くなったので、明日! いつもいつも、ギリギリの入稿でご迷惑をかけている編集さまゴメンナサイ! そしてこの良質のインターネットメディア、マガジン9をどうかみなさま支持してくださいませ! (ブロゴスとFPAJザ・ニュースに転載されるから、広告になりますように☆)

【今週の針金】
セシウムはカリウムと似てるからセシウムの吸収を防ぐにはカリウムを十分摂取する事が必要。例えばバナナ!
果物に含まれる植物繊維のペクチンがセシウムの除去に効果があるそうです。例えばりんご!!

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ということで続きは次回、
イレギュラーですが明日(11日)更新です!
「脱ってみる?」のタイトルで始まったこの連載ですが、
結局一番「脱」らなきゃいけないのは、
「誰かが何とかしてくれる」と頼りっぱなしな私たち自身なのかも。

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おしどりプロフィール

マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。
ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。
マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。

ブログ:
 http://oshidori.laff.jp/
twitter:
 マコ:@makomelo
 ケン:@oshidori_ken
その他、news logでもコラムを連載中。

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