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2013-04-15up

おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」

第57回

いわきのママたちと
地下貯水槽と作業員の方のお話の件。

 貯水槽から汚染水が漏れている件は連日会見に行っております。ケンパルが少し遅れて質疑を書き起こしているからそちらもご覧になってね。

 前回、マガジン9に記事を書いてから、いろんな事態がありました。やはり、移送先の貯水槽1からも漏れ出し、その漏れ方が元々漏れ出していた貯水槽2よりも早く、濃度の高いものが漏れています。
 詳しく書きたいんだけれど、実は今、福島県いわき市にきています。

 なので、速報&ダイジェストの記事を急いで書こうと思います。

***

1.いわきなう。(4月12&13日ね!)
2.地下貯水槽からの漏えいについて
 2-1.施工時の検査は甘い!?
 2-2.大量に漏れたストロンチウム
 2-3.ベントナイトがストロンチウムの吸着材に!?
3.福島第一原発作業員の方の驚愕のお話。
 3-1.レベル7の原発事故の収束作業なのに、お金も時間もケチってる!?
 3-2.事故以前と同じ人員確保の状態では、原発事故収束作業員の確保は破たんする!!
 3-3.4号機の使用済み燃料プールだけではなく!!
 3-4.一番の問題は2号機がシビアな状況になること!!
4.おまけ
5.おまけのおまけ

***

1.いわきなう。(4月12&13日ね!)

 いわきの初期被曝を追及するママの会から「来て!」というわけで。

 福島県いわき市は、今は線量は福島県の中通りという中部地域よりは低いんだけれど、事故直後に、高濃度の放射性ヨウ素を含んだプルームが2回通過したの。だから、事故直後の小児甲状腺サーベイ(甲状腺の等価線量を測定し、放射性ヨウ素がどれくらい蓄積されているか調べるの)は、いわき市で一番に開始され、最高値の子どももいわき市の4歳児でした。
 このあたりのところは2011年にいっぱい調べて書いたから、マガ9の読者のみなさまならご存知だよね!

 半減期の短いヨウ素の被曝は数か月後にホールボディカウンターを受けても、調べることはできないので、ヨウ素被曝が切り捨てられてしまう! と2011年から言い続けていた私は、2011年にいわきに何度か来たときも、いわきのママたちに直接お伝えしていました。
 どうしようか考えたけど、やっぱり事実は事実だし、私だったら知りたいし、切り捨てられていい問題ではないし、伝えたあとも私は調べ続けるし、ママたちに「頑張って」じゃなくて私が頑張るからたまには休んで、と言いたかった。

 でも、結局、彼女たちはその後どんどん動きだし、私のほうが力をもらっているけどね! ママたちは、くじけたり、困ったりしながら、今も動き続けています!
 NHKのETV特集の「ネットワークでつくる放射線地図 埋もれた初期被ばくを追え」が2012年に放映されて、やはり、半減期の短いヨウ素の被曝が切り捨てられている、いわきは2回も高濃度のプルームが通っているのに! と改めて知ったママたちが立ち上げた会が「いわきの初期被曝を追及するママの会」です。

 12日夜にいわきに来て、ママたちとゴハン食べながらお喋りをしました。
 小学校に来た放射線教育のアドバイザーの話、いわき市長に質問状を出したら酷い対応をされた話、鮫川村の瓦礫の焼却所問題を撮影して追い続けている話、いっぱいお聞きした! なんか状況はヒドイんだけれど、めちゃくちゃパワーアップしていて驚いた!
 「行政の説明会とか交渉とかには、絶対カメラとかICレコーダーとか持っていかないとダメだって言ってやったの~。ちゃんとそういうところをわかってないもんだから、交渉で『村長がこういうことを約束してくれた、良かった』とうっかり喜んでも、後で村長に確認すると『そんなこと言った覚えない』で片付けられちゃうんだもの~」
 「やっぱり全部きちんと録って、オープンにしていかないとね~」
 ネットの中継技術を身に着けたママもいます!

 でも、いわきのママたちのことは、とても面白いし、まだまだいわきでお話を伺っていくので、後程まとめましょう!

 というわけで、12日晩はいわきの湯本温泉に泊まっています。福島第一原発で作業される方々がたくさん宿泊されているところです。
 ちなみに、このおしどりが泊まっている旅館は、神戸製鋼さんと有元プラントさんの宿になってま~す。お話を伺おうと思っていたら、土日は帰ってしまわれるんだよね。残っておられた地元の作業員の方に伺うと、神戸製鋼さんは共用プールを、有元プラントさんは原発のダクト関連の設計・施工・点検などをやっているんですって。

********

2.地下貯水槽からの漏えいについて

 貯水槽の漏えいで気になる点をいくつかあげます。

2-1.施工時の検査は甘い!?

 同じ時期にできたもので同じ造りなのであれば、恐らく他の貯水槽に移送しても、同様に漏えいするのでは? ということは前回に書きましたね、予想どおりになりました。いや、予想よりひどいかな、数か月は持つと思っていたから。

 ということを会見のぶら下がりで、東京電力の技術の方にぶつけると、「私も同じです、もう少し持つと思っていました。予想以上に漏えいが早く驚きました」とのこと。

 漏えいは予想されていて(それはなぜか、ということを次の項に書きます)。で、結局、地下貯水槽を使用するのはムリ、となり、他のタンクに急いで移す計画が始まっています。貯水槽3から貯水槽6へ移す際、11日の14時から移送しようとしたら14時3分に漏えいが発覚しました。
 あ、すぐにダメだったのね…。

 なぜ、こういうことが起こったか。東電の臨時会見で聞きました。

――汚染水を移送する前に、移送試験はしなかったのでしょうか?

東電・尾野さん「緊急だったのでしておりません」

――施工時に水張試験をしたときには、水圧試験はされたのでしょうか?

東電・尾野さん「そういう意味でいえば、ろ過水で水張試験をしたときなど、施工時にできるタイミングはあったかもしれません」

――施工時に配管の空圧試験もされてないのでしょうか?

東電・尾野さん「しておりません」

 水張試験のときの詳細も出して頂きましたが、通常、危険物取扱タンクのときにするような検査はされておりませんでした。
 満水時の地盤沈下量の測定や、蛍光剤や染色剤などのトレーサーをもちいての探傷試験とかね。大容量のものだとトレーサーを使うのは難しいかもしれないけど、同じ作りの小型の貯水槽ですら試験はされていません。
 満水にして、著しい水位低下はみられない、OK! とされただけ。トレーサーを用いて、どこからかジワジワと水がしみ出していないか、などは調べられていなかったのです。

2-2.大量に漏れたストロンチウム

 記者さんがたが、会見時に、漏えいした付近の雰囲気線量を聞いておられました。回答は0.2mSV/hとのこと。

 いや、でも漏えいした濃縮塩水はβ核種がたっぷり含まれていて、セシウムやヨウ素などγ核種はあまり含まれていないよね?(γ核種のうち、アンチモンやルテニウムは含まれているけれど!)
 β核種というのは、飛程、放射線の拡散する距離が案外小さいんだよね、だから漏えいしたところの雰囲気線量を聞いてもあまり仕様がないんじゃないの…? と思って、漏えいした付近の表面線量、漏えいした濃縮塩水そのものの表面線量を質問しました。

東電・尾野さん「漏えいした付近の線量は28mSV/hです。」

(やっぱり、雰囲気線量よりずっと高い! でも、汚染水が土壌に染み込んで、拡散、希釈されたあとの漏えい付近の表面線量が28mSV/hということは、元々の汚染水、濃縮塩水の表面線量というのはずっと高いよねぇ!)

――では、その元の濃縮塩水の表面線量はどの程度ですか?

東電・尾野さん「確認します」

 実は、作業員の方が、濃縮塩水は1000mSV/hとか、2000mSV/hとか、とにかくβ線でめちゃくちゃ表面線量が高くなっているので、作業をするときに配管のバルブを操作するときなど、絶対に正面に立たない! とおっしゃってたのを伺ったことがあって。えーそんな高いの?

 ということをツイッターで呟いたら、ある方が資料を探しだしてくださいました。
 「1年前の濃縮塩水が漏えいした事故では、やはり表面線量は2000mSV/hでしたよ!」と、ともに添えられていた資料はこちら。
 資料では「2SV/h」となっていますけどね。やっぱり、元は高濃度の汚染水が漏えいしたのですね…。

 先程も書いたとおり、β線(この場合はほとんどがストロンチウムの寄与だろうけど)が大部分なので、飛程が小さい。なので、雰囲気線量は低くても、漏えい個所の表面線量は高い。
 ということは、作業員の方々がどれくらい被曝しているか、というのは胸につけているAPDや線量計の管理ではなく、指輪型の線量計「リングバッジ」で、作業をしている手がどれくらい被曝しているかを計ることが重要になってくると思います。

2-3.ベントナイトがストロンチウムの吸着材に!?

 汚染水、濃縮塩水そのものの表面線量はとても高く、含まれている放射性物質の濃度もとても高いのですが、外部に漏えいしている汚染水の濃度は少し低くなっています。それはなぜか。

 私はベントナイトシートや間に挟んでいる不織布がフィルターの役目をはたして、放射性物質を吸着している可能性をたびたび質問してきました。

――ベントナイトシートやフェルトがフィルターの役割をするという事は考えられるのでしょうか。

東電・尾野さん「そう云ったようなことがどの程度あるのか、というのはデータ的に今確認してませんけども、こういった物で簡単に汚染が除去できるということであれば逆にありがたい事となるのですが、今後サンプリングを詳細に継続して、様子を見ていくということを考えておりますので、そうしたデータの中の積み上げの中で、または様々な知見があろうかと思いますので、そう云った事を見つつ評価していきたいと思います」

 ん? でもやっぱりフィルターになるよ!
 「ベントナイトもゼオライトもモンモリロナイト系粘土だからフィルターだ!」と会見中小さくつぶやいた私に、ケンパルがこう言いました。
 「マコちゃん、何か今呪文となえたの?」

 そこで、ベントナイトの英語の報告書や文献を調べました。
 すると、チェルノブイリ原発事故のあと、ゼオライトでセシウムを、ベントナイトでストロンチウムを吸着して事故収束の作業にあたっていた、という文献がいくつかありました。やっぱりね!

 ぶら下がりで東京電力の設備管理課長、小林さんに伺いました。

――ベントナイトはやっぱりストロンチウムを吸着するフィルターになっているのではないですか? ストロンチウムを多く含む濃縮塩水を貯留する可能性があるので、万一漏えいしたときのことを考えて、ベントナイトシートを使用したのでしょうか?

小林さん「そこまではどうかわかりませんが、おっしゃる通り、ある程度フィルターにはなっていると思いますね」

――チェルノブイリの文献ではベントナイトがストロンチウムを吸着するという文献はいくつもありましたが、日本では原子力業界でそれは既知でしたか? 使われていた実績はあります?

小林さん「そうですね、六ヶ所村の核廃棄物処理施設で、ベントナイトを使用していた、というように記憶しています。」

 ほほう、調べてみましょう。

 「放射性物質汚染土の中間貯蔵施設設計における地盤工学の貢献」(第9回地盤工学会関東支部発表会/茨城大学 国際会員 小峯秀雄)。これには、高レベル放射性廃棄物の地層処分施設におけるベントナイト系緩衝材の設計において、想定されているシナリオなどが書いてありました。興味深い。

 「高レベル放射性廃棄物地層処分における粘土の利用/4.2 ベントナイト緩衝材中の放射性核種の移行挙動」(北海道大学大学院工学研究科・小崎完)

 「圧縮したベントナイトは、その主たる構成鉱物であるモンモリロナイトの働きにより、低い透水性と陽イオンの放射性核種に対する高い収着能を有しており~」。やっぱり今回の漏えいでベントナイトシートはフィルターになってたみたいね。

 つまり、地下貯水槽から漏えいした濃縮塩水は、表面線量が全βで2000mSV/h(2SV/h!)という、恐ろしく高線量で、β核種、恐らくストロンチウムを大量に含んでいたのですが、不幸中の幸いか、ベントナイトシートがフィルターの役割を果たし、かなり吸着したと思われるので、環境中に出てきた全β(ほとんどストロンチウム!)はかなり低減したのです!!

 そして、ここで肝心なこと。ゼオライトやベントナイトは、農業でも使われていました。ゼオライトはセシウムをよく吸着するでしょ、ということは似た形態のカリウムもよく吸着するということなのですね。
 で、畑には肥料としてカリウムをまきます。そして、ゼオライトもまいて、カリウムを吸着させ、流れ出るのを防ぐのです。で、その後、ゼオライトは、少しずつ、吸着したカリウムを放出するので…つまり土壌にカリウムを保持するのに使うのです。

 私はセシウムの除染に使うのでゼオライトというものを初めて知ったけど、取材した農家さんたちは「農家は元々ゼオライトを畑にまいていたよ! カリウムを長持ちさせるのに使っていたのさ。だから、畑にゼオライトをまくと、いったんセシウムは吸着されて、作物に出てくるセシウムは減るかもしれないけど、土壌の中からゼオライトを取り除かないかぎり、少しずつセシウムを放出し続けるだろうな。なんで、セシウムを吸わせたゼオライトはどうするのか、誰も言わないのさ? ちゃんと処分しないかぎり、ゼオライトは少しずつセシウムを吐き出すよ、だって俺たちそうやって使ってたんだもん」

 少し調べただけで、<ゼオライト・ベントナイトは肥料の流亡を防ぎ、栄養分を吸着するので土壌の保肥力が向上する。土壌の養分吸着力を高め肥料の効果を長持ちさせる>という文献はたくさん見つかります。
 つまり、ストロンチウムをたっぷり吸ったベントナイトシートを早く撤去して、放射性廃棄物として保管しなければ、今の土壌に接したままだと、ストロンチウムを保持しながら、少しずつ環境中に吐き出している状態になっているのです。
 会見で、濃縮塩水の移送計画だけでなく、ベントナイトシートの撤去計画も質問しましたが、今はとにかく移送が最優先で、その後のベントナイトシートの撤去などは未定とのことでした。
 不幸中の幸いで、ベントナイトが漏えいしたストロンチウムをたくさん吸着してくれたのだから、その撤去を急ぐことが、今回の漏えい事故の被害を最小限に食い止めることなんですけどね!

 土壌に出た放射性物質はいずれ、地下水脈を通って、海に流れるそうです。ぶら下がりでお聞きしました。
 「まぁ、どのくらいの時間がかかるか、どの程度の量がいくかわかりませんが最終的には海にいくでしょう」

********

3.福島第一原発作業員の方の驚愕のお話。

 しかし! この地下貯水槽の濃縮塩水の漏えいなど、比較したら案外些末なことだ…と思ってしまうことを伺いました。
 4月11日は原発作業員の方と東京大学の若い先生と話し合っていました。

3-1.レベル7の原発事故の収束作業なのに、お金も時間もケチってる!?

作業員「まぁ、あちこちから漏れるのは当たり前だと思いますよ」

――えーどうして!?

作業員「だって、いろいろな設備は応急処置の突貫工事でしたから。原発事故のあと、とにかく、急いで、1年ほど持てばいいから、というような感じで設備を作っていったんです。施工業者によっては、『品質の保証はしない』という一文が契約に入っていたりもしてましたよ。その1年持てばいいと作った設備を1年以上使っているのですから、あちこち劣化はしていくでしょう」

 ショック…。

作業員「そしてもう一つ。とにかく急いだのと、問題は『とにかく安く!経費を抑えて!』という発注なのです。原発事故収束のため、国から東電にお金が投入されていますが、それはただ与えたわけじゃない、いずれ国に返還する性質のものです。つまり、借金。福島第一原発は今後利益を生むわけでなし、そうすると東電はできるだけ借金を少なくしようとしますよね。するとどうなるかというと、原発事故収束のための工事・設備が『とにかく予算をおさえて! 経費をおさえて! 安い素材でいいから!』といったことになるのです。世界の叡智を集めて事故収束にあたるというようなことでは、現場は全くありませんよ」

ケンパル「世界の叡智でなくて、ケチを集めていますねぇ!」

作業員「お金だけでなく、時間もケチっているのです。『年度末だから急いで工事を仕上げて!』というような現状もあります。『年度末だからもう予算が出ない』とかね。レベル7の原発事故という大惨事が継続中ですのに、なぜ、このような『年度末』に振り回されないといけないのか…。
 原発事故の収束作業というのは東京電力という一企業に任せていいことではない。企業であるかぎり、利益を追求せねばならないし、年度末や決算もあるでしょう。なので、福島第一原発を、東京電力から切り離し、事故収束のため、廃炉のためのプロジェクトやチームを立ち上げねばダメだと思います」

3-2.事故以前と同じ人員確保の状態では、原発事故収束作業員の確保は破たんする!!

作業員「お金の問題だけではありません。人員も大きな問題です。事故収束にあたる人員の確保は本当に難しくなっています。線量限度を超えてしまった人間はもちろん現場作業にあたれなくなりますね。経験・知識を持った作業員が減っていくことは予想されていました。
 それだけでなく、遠方から来られる、とにかく短期でお金を稼げればいいという作業員。これは、まぁ原発だけでなく建設業界の闇ですが。こういう方々は事故前なら、元請けから4次請け、5次請けくらいでまわっていました。でも事故後はそれでも人員を確保することが難しく、9次請け、10次請けまで手配に動いても、なかなか人が集まりません。そして、それほど下請け会社を挟むと、労働賃金はかなり削られますね。
 で、どういうことが起きているかというと、遠方から、お金を稼ぎにきた作業員は、福島にきて、宿舎に入り、いろいろな人間と話すとあることを知るのです。それは、除染作業のほうが、一日の労働賃金が高く、被曝量も少ない、ということを。そうすると、遠方から福島にきて、原発事故作業員をやっていた人間が、次々と辞めて、除染作業員になっていくのです。」

 わ、その話はいろいろな作業員の方から伺っていましたが、やっぱり…。

作業員「もう一つの種類の作業員もいます。全国の原発の作業員たちです。今は全国の原発はほとんど止まっていますよね。各地の原発作業員たちが、責任感と使命感から、もしくは指示を出されて福島原発事故の収束作業員として来ています。しかし、これから、各地の原発はどんどん再稼働されていくので、そうなると、彼らはまた、元いた自分の原発に帰っていったり呼び戻されたりすることでしょう」

――えー! どんどん再稼働しますか、やっぱり!

作業員「もちろんしますよ、そういう流れになっています。規制庁から骨子が出たでしょう、あれでどんどん再稼働のための点検が始まっていくことになっています。これから点検のために作業員が呼び戻されていきますよ」

 規制庁から、再稼働のための原発の「新安全基準の骨子(案)」が出たので、電力会社によっては、工事・点検・調査に走り出したところもあるとのこと、それで各地の原発作業員が戻っていっているそうです。

作業員「元々の福島第一原発の作業員はどんどん線量限度をパンクさせていく、全国各地の原発作業員は再稼働とともに、各地に戻っていく、お金を稼ぎにくる現場作業員も集まらない。経費を抑え、安い素材で設備を作っているだけでなく、作業員の人員確保も大きな大きな問題なんです」

――お金も人間も、大きな問題ですね…。

作業員「作業員の形態もまだ問題があります。建設業界の深い闇ですが、3次請け、4次請けなど、下請け会社の問題。先程も言いましたが、現在は9次請けなど、かなりの下の会社と一緒に作業しているのが現状です。だから、10人でチームを組んである作業にあたっているとしますよね。その中には3次請けや6次請けや、いろいろな雇用の人が混ざっているのです。しかし、元請けや2次請けの、チームのリーダーは、6次請けや9次請けの作業員に直接指示できない。それが、『偽装請負』と言われてしまったからです。
 確かに直接の雇用関係にないのに指示するのは違法ですし、建設業界の闇の部分で正さなければいけないところはたくさんあります。でも、今、原発事故収束作業にそれを求められると困る部分もあるのです。今、作業をしながら、『あ、そこの部分はこうやって作業してほしいのに…』と思っても指示することができません。その人間が現場を離れ、『雇用関係じゃない人間に指示され働かされた!』と訴えればそれが偽装請負になるからです。なので、怖がってなかなか指示できない、という問題もあります。
 確かに偽装請負は悪いことです。でも人員が確保できず、いろいろな立場の人間が一緒に作業せざるを得ない現場で、この状態は非常にまずい。もう、このような雇用形態も変えてほしい。一括して国やどこかが、事故収束のために管理するべきだ。これも、東京電力から福島第一原発を切り離してほしい理由の一つです」

3-3.4号機の使用済み燃料プールだけではなく!!

作業員「東京電力の収束作業計画として、世論で騒がれているところにフタをしていく、といった傾向があります。廃炉に向けての長期的計画ではなく、騒がれないようにするだけの場当たり的な計画になっているんですね。騒がれないところは放っておく。
 4号機の使用済み燃料プールは話題になっているでしょう。だから、早くに様々な対処・計画が立ちました。しかし、私は、4号機の問題は使用済み燃料プールだけではないと思っています。
 原子炉をはさんで、使用済み燃料プールの反対側にDSP(機器貯蔵プール)というものがあります。通常の運転中はDSPはあまり使用しません。しかし、震災時、4号機は定期点検中だった。震災の直前に、4号機の原子炉の中からシュラウドを取りだし、水中で切って、DSPの中に入れていたのです。なので、4号機のDSPの中には高線量のシュラウドや切りくずがいっぱい入っているのです」

 シュラウドとは、原子炉圧力陽子の内部に取り付けられた円筒状のステンレスの構造物。内部に燃料集合体や制御棒を収納します。原子炉の中で、冷却水の流路を確保するための仕切板の役目もあります。高さ7m、直径4.5m、重量は35tという大きいもの。これは原子炉の中で燃料棒が臨界を起こしているときに一緒に入っているので、うん、それはそれは高線量になるよね! それが4号機の使用済み燃料プールの反対側、DSPに入っているというのです。

作業員「DSPはもちろん満水ですし、シュラウドや機器もたくさん入っている。このDSP全体の重量は1年ということで構造計算をしていたはずなので、爆発して建屋の構造が弱まっている現状、DSPはどうするのだ、と心配なのです。4号機の使用済み燃料プールの燃料棒取り出しの計画のときに、一緒にDSPの貯留物も取り出したほうがいい、という提案もあがったのですが、『そこまでの予算は無い、今騒がれているのは使用済み燃料プールだから』という理由で却下されたそうです」

――わー、DSPはあとどれくらい持つかしら…

作業員「1号機のカバーリングも終わりましたが、あれも対症療法。あれは、カバーを外す想定で作られておりません。最終的に、建屋の中に入り、廃炉作業をしなくてはいけないのですが、どうやって壊すんでしょうねぇ…。壊すのに手間がかかると思いますよ…。でも、『とにかく、大気中に放出する放射性物質を低減させていけば、世論がおさまる!』といった理由で、取り外せないカバーを応急処置でかぶせたそうです」

 聞けば聞くほど、ガッカリなお話です。地下貯水槽の漏えいなんか些末な話だ、というのがわかってきました…。

3-4.一番の問題は2号機がシビアな状況になること!!

作業員「そう、地下貯水槽など些末なんです。なぜかというと、本丸は汚染水や冷却システムではなく、建屋、原子炉ですからね。1号~4号まで、どうやって解体、処理していくか。まだ中にも入れない状況ですよね。それに比べれば、現場は、メタクラや地下貯水槽など、建屋外の問題は些末に感じてしまいます、重要なことですけれどね」

――では一番、問題なのはどこですか?

作業員「それはやっぱり2号機です」

東大の先生「やっぱり! 2号機は研究者の間でも、全く想像がつかないんです!」

作業員「2号機は中がどうなっているか、震災直後にどういう状況になったか、さっぱりわからないんです。1号機や3号機の爆発はある程度想像はついています。いろいろなパラメータをみたりして、恐らくこういった挙動でこういった事象になったんだろう、ということは推定されています。
 しかし、2号機はさっぱり。なぜ、爆発もしていないのに、あんなに大量の放射性物質が放出されたのか、燃料棒はいったいどうなっているのか。いろいろなパラメータから、恐らくメルトスルーはしていないのでは、と言われていますけどね」

東大の先生「そうですね、突き抜けてはないようなんですよね」

作業員「では、なぜあんなに大量の放射性物質が外に出ていったのかは全くわからないんです」
(2号機から放出された放射性物質は1、3号機と比べてケタ違いに多いの!)

作業員「事故直後の挙動の推定がつかないだけでなく、建屋の中に驚くほど高線量の部分があるのも2号機なんです。はっきり言ってしまうと、もし注水などに問題があり、冷却ができなくなる事態が起き、どうしようもない、といった過酷な状況になったとします。1、3、4号機ならば、決死隊が被曝覚悟で駆け込んで何とかすることができるんです。
 しかし、2号機は。2号機の建屋は、非常に線量が高いところが多々あるため、決死隊が駆け込んでも、作業する前に死んでしまう、問題の個所にたどりつけない可能性が高いのです」

 ……………そんなにシビアだとは。

作業員「だから、メタクラや地下貯水槽など、建屋外の構造物の作業など、些末な問題だと感じてしまうのはわかるでしょ、被曝はしますが、簡単に作業できる場所ですので」

********

4.おまけ

 とにかく、レベル7の原発事故はまだ継続中で、このままの状況だと、収束までたどりつかないだろう、なので、福島第一原発を東京電力から早く切り離さなければ、また日本が危機的状況になるのではないか、ということを広く伝えてほしい、とおっしゃっておられました。

 それは「いわきの初期被曝を追及するママの会」の方々にも伝えました。
 「やっぱり! もう冷温停止状態なんか早々と宣言してしまって! またもう一度、福島第一原発が大変なことになったら、どうやって子供たちを急いで避難、疎開させるかの計画など全く無いのに! いわきは原発事故の収束作業を支える地域でもあります。でも、何かあったら、子供たちだけは急いで逃がしてほしい。レベル7の事故が継続している以上、地元ではもっと注目していろいろ考えていくべきことです。作業員の方々の安全も、いわきの子供達の避難も、日本が汚染されないことも全部同じで重要なことですから!」

*********

5.おまけのおまけ

 そういえば、どんどん増え続ける汚染水は、最終的にアルプス(多核種除去装置)でできるだけ放射性物質を取り除いてから、海に流すそうです。

 2011年の暮れに、現場の作業員の方から「今日、アルプスの試験運転が始まったよ! これでできるだけ取り除いて、海に流す予定らしいよ!」と電話がかかってきたこともありました。
 すぐに統合会見で質問をしたら「そのような計画はありません」と東電松本さんはおっしゃっておられましたが。なかなか、アルプスの処理水を海に流す、ということが言い出せず、そして試験期間も長引いて、ほったらかしにしたまま、時間がすぎている、という印象ですね。

作業員「だから、1年も放っておいて、部分運転しかほとんどしなかったから、アルプスを実用段階にもっていったら、またすぐどこかが故障するんじゃないですか…」

 とのことでした。

 多核種除去装置といっても、トリチウムだけは取り除けないんですけどね!!
 とにかく、原発事故は全く終わっておらず、ますますひどい状況になる可能性が高いということ、それを世間のみなさんに知ってもらい、何とか国や社会を動かしてほしい、という作業員の方のお話でした。

【今週の針金】
東京電力の広報尾野さんですねん。作業員の方の似顔絵を作ろうとしたらマコちゃんに「アホか、せっかく匿名にしてんのに、何考えとんねん」と叱られましてん!

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地下貯水槽の濃縮塩水の漏えいが「些末なこと」って!? と思いましたが、
読み進むうちに「たしかに…」と頷いてしまいました。
野田前首相の原発事故「収束」宣言から約1年4ヵ月。
何一つ終わっていないし、解決していない。
目を背けて「なかったこと」にできたらどんなにいいか、と思うけれど、
そんなわけには絶対にいかない。
「国や社会を動かして」いくのは、私たち以外にあり得ないのです。

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おしどりプロフィール

マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。
ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。
マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。

ブログ:
 http://oshidori.laff.jp/
twitter:
 マコ:@makomelo
 ケン:@oshidori_ken
その他、news logでもコラムを連載中。

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