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「9条は日本人には“もったいない”」伊勢崎賢治

伊勢崎賢治●いせざき けんじ1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある

国会での議論もなく、気がついたら海外派遣されていた海上自衛隊の巨大な護衛艦。
海賊対策だし、警察行動だから、仕方ないか?と、
多くの人がそう思っていた今回の派兵について、
国際社会の紛争の現場を知る伊勢崎賢治さんは
「これ以上ない憲法違反。もう取り返しはつかない」行為だと厳しく指摘します。
伊勢崎さんの怒りを真摯に受け止め考えたいと思います。

ついに! 国益のために海外派兵をする国になった日本

 2009年3月14日にソマリア沖に海上自衛隊の艦隊が出港しました。まもなくソマリア沖に到着し船団護衛任務につくことになりますが、ソマリア沖は「実戦海域」であり、護衛艦は「戦闘艦」です。そして今回の派遣の目的は、「日本のシーレーン確保のため。日本の国益、実益のため」とはっきりと国会でも答弁されています。これはどういうことでしょうか? 

 日本はアメリカの対テロ戦争であるアフガニスタンのOEFにも、給油活動を行い参加しました。NATOにとってこの作戦の法的根拠は自衛戦争であり、法的にNATOとまったく関係ない日本が、言わば他人の自衛戦争に参加している。対テロ戦への貢献という「世界益」の大義があろうと、違憲行為です。しかし違憲の度合いから言うと、今回のソマリア沖への海自艦隊派遣の方が、格段に大きい。なぜなら私たちは、第二次世界大戦後、軍隊を外に出さなきゃ守れないような「国益」は放棄したはずだからです。極端なことを言うと、私たちの国に原油が入ってこなくなり、電気が止まろうが、それでも私たちは、軍事行動で国益を求めない、そう誓ったはずです。こうして見ると、曲がりなりにも「世界益」を掲げたOEF給油活動の方が、マシに見えます。

 今、当たり前のように、メディアや政治家は、「日本の船を襲う海賊だから取り締まるのは当たり前。我が国の国益のために自衛隊が出ていくのは当然」といった論調です。そして世論調査によると、9割の人が今回の派遣については、「賛成」もしくは「海賊だから仕方ない」と思っているそうです。一方で、憲法9条の改憲についての世論調査では、6割の人が9条は守った方がいいとう数字が出ていると聞きます。ということは、9条護憲だけれど、今回のソマリア沖の海自の派遣には賛成、という人がかなりの数、いるということになります。 そのような人は、いったいどういう考えなのか。私にとって、国家主義的なゴリゴリの改憲派よりも意識が遠い人たちに感じます。

もはや護憲派は「敗北宣言」をするべきでは?

 私は、立場上、9条護憲の皆さんの集まりから講演を頼まれることが多いのですが、たびたび面食らう場面があります。アフガニスタンやアフリカの紛争のこと、国連の平和維持軍の活動を説明した後、日本の平和貢献に話が及びます。すると、突然怒り出す人がいるのです。私は、「平和貢献には軍を出す以外に色々な方法があり、平和憲法をもっている日本は敢えて自衛隊を出さないことでそのイメージを更に強化し、他国にはできない貢献ができる」という意見なのですが、そういう人は、自衛隊を出す出さないを議論しなければならないような面倒な国とは付き合うな! つまり、アフガニスタンみたいな国と付き合うから日本は自衛隊を出さなければならなくなるし、自衛隊の存在価値を高めてしまう、ということらしいのです。

 自衛隊の海外派遣の必要なしという点では、私と同じですが、目的意識は180度違います。護憲派は、これまでカンボジアなど国連平和維持活動「世界益」の派遣にもちゃんと強く反対の声を表明してきました。しかし、小泉さんが現れて、アフガニスタンとイラクの対テロ戦争というあやふやな「世界益」への派遣になったのですが、その声は逆に小さくなっていきました。そして、今回のソマリア沖派遣、もろ「国益」です。戦後最大の違憲派兵に対して、反対意見は最小。「自分の国さえ良ければ」という「一国平和主義」に護憲派自身が陥ってしまっているのではないでしょうか。

 私は護憲派として「敗北宣言」をしようと考えています。つまり、9条は日本人にもったいない。ただそれだけのことだったのだと。(4月6日談)

●伊勢崎さんのこの件についてのコメントは、こちらで聞くことができます。
「ソマリアへ自衛隊 めちゃくちゃ違憲!」(アキラカテレビ)

「マガジン9条」においても、この派兵については「つぶやき日記」で、少し触れただけでした。法的根拠がどうなっているのか? というところで立ち止まってしまい、またほぼ同時に法案提出がされた「海賊対処新法」の危うさにすっかり注意を奪われており、今回、最も大事な憲法の理念をすっかり忘れていたのです。「日本は、戦後、自分たちの実益のために、軍事力を使わない」そう国際社会に約束をし、日本国民もそれを礎にこれまで日本という国を作り上げてきたはずなのに・・・。
 伊勢崎さんは、「もう遅い。手遅れ」と繰り返されましたが、まだあきらめるわけにはいけません。9条の理念とは? 解釈改憲がここまで広がってもいいのか? 一国平和主義でいいの? 改めて考えて議論を続けたいと思います。みなさんのご意見、お待ちしています。

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