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毛利子来さんに聞いた「インフルエンザ騒動をどう考える」

毛利子来●もうり・たねき1929年生まれ.岡山医科大学卒業。東京の原宿で小児科医院開業。子どもと親の立場からの社会的な発言・活動も多い。「ワクチントーク全国」元代表、「ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議」元副代表などを経て、現在は雑誌「ちいさい・おおきい・よわい・つよい」編集代表、『マガジン9条』発起人などを務める。著書に『ひとりひとりのお産と育児の本』(1987,毎日出版文化賞)、『赤ちゃんのいる暮らし』、『幼い子のいる暮らし』などがある。最近は、友人でもある小児科医・山田真氏との共著である『育育児典』(岩波書店)が、評判を呼んでいる。HP「たぬき先生のお部屋」

学校は次々と休校になり、観光地は修学旅行の取りやめで閑古鳥がなき、
町中のくすり屋さんのマスクが売り切れてしまうなど、
まさに日本中がインフルエンザパニック状況。
海外メディアからも失笑されているこの状況について、
医者の毛利子来先生はどう見ているのでしょうか?

◯新型インフルエンザって、ほんとうに怖いの?

編集部 この一週間は、まさに新型インフルエンザ騒動にふりまわされた感じでした。空港での物々しい水際作戦をはじめとし、国内での感染者が出た後は、テレビや新聞のニュースでは連日感染者数を発表したり、関西の学校が一斉に休校になったり、ようやく麻生総理自らがテレビCMに登場し、国民に「冷静な対応を」と呼びかけていましたが、今回の「新型インフルエンザ」は、医学的にそんなに特別なものだったのでしょうか? 通常のインフルエンザウイルスとどう違うのですか?

毛利 まず、呼び名の「新型」というのが言い過ぎです。今回のは、A型のN1H1であり、俗に言うソ連型の多少の変異株のものです。ソ連型のインフルエンザに対しては、日本人の多くの人が免疫を持っていますから、大流行するはずがない。メキシコで死亡者が多かったのは、これは推測ですが、たぶんかかった人の健康状態が良くなかったからでしょう。栄養状態が悪かったり、労働が加重であったり。そういった生活環境が悪かったのではないか、と思います。
 そもそもインフルエンザで死亡する場合は、ほとんどが二次感染によるものです。細菌性の肺炎や髄膜炎、脳炎をおこし、それが死因となります。かかった人の体力が落ちていると二次感染になりやすい。

 3〜4年前に日本でインフルエンザが大流行しましたが、そのときに死亡者が出たのは、70から80歳が多かったのです。年をとるとどうしても、体力が落ちますから。また、老人ホームで亡くなった人も多かったのですが、そこの施設を調べたところ、環境が劣悪だったんですね。大部屋ですし詰めで寝ている、看護が不十分であるなど。ですから、インフルエンザにかかった人の症状が悪化したり深刻な状況になるのは、その人自身のもともとの健康状態や、経済的な要因が大きいと考えます。

編集部 そういう情報はあまり伝えずに、「とにかくウイルスを入れるな」でしたね。

毛利 近代のヨーロッパに発生した近代西洋医学は、病気は、細菌やウイルスなど病原菌によって起こるとする病原体説なんですね。顕微鏡の発明によるところも大きいのですが、細菌学者のコッホ(ドイツ)は、その最大の利用者ですね。コレラ菌、ペスト菌などを次々と発見していき、これこそが病気のもとだとしたんです。コッホの研究によってそのような考えがまたたくまに広まったのです。がある時、コッホとは考えを二分していたペッテンコーファー(ドイツ)という公衆衛生学者が、コッホとの公開討論会で、公衆の目前でこんな実験をしたことがあるのです。ペッテンコーファーは、今でいうマスコミを集めて、コッホにコレラ菌を持ってこさせて、みんなのみている前で、致死量以上のコレラ菌を飲み干したんですね。そして一週間後に、俺が死んでいるかどうか確かめてくれ、と言ったんです。
 そして一週間後、ペッテンコーファーは、ピンピンしていました。つまり、彼が言いたかったことは何かというと、病気になるのは全て病原菌のせいばかりではない、人間の方の条件もある。体力とか、免疫力、生活水準、労働条件、それらの方が、病気の原因としてむしろ主ではないか、ということです。

◯病気が重くなる原因は、ウイルスそのものにあるのか?

毛利 私にもこういう経験があります。第二次世界大戦中、結核がものすごく流行って、軍の一個師団の兵士が結核にかかってみんな倒れてしまうということがよくありました。だから国は一生懸命に、結核対策としてBCGワクチンの開発をして兵士たちみんなに与えた。僕らも受けましたよ。しかし結核患者はいっこうに減らない。それはそうです。戦争中なのですから、つねにストレスにさらされているわけだし、栄養状態も悪い。それが、終戦後一年たったら結核患者は激減します。抗結核薬、ストレプトマイシンが効いたという言われ方もしましたが。しかし、もうその段階で、BCGワクチンは効果がないと言われていて、ワクチンによる予防を否定していたんですがね。

 僕らは、結核患者が激減した理由は、抗結核薬よりも、平和がもどり生活水準がだんだん上がってきたことだと肌で感じました。このように病気になるならないは、人体の側の条件、すなわち年齢や生活水準によるものが大きいという例は、いくらでもあるのです。

編集部 しかし、WHOはフェーズ5を発表し、世界的な警戒を呼びかけました。

毛利 WHOも先進国の専門家の思想にとりこまれているからでしょう。それは、どういう思想かというと、「病気(病原菌)はない方が良い。病気(病原菌)にはかからない方が良い」とするものです。ですから、徹底的に病原菌を遠ざけて、また患者を隔離しようとする。全ての病気は「悪者説」になっているんですね。
 でも僕なんかは、「風邪にかかりたくなければ、風邪にかかれ」と言ってます。例えば子供というのは、水疱瘡やおたふく風邪、はしかなどの感染症になって免疫機能を高めていくのです。ですから私は「新しいインフルエンザにもかかっておけばいい」という考えです。今回も60歳以上の方は、感染者が少なかったことが言われていますが、これは過去にかかって抗体を持っていたからでしょう。そういうことも世界規模で実証されているわけですから。
 余談ですが、小児科の医者はわりあい元気な人が多いのです。子供からしょっちゅう感染症のウイルスをもらっているから、免疫機能が上がるんじゃないかな。僕の個人的な体験からそう感じますね。

編集部 「インフルエンザにかかっておいた方がいい」と、テレビなどのメディアでは、聞いたことがありません。いかにウイルスを遠ざけるか、インフルエンザにかからないよう注意するかの呼びかけばっかりですね。

毛利 細菌生態学の第一人者ルネ・デュボス博士は「健康という幻想」(紀伊国屋)という著書の中で次のようなことを述べています。「病気はなくなるはずがない。なくなる時は、人類がほろびる時。ビールスと細菌と人類は共存しているのだから」。例えば、人間の身体だって、七兆もの細菌と共存しながら生きているのです。
 こんな実験報告もあります。生まれたてのうさぎの赤ちゃんを無菌室で育て、与えるえさも滅菌した。するとまもなく死んでしまうのだそうです。うさぎを解剖すると、腸と副腎皮質の成長が不良だったそうです。腸というのはもっとも細菌、微生物の多い場所です。腸内細菌が腸を育てているのに、菌を遠ざけてしまったので、生物がもともともっている機能がうまく働かずに、死んでしまったのです。そういうことも忘れて、近代科学はいきすぎなんですね。限りなく病原菌をゼロに近づけようとする。

◯現在のインフルエンザ対策は問題だらけ

編集部 そっちの方がよっぽど問題ですね。ウイルスを遠ざけるための抗菌グッズもそうですが、抗ウイルス薬のタミフルについても、世界の消費の80%が日本というのは、ちょっと異常に思います。不安をあおってビジネスチャンスにつなげている人がいるのではないかと思ってしまいます。

毛利 医者と製薬会社は儲かるでしょう。しかしタミフルの使い方については、もう一度ちゃんと考えなおさないといけないと思います。以前は熱が出たといえば、抗生物質でしたが、これがあまり効かなくなってきたということで、最近は抗ウイルスを使うようになったのです。たしかにタミフルは、熱を押さえるのによく効くようです。しかし、熱が出るというのは、身体の中でウイルスとたたかっているからであり、免疫力を高めるために行われていること。なので、その熱を押さえてしまったのでは、免疫がつかない、抗体ができずに、また同じインフルエンザにかかってしまうことにもなるのです。私は熱が出たら「おめでとう」と言いますよ。

編集部 特に今回のインフルエンザは微毒性とも言われていますから、かかっておいて、抗体をつけた方がいいぐらいですね。

毛利 「病気というのはどこにでもあるものだし、かかった方がその後、丈夫になる」というのが、私の考えです。それにウイルスの世界というのは、つねに大変異を繰り返しています。インフルエンザも常に新型ができていく、これは今に始まったことではありませんし、防ぎようがありません。鳥インフルエンザのH5N2は毒性が強いタイプですが、もちろんこれが秋以降に流行る可能性は、ゼロではありません。そして健康状態が悪い人がこれにかかると、亡くなることもあるでしょう。しかし今、言われている対策というのが、問題があると思います。
 例えば、ワクチンですが、これは原理的に考えて効くわけがない。ワクチン注射は血中の抗体は高めますが、粘膜の組織免疫はできません。
 そして今回も行われましたが、患者の隔離ですが、これは大きな問題ですね。もちろん、全ての隔離が必要ないとは思っていません。家族の中に心臓が弱いとか、疾患をかかえている場合は、ちょっとその人だけ別の場所に避難させておくとか、考えた方がよい場合もあるでしょう。しかし、今回のやり方は、明らかにやりすぎですね。

編集部 入院の必要などまったくない人を入院させたり、ホテルに閉じこめてしまったりと、人権侵害に近いものがありましたね。過去にもハンセン氏病など、誤った隔離政策を行ってきたのに、それを反省することもなく、隔離の思想はあまり変わっていないのですね。

毛利 そして「マスク」です。ウイルスは、あんなもの簡単に素通りしますよ。

編集部 そうなんですか! マスク売り切れの薬局が続出してましたが、それにしてもマスクしているのは、日本人だけだって、外国の新聞が報じたそうですね。

毛利 エチケットとか言って、「うつる病気はうつしてはいけない」という考え方が、常識みたいになっているからでしょう。衛生学という考え方が主流になっているからでしょうが、これが行き過ぎるとよりストレスを倍化させているように思います。

編集部 では、今回の新型インフルエンザ騒動から、私たちは何を学んだでしょうか?

毛利 たいていのインフルエンザは、かかって熱が出たとしても3日も寝たらなおります。私のようなことをいう医者は、主流ではなくなり取材されることも少なくなりましたが、「病気」やウイルス、病原菌と人間の関係について、もう一度、医者も含めて考えなおす時期にきているのではないでしょうか? 

(2009年5月23日談)

日本中がパニックと書きましたが、
よくよく見ればテレビや新聞のメディアが率先しておお騒ぎをし、
また舛添大臣が一人張り切っている、そんな印象でもありました。
市民はわりと冷静でさめていたかもしれませんね。
今回のインフルエンザ騒動について、法律の専門家は、こんな指摘をしています。
http://www.jicl.jp/urabe/backnumber/20090518.html
感染症への過剰反応についての警告と「感染症予防法」についてです。

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