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3人の論者に聞いた、今度の総選挙、「護憲派」はどう考える?どこに入れる?

堤未果さん(ジャーナリスト)

「政権交代」の先を見て短期・長期で政治を育てる

東京生まれ。国連婦人開発基金、アムネスティインターナショナルを経て、米国野村證券に勤務中9.11に遭遇。帰国後は、アメリカー東京を行き来しながら執筆・講演活動を行う。著書に「グラウンド・ゼロがくれた希望」(ポプラ社)、「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」(海鳴社)、「ルポ 貧困大国アメリカ」(岩波新書)。近著に『正社員が没落するー「貧困スパイラル」止めろ!』〈湯浅誠氏との共著〉(角川Oneテーマ21)、「アメリカは変われるか —立ち上がる市民たち!」(クレスコファイル)

 先日、アメリカでオバマ大統領の選挙応援キャンペーン中枢にいたという女性をインタビューしました。アメリカ国民の「戦争に貧困、もう沢山だ。ブッシュ政治と決別したい」という声がオバマ氏大勝利を導いてから半年後の今、彼らは現状をどう見ているのか。新政権下で戦費は70兆から80兆円に増え、愛国法は再承認され、カードの利率上昇廃止法案は通らず、ホームレスは急増している。政権交代によるチェンジが見えてこない状況に支援者たちは失望を隠せないでいます。でも何故?と沢山の問い合わせが彼女に来るそうです。こんな筈じゃなかったのに、と言う彼らの声が、今新しい問題提起をアメリカの有権者に投げています。

 アメリカは二大政党制ですが、実質的には2大保守というのが現状です。周りをとりまく企業やロビイストなどの力が非常に強く、本来対立軸が明確でなくてはいけない分野の問題について、どっちが政権を握ってもいいようにがっちり押さえこんでいる状態だからです。オバマは支援するが、アメリカで二大政党制は機能していないと彼女は言っていました。

「政権交代」が前面に出ている
今回の選挙のポイントは2つ

 前政権のやり方が継続している事実とは別に、私はオバマ勝利にはひとつ大きな意味があったと思います。それは「政権交代」そのものが有権者に与えた、自分達の政治参加が何か変化を起こせたのだという実感です。変化によって政治のダイナミズムが示され、国民の政治への関心を高めた事は、硬直状態だったアメリカにとって大きな前進でした。今日本でも「次の選挙は政権交代か否か」というキャンペーンが大々的にされていますね。自公か民主か? という二者択一が前面に出ている。私はここでのポイントは二つあると思っています。

 一つは第一野党の民主党への評価と、政権交代自体の意味とは切り離して考えること。長期一党支配だった日本で政権交代の最大の意義は「官僚を緊張させる」事だと思うからです。天下りや骨抜きの公務員改革、失われてゆく検察や警察、メディアの中立性、そういう危険な状態に対し私達がチェンジを起こし、政権政党と省庁との癒着構造にゆさぶりをかけるのです。国民の期待に応えなければ与党から落とされる危機感を広げる効果もあるだろうし、何より変化を起こす事で議会制民主主義の主役は私達国民だと示すのです。

 二つ目はじゃあ民主党に投票しても良くなるかどうかという部分。政策面での不安は沢山あるし、大事な分野で党内が統一されていないといった声がありますが、最大野党に不安があるという今の状態は私達の持つ「選択肢」、つまり選挙制度自体を徹底的に検証する時期だというサインです。アメリカではチェンジというスローガンに熱狂するあまりに、いつの間にかオバマVSマケイン以外の選択肢、他の候補者の情報が排除されていた事に殆どの国民が気づかなかった、と言ったのはある第三党候補者の広報部長でした。日本の総選挙について、こう聞かれました。

「そもそも小選挙区制という制度で健全な政権交代が起きますか?」

対立軸が見えない時こそ
少数政党の議席は大切になる

 今の小選挙区制度には唯一民意を反映する比例代表制がありますが、これについての議席削減を自民だけでなく民主党も選挙公約に盛りこもうとしていますね。私はよくネットで国会中継を見るのですが、第三党による国会での質問や、彼らの情報網、政策の内容などいつも感心しています。彼らの鋭い質問がなければ明るみに出なかった事柄も沢山あるのです。小選挙区制度を見直す為に少数政党の議席を増やすという選択肢もある。どうせ死に票になるとあきらめずにこの選挙制度を変えるためのステップととらえるのです。自民・公明でもこの選挙制度はおかしいと思っている人はちゃんといますし、党派を超えた連帯は「二大政党制完成」へのブレーキになる。少数政党が力を持つことで制度自体の見直しの可能性も出てくるでしょう。

 いま2大政党からはじかれる少数政党の政治家や逆に大政党内で息苦しさを感じている政治家、どちらの声も政治決定プロセスの中でどんどん小さくなっている。立法の過程が荒くなる程に、しわ寄せは私達国民に来ます。対立軸が見えない時こそ少数政党の議席は大切です。彼らが数を増やしてキャスティング・ボートを握れば、少なくとも一党暴走へのブレーキになるのですから。

 例えば民主党案の衆院比例定数80議席削減を実施すると、2007年参院選の得票結果から計算して、自民・民主が小選挙区と比例で計95%の議席を占有する事になる。少数政党支持の有権者にとっての代表権が奪われる事が何を意味するか。一党支配を崩すことに熱狂する間に、こうした案への検証を決して見落としてはなりません。

 護憲派の方から最近「今度の選挙で入れる所がない」と嘆きのメールを頂くのですが、一か所だけ見ることは選択肢の少なさに無力感を感じるという状態に自分を追いこんでしまいます。今私達は木より森を見る事が大事だと思うのです。特に社会の構造が、教育や働き方、老後の暮らしや医療といった分野における貧困が戦争に続いてゆく今だからこそ、例えば25条、26条、27条などの大切さも含めて相対的に一人でも多くの有権者に伝え、外から政治をゆさぶる力をつけてゆく。一度の選挙で社会は変わらないと焦らずに、10年、20年、100年単位で未来を繰り返しイメージし、伝え続け、何度も投票所に足を運ぶ。党だけでなく自分の選挙区の政治家にアクセスをし、彼らとの距離を縮める事で緊張感を与え、いい政治家に育てあげてゆく。その積み重ねが必ず国を変えるのだと私達自身がまず信じることで、無力感は超えられます。この総選挙を前に、有権者には短期と長期で未来を描く二つの目が求められていると思います。例え政権交代しても丸投げしたら元の木阿弥です。私達が底力を出さねばなりません。

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