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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.7
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フォッグ・オブ・ウォー
マクナマラ元国防長官の告白

2003年米国製作/エロール・モリス監督

ジョン・F・ケネディ大統領に請われて国防長官に就任し、ケネディ暗殺後、ジョンソン大統領の下でベトナム戦争を指揮したロバート・S・マクナマラのドキュメンタリー映画である。彼へのインタビューを中心に、当時の記録フィルムやイメージ映像がテンポよく挿入される。饒舌なマクナマラのペースに嵌められている気がしないでもないが、彼の言葉には読み取るべき歴史の教訓が多い。

マクナマラの最初の記憶は第一次世界大戦の戦勝を祝う人々の歓喜だった。当時のアメリカのウィルソン大統領は世界を巻き込んだ未曾有の大戦争を「戦争を終わらせるための戦争」と呼んだ。しかし、その後、さらに規模を上回る第二次大戦が勃発。マクナマラは太平洋戦争中、東京大空襲ほか、日本の主要都市への爆撃計画の策定に参加する。

戦後は大手自動車メーカー、フォードに入社。悪化していた経営を建て直し、1960年11月に社長に就任するも、その5週間後、国防長官に。

時代は冷戦の真っ只中だ。1962年10月にはキューバ危機への対応を迫られ、1965年からはベトナムへの軍事介入を強化するアメリカ政府の指針を忠実に実行する。前者では、政府が「敵(キューバにミサイルを配置したソ連)の身になって考えた」結果、戦争を回避できた。当時のソ連共産党書記長、フルシチョフの本音が、表向きの強気の姿勢とは裏腹に、アメリカと戦火を交えたくないことにあるとアメリカ政府は読んだからだ。

しかし、後者では敵の立場にたって考えることができなかった。ベトナム戦争は、アメリカにとっては冷戦の一環であったが、ベトナムにとっては民族独立・国家統一のための死に物狂いの戦いだったのである。アメリカはインドシナ半島で自由主義イデオロギーを堅持しようとし、ベトナムは反植民地闘争を展開した。

当時の状況を現在のイラク戦争に重ね合わせると、「歴史は繰り返す」という言葉が重みを増してくる。中東での戦闘が長引くほど、支払わなければならない代償は大きくなることは、頭脳明晰な米政権内≪エスタブリッシュメント≫なら先刻承知だろう。にもかかわらず、なぜさらなる泥沼へと足を踏み入れるのか?

戦争を終えることは、エリートの理性だけではできない。指導者による勇気ある決断がなければ――これが≪エスタブリッシュメント≫マクナマラの教訓である。

(芳地隆之)

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