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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.21
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戦争解禁

藤原帰一著/ロッキング・オン
「……理由は北朝鮮ですよね。『ま、そうは言っても日本は安全を米軍に頼っているわけだから、アメリカに反対するのは不利だ』と。それから『日本がここで積極的に協力すれば、アメリカの北朝鮮政策が強気に変わってくれる』。私は、これははっきり間違いだと思ってました。アメリカの政策ってそういうふうには決まらないんです。『協力してくれた。当然だよね。ところで北朝鮮は我が国への直接の脅威ではないから、優先順位を上げるつもりはない』が現実ですよ」

 ミュージシャン、坂本龍一氏との対談のなかで、著者はイラク戦争に関わる日本外交についてこう述べている(『SIGHT』2007年夏号。ロッキング・オン)。

 開戦前夜、現在、安倍政権の外交ブレーンとして名を連ねる評論家や学者は、
「フセインは大量破壊兵器をもっている。ゆえに危険なフセイン政権を武力で倒さざるをえない」と述べていた。
 しかし、大量破壊兵器は見つからなかった。すると、
「戦争によって、国民を抑圧していた独裁者、サダム・フセインが排除できた」に変わった。
 ところが、戦況は収まるどころか泥沼の一方である。そこで強調されるようになったのが、
「アメリカのイラク戦争を支持すれば、アメリカは日本とともに対北朝鮮で強硬姿勢をとってくれる。だから(イラク戦争支持は)国益にかなう」という理屈。だが、これも誤った。

 言論のプロとしての矜持があれば、廃業を宣言してもおかしくない変節ぶりだと思う。
 こうした言論人に反して、藤原氏は、開戦前から一貫して「イラク戦争は失敗する」と主張し、――著者の言葉を借りれば――残念ながら、それは的中した。

 9・11は本来、刑事犯罪として解決すべき事件であった。にもかかわらず、ブッシュ政権は戦争に訴えた。見えない敵に対する宣戦布告は、武力行使に対するハードルをぐっと下げた。藤原氏に言わせれば、「戦争が解禁」されたのである。

 イラク戦争はそもそもやる必要のなかった戦争であり、いずれアメリカは撤退せざるをえないだろうと著者は言う。ただし、中東は混乱状態のままだろうが。

 本書は『SIGHT』編集部が9・11直後から最近まで繰り返し行った藤原氏へのインタビューをまとめたものである。通して読むと、藤原氏の世界情勢を見る眼の確かさに感服するとともに、それを引き出した『SIGHT』の渋谷陽一編集長と鈴木あかね氏の問題意識の高さに敬意を表さずにはいられない。

(芳地隆之)

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