戻る<<

マガ9レビュー:バックナンバーへ

マガ9レビュー

090128up

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.88
トラフィック

※アマゾンにリンクしてます。

トラフィック

2000年米国/スティーブン・ソダーバーグ監督

 フィデル・カストロとともにキューバ革命を成し遂げたエルンスト・チェ・ゲバラを描く「チェ28歳の革命」が好評だという(私が観た映画館では空席が目立っていたが)。彼の挫折と死までを扱う第2部「チェ39歳別れの手紙」も間もなく公開されるとのこと。この映画とチェを演じたベニチオ・デル・トロに魅せられた方には、同じくスティーブン・ソダーバーグ監督とデル・トロのコンビによる本作品をお勧めしたい。

 アメリカとメキシコを結ぶ麻薬供給ルートを巡る物語だ。たとえば、麻薬撲滅担当の大統領補佐官にマイケル・ダグラス、カリフォルニア州の麻薬取締捜査官にドン・チードル、そしてアメリカと国境を接するメキシコの都市、ティファナで働く麻薬取締捜査官にベニチオ・デル・トロを配し、映画は彼らの行動を同時進行で追う。彼らは画面で交わることはない。場所の移動もワシントンDC、カリフォルニア、メキシコとめまぐるしい。

 さらには大統領補佐官の娘が麻薬中毒に陥り、夫が麻薬シンジケートの大物であることを知らず、当初は無罪を信じていた妻がやがて犯罪に手を染める。登場人物もエピソードもぎっしり詰まり、普通なら、とっ散らかって、収拾がつかなくなるところだろう。

 ところが画面からは、彼らの背後にある根絶困難な麻薬ビジネスの存在がすべての登場人物を結びつけているのがひしひしと伝わってくるのだ。ソダーバーグ演出が抜群の冴えをみせるのだが、この複雑なストーリーをまとめ上げた脚本家の力量にも感服する。

 冒頭、メキシコの荒野のシーンから、麻薬シンジケートの壊滅には挫折するも、かすかな希望を残してのエンドロールまで2時間半。私は上映時間を長いと感じないどころか、「まだ終わらないでほしい」と願うほどだった。

 「トラフィック」の後、シンジケートの大物の妻を演じたキャサリン・ゼタ=ジョーンズはハリウッドの人気女優となり、カリフォルニア州麻薬取締捜査官役のドン・チードルは「ホテル・ルワンダ」で難民を救う支配人を演じ、ベニチオ・デル・トロがチェ・ゲバラとして私たちの前に現れた。彼女、彼らのキャリアアップは、この作品における魅力的な人物像なくしてありえなかったと私は思う。

(芳地隆之)

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条