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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.92
ロジャー&ミー

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ロジャー&ミー

1989年米国/マイケル・ムーア監督

 天文学的な報酬を受けながら、従業員のレイオフには躊躇なく、あげく経営危機に陥ると、自家用ジェット機でワシントンへ出向き、公的資金による支援を請う。

 どういうふうに考えれば、こうした(恥ずかしい)行動に出られるのか?

 ビッグ3といわれるアメリカ3大自動車メーカーのCEO(最高経営責任者)たちの精神構造が垣間見えるかもしれない。そう思って、マイケル・ムーアのデビュー作品を観なおしてみた。

 ロジャーとは、ビッグ3のひとつ、ジェネラル・モーターズ(GM)会長だったロジャー・スミスのことである(2007年11月死去)。彼は合理化政策の一環として、ミシガン州フリントのGM工場の閉鎖を決定。これにより3万人の工場労働者が職を失うことになった。人口15万人の町にとっては死活的な問題である。しかし、GM経営陣は意に介さない。

 そこでフリント出身のムーアは、故郷の現状をロジャーに見てもらおうと、面会のアポイントをとろうとする。実現には壁が立ちはだかるが、ムーアの真骨頂は、目的を果たすことよりも、その過程で出会う人々をスクリーンに登場させ、彼(女)らの置かれた現実を浮き彫りにするところにある。

 失業したため家賃が払えず、町の保安官代理によって家から追い立てられる人々の姿は、サブプライムローンで購入したマイホームを手放す人々のそれと二重写しだ。GM工場に勤めていた夫を事故で亡くした女性が、ウサギをペット用あるいは食用として売って糊口を凌ぐ一方、有閑マダム風の初老の婦人たちは早朝ゴルフに興じる。

 いまにいたる新自由主義経済の問題は、この映画がつくられた1980年代のレーガン政権時に生れていたのである。

 軽やかに取材対象へ切り込んでいくムーアの手法はその後の「ボーリング・フォー・コロンバイン」、「華氏911」、「シッコ」でますます磨きがかかっている。だが、正直言えば、あッと驚く事実と皮肉たっぷりのユーモアでたたみかける映像はときに扇動的で、疲労感を覚えることもある。

 できれば見終わった後も、冷めた頭と熱い闘争心は保っておきたい。その点、終始、落ち着いたムーアのナレーションとともに進み、「ぼくたちは世界を変えられる」との希望をもって終わるこの映画が、私はムーア作品のなかでは一番好きだ。

(芳地隆之)

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