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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.108

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大不況には本を読む

橋本 治/中公新書ラクレ

 著者の新刊タイトルを目にしたとき、「読書の復権」をうたったものだと思った。不況のときこそ、日本人は本をたくさん読んで、自分自身を見つめ直そうという内容なのだろうと。

 ところが、本書の大半は、英国で起こった産業革命以降、世界で貿易が盛んになっていくなか、日本経済がどのように歩んできたかを語ることに費やされている。

 著者によれば、武士階級が「君臨すれども統治せず」だった江戸時代、もっぱら商売に集中していた町人気質は、黒船来襲や第2次世界大戦の敗戦を経ても、連綿と生き続けていたという。彼らの特徴は「政治に口は出さないから、商売は好きにやらせてくれ」。戦後の日本はせっせとモノをつくって、海外に輸出し、儲けたお金は貯金した。しかしアメリカなど自由貿易を原則とする国々は、日本に「お前たちはそんなに稼いだのだから、俺たちのモノも買え」と言い、日本が高い関税をかけて保護してきた農産物市場の開放を要求してきた。

 そしていま、世界中に輸出してきたモノが売れなくなり、日本はどうすればいいか途方に暮れている。

 経済は利益なるものがグルグル回ることで成り立っている。それがグルグル回れば、回るほど景気がいいと言われるのだが、昨年の米国発経済危機は、もはや利益がグルグル回る時代ではなくなったことを示している。

 アメリカではオバマ政権が米国製品の購買を義務づける「バイアメリカン」条項を打ち出した。これは各国から保護貿易主義だとの批判を浴びたが、著者に言わせれば、国内だけで完結できる「自立した経済」でもある。

 右肩上がりの経済の時代は終わったといわれて久しい。ところが打ち出される経済政策は経済規模の拡大を前提としたものばかり。本当は「これまでの経済成長が限界に達してしまった世界でいかに生きていくか」を問うべきなのに。

 それができないのは、私たちが自分たちの来し方を振り返ることなく、ここまできたからだろう。私たちはどこで間違えたのか? 別の選択肢がなかったのか? それを考えるために本を読む。

 出版不況といわれ始めたのは、文芸書が売れなくなり、ビジネス指南書やハウツー本など、書き手が読者に教えを開陳する類の本がベストセラーに名を連ねるようになった時期と重なっている。しかし、読書とは「著者はこう書いているが、私はこう思う」というように、行間を読んだり、書かれていないことを考えたりする行為でもある。 

 そんな読書を始めたら、世界がちょっと違って見えてくるのではないか。そんなわくわくした気持ちを抱かせてくれる読後感だった。

(芳地隆之)

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