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マガ9スポーツコラム No.021

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  みんなが大好きなスポーツ!「マガ9」スタッフだってそうです。
だから時々、メディアで報じられているスポーツネタのあれこれに、
突っ込みを入れたくなったり、持論を展開したくなったり・・・。
ということで、「マガ9スポーツコラム」を不定期連載でお届けします。

四輪駆動の泳ぎとは

「お前の泳ぎは大人しい」

 高校時代に所属していた水泳部。平泳ぎを専門にしていた私の泳ぎを見て、先輩がつぶやいた。この種目に自信のあった私にはショックな言葉だったが、事実、プールでの本格的な練習が始まって1カ月が経っても(高校に室内プールはなかったので、泳ぐトレーニングは6~9月の4カ月間に限られていた)、私のタイムは縮まらなかった。

 そこへ水泳部の部長がふらりと現れた。彼は物理の教師で、普段はあまりプールサイドに姿を見せなかった。私は「名ばかりの水泳部長」だと思っていた。

 部長はしばらく私の泳ぎを見ていた後、「“お上品”だなあ」と笑って、私にプールサイドへ上がるよう命じた。そして「そこにうつ伏せになれ」と言うと、私の両足首をつかみ、「お前のキックは横に広がりすぎなんだ」と、膝を曲げた後、縦に叩きつけるように動かした。感覚的にはバタフライのドルフィンキックの動きに近かった。

「腕の動きも(横に)広がりすぎだ」

 今度は私を立たせた部長は、腕の動きを指導した。両腕を力強くコンパクトに自分の胸の下までひきつけ、手のひらを返した状態で水面に出す。それからぐいと前方に伸ばせという。

「両手をひきつけたとき、お前の顎の下から水が“どばっ”と湧き上がるくらいじゃないとダメだ」

 私の平泳ぎは、両腕、両足が無意識に外へ広がり、「蛙泳ぎ」に近くなっていた。腕の掻きと足のキックの動きを身体の縦のラインに近づける。息継ぎは、顎を引いたまま、腕を引きつける勢いで上半身が水面から浮き上げるように――それを心がけて練習を続けていると、やがてタイムが縮まってきた。「泳ぎが大人しい」とも言われなくなった。

 以上は学校の部活動レベルの話である。その程度の経験しかない私が語るのは大変おこがましいのだが、4月13~18日にかけて開かれた水泳の日本選手権出場に当たって、北島康介選手が腕の「引力」を強化しているとのニュースを見て、驚いた。

 北京オリンピック後、米国ロサンゼルスに活動拠点を移し、南カリフォルニア大学で練習する北島選手は、掻く力をつけることに集中していたという。

 北島選手は決して体格に恵まれたスイマーではない。ライバルである米国のブレンダン・ハンセン選手の身長は183cm、体重は86kg。北島選手は178cm、73kg。リーチにも差がある。

 フィジカルな差をどう克服するのか。

 北島選手をはじめ、多くのトップスイマーを育成しているヘッドコーチの平井伯昌氏は、かつて北島選手の泳法を「四輪駆動」と表したことがある。欧米における平泳ぎのトレーニングは、腕の掻きに重点が置かれるそうだが、平井コーチは「掻き」と「キック」が最大限の威力を発揮できるフォームを、北島選手とともに考え出した。それがアテネ、北京の両オリンピックにおける100m、200m平泳ぎの金メダル獲得に結実した。

 それでも北島選手はまだ改善の余地があるという。日本選手権では50m、100m、200mとも20才の立石諒選手が制したが、苦手とされる50mの準決勝で北島選手は日本新記録を出した。

 自由形や背泳ぎを見ると、速い選手ほど、スムースに水に乗っているのがわかる。たとえば入江陵介選手の背泳ぎは――今回は本人の納得するタイムではなかったようだが――、水の抵抗力を削いだ無駄のない美しいフォームだ。

 一方、これらの種目に比べてスピードの劣る平泳ぎだが、息継ぎ後に頭が両手とともに水の中に突っ込んでいくような動きはとてもアグレッシブである。

 北島選手の「四輪駆動」がどう進化していくのか。そして立石選手らが五輪メダリストをどう迎えうつのか。今後の展開が楽しみだ。

(芳地隆之)

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