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こども医者毛利子来の『狸穴から』:バックナンバーへ

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「マガジン9条」の発起人の1人でもある小児科医、「たぬき先生」こと毛利子来先生。
お仕事や暮らしの中で感じた諸々、文化のあり方や人間の生き方について、
ちょっぴり辛口に綴るエッセイです。

こども医者毛利子来の『狸穴から』(10)

もうり・たねき(小児科医) 1929年生まれ.岡山医科大学卒業。東京の原宿で小児科医院開業。子どもと親の立場からの社会的な発言・活動も多い。「ワクチントーク全国」元代表、「ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議」元副代表などを経て、現在は雑誌「ちいさい・おおきい・よわい・つよい」編集代表、『マガジン9条』発起人などを務める。著書に『ひとりひとりのお産と育児の本』(1987,毎日出版文化賞)、『赤ちゃんのいる暮らし』、『幼い子のいる暮らし』などがある。最近は、友人でもある小児科医・山田真氏との共著である『育育児典』(岩波書店)が、評判を読んでいる。HP「たぬき先生のお部屋」

ものいおうにも

 このごろ、ものがいいにくくなってきた。
 それどころか、いえなくなってきた。

 いや、およそは、「言論が弾圧されている」とまでは感じない。だれもが黙って従うことを強制されているわけでもなさそうだ。
 現に、なにかと文句をつける人は、けっこう、多い。「クレーマー」といわれる常習者さえ増えているくらいだ。

 ただ、そうした文句は、たいてい、学校とか役所の窓口など立場上強くはでられない相手にだけ向けられている。それでいて、「お偉いさん」など手強そうな相手にはびびっているみたいだ。

 だからこそ、強い立場にある人ほど、いい気になって威張っていられる。とりわけ、行政上の権力を持っている人とか高度の専門性を自負している人は、庶民を見下す性行が強い。

 そのためだろう、たとえば医療では、素人が予防接種を受けないとか薬は飲まないとでもいおうものなら、たいてい、医者からすごい剣幕で怒られる。いくら自分なりの理由を述べようとしても、耳を貸してはくれまい。
 そこにあるのは、上意下達だけ。喧嘩になりようもないのだ。

 ならばと、ぼく「たぬきメ」が、けなげにも、そういう素人の代弁をしようと努めても、事情は一向に変わらない。
 どうやら陰でブツブツいっているフシが伺えるが、少なくとも表向きは無視されるだけだ。
 きっと、「たぬきメ」が一介の町医者に過ぎないからだろう。「博士号」今は「認定医」というらしいが、その資格を持たないうえ、学会にも顔を出さないヤツなど、まともに相手にすることはない。なにをほざいても、黙殺すればよい。そう考えているらしい。まあ、「金持ち喧嘩せず」といったところか。

 それでも、四、五年前までは、新聞などマスコミが、ときどきではあっても、取材にきてくれてはいた。
 ところが、それも、最近はほとんどきてくれなくなってしまった。とりわけ大勢を占める医学の思想と医療の技術に対する批判は、世間に訴える機会を奪われている。

 そのために、便秘しているような不快感を禁じ得ないでいる。
 まさに「物言わざれば腹ふくるる」状態だ。

 同様に「腹ふくるる」状態にあるお人は多いのではなかろうか。

上意下達がはびこりやすい医療の世界だけに、
いろんなことに「もの申し」てくれる毛利さんのような存在は、
ますます貴重なはずなのですが。
とりあえずはこの『狸穴から』では、
「ふくるる腹」を少しでも解消していただきたいもの。
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